第71話「最終局面へのステップ」前編(改訂版)
第三十一話「最終局面へのステップ」前編
「おのれぇっ!!鎧も着込まずに一騎打ちを仕掛けたのは逃げる時の軽量化ではなくこの為かっ!!」
黒い鎧兜姿に、額から鼻まで覆った黒い仮面を装着し、露出した
「だが……慌てる必要は無い、苦し紛れだ。浮いてきたところを射れば良い」
とはいえ、黒仮面の軍師も当然、悔しがってばかりでは無かった。
自身が率いる騎馬兵達に水面に向けて弓を構えさせつつ、”それ”を待つ。
「魚でもあるまいし、水底に逃げ込んでもそれは一時の…………」
バシュッ!
「ぬっ!?」
巫山戯た包帯男”鈴木
バシュッ!
バシュッ!
バシュッ!
バシュッ!
わぁぁぁぁぁぁっっ!!
おぉぉぉぉぉぉっっ!!
当然だが、
しっかり閉じられた城壁の上から矢と怒声が降り注いでいた。
「ぬぅっ!耐えろ!ほんの数分だ、
ガッ!
ガキィ!
ドスゥッ!
金属で補強された長方形の板に、次々と
「…………」
弓を構えた騎馬兵と自身は、その下でジッと耐える形で好機を待つ。
「…………」
バシュッ!!
バシュッ!!
バシュッ!!
バシュッ!!
ガツッ!
ガキィ!
ドスゥッ!
「ぐわっ!」
「ぎゃっ!」
激しい矢の雨が降り注ぐ中、
「ふはははぁぁーっ!!貴様らの性根と同じく貧相な傘だな!そんなボロ傘ではこの
刻んだ年輪よりも遙かに多彩に顔の面積のほとんどを占める
「ぐっぬぅぅ……言わせておけば、弱小国の老いぼれが!」
継続する弓の雨に
「何故だ!何故浮いて来ぬ!?よもや溺れ死んだ訳では……」
ガツッ!
「ぎゃっ!」
ドスゥッ!
「うぎゃっ!」
そうしている間にも掲げた盾の隙間から矢は兵士を襲い……
天から無数に打ち込まれる矢の勢いに、掲げた盾ごと潰れる兵士が続出していく。
「
「……」
暗い水面を覗き込んでいた
「こ、後退……速やかに距離を取れ」
そして、その後も数秒ほど未練がましく暗い水面を睨んでいた黒い仮面の武将は、口惜しそうに命令を出したのだった。
――
―
「この
長い髪をアップに
「いや……ゼーゼー……あんなに……ハーハー……深いとこに入り口が……ゼーゼー……ある……ハーハー……とは思わなかった……」
「あらあら、
それも事前にお伝えしたでしょう?と言わんばかりの笑顔で彼女は、俺に替えのタオルを差し出す。
「ああ……サンキュ……ハーハー……」
俺こと、鈴木
全身水浸しで……
禄に着替えもせず……
司令室の椅子に腰掛けて、既に水を吸って雑巾のようになったタオルを女性に渡す俺は部屋で働く士官達の注目の的……
「……」
「……」
……では無かった。
てか、誰も目を合わせてくれない!
忙しいのは解るが不自然に俺から目を
「…………」
――む、無理も無いか……
ただでさえ得体の知れない新参の”顔面包帯男”が、席を外したかと思ったらずぶ濡れで帰還……
嫌だ……こんな上司の下で働くのは嫌すぎる!
「うぅ……」
俺はなんとも言えぬ疎外感の中、唯一そんな男に微笑みかけ甲斐甲斐しく世話までしてくれる
「けど、
ようやく息の整ってきた俺の言葉に、目の前の
「普通死にます、ふふふ」
「…………」
――いつも通り”なんて良い笑顔”なんだ……
――てか、その言葉でその顔は……
俺が未だ知らぬ
「お顔、不快でしょう?別室で巻き直しましょう」
微笑んだ女神は、ちょっと得体が知れない性格を除けば、実に気が利く良い女性だった。
「ああ……けどその前にやっておくことがある」
俺は勿論、顔にベッタリと張り付いた布がこれ以上無いくらいに気持ち悪くはあったが、それよりも優先度の高い用事があった。
「正門の戦況はどうだ?」
打って変わって、真剣味を帯びた顔になった俺の質問に
そして補足するように、右翼部隊、左翼部隊の準備もほぼ整ったと付け足した。
――正面部隊……
――右翼、左翼部隊は、
――そして敵本軍……今回の
反対側に当たる城東側の
残りの
「良し良し……とりあえずは想定通りか」
俺は頷いてから作戦図ともいえる
「
ともすれば油断しきった顔ともとれる俺の納得顔に、
――
俺はその言葉をさらりと聞き流し……
「
「はい、畏まりました」
質問に答えない俺にも、
「……」
――全く良い補佐官だ……いや
とにかく、出来た女であることには違いない。
「…………
俺はそういった感じで、多少の罪悪感?居心地の悪さから、軽く補足していた。
「畏まりました。それは心強い事です……ふふ」
そうして
――ほんと……大した女だ
俺は、必要以上に自己主張をする事無く、争う事無く、自らの意図する結果を引き出すこの女性に、様々な人材を擁する俺の周りにもちょっと居ないタイプだと……本当に感心していた。
「そうだ、そろそろ最終局面だから、彼女の準備も……」
俺がそんな目前の
ザザッ!
ザザッ!
相変わらずの忙しさで雑然としていた司令室内の空気がガラリと変わり、
そこに居た人員全員が背筋を正して一定方向を向き敬礼する。
「……」
目の前で頭を下げていた
「皆、ご苦労様……戦況はどう?」
司令室入り口に立った一人の目を引く美少女の姿。
俺も直ぐにそちらを見て、立ち上がり敬礼をした。
「……どうも、我が麗しの姫君。戦況は見事なまでに
そう言って不敵に笑う包帯男の言葉に、黒髪の美少女は一瞬だけ眉を
「ほんと、真面目にできない男ね……ええと?」
瞬時に状況を察した聡明な美少女は、そう言って
「はい、”鈴木
そして
「ふふ……」
刹那、すっと彼女の暗黒色の瞳が細められる。
――ゾクリッ!
俺を含め、その場にいる男連中……いや、女も含めて全員がその仕草に、危うい程の美しさに息を呑んでいた。
「鈴木
そうして希なる美姫、暗黒のお姫様、
第三十一話「最終局面へのステップ」前編 END
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