第68話「一騎打ち」前編(改訂版)
第二十八話「一騎打ち」前編
その軍編成の殆どが突破力と機動力に突出した”
その場所はこの
「
黒い鎧兜姿に額から鼻まで覆った黒い仮面を装着し、露出した顎には立派な髭を蓄えている男……
果たして、黒仮面が軍師の言通り、最強国
そしてその網の中央奥に二人の騎馬武者が
「うむ……あの包帯男、聞かぬ名であったが対戦相手がこの
天を突くような二本の直角な角を生やした特徴的な造りの兜を被った
「さてそれは……しかし、あの鈴木
「ふん、そんな約定が守られようか?
二本角兜の将、
「いや、それならそれでも一向に構いますまい?自ら一騎打ちと大言壮語しておいて、そんな卑怯を行うなら城に
そして自信たっぷりにそう言う。
「確かにな……」
そして、
「仮に
よりにもよって今から一騎打ちをする予定の将の前で”こちらに不覚”……つまり自分が負けた場合という箇所に眉をしかめた
「”
木製の台座の上に垂直に建つ人胴程の柱に、両手を上げさせられて吊り下がった血塗れの若い女。
「……う……くぅ……」
衣服の類いを殆ど剥ぎ取られ、血に汚れた下着姿で拘束された女は、時折、苦悶の息を猿轡の隙間から漏らしていた。
――
ゾワゾワと……先程からずっと、包囲する兵士達は落ち着かない空気だ。
虜にされた
「まぁそう言われるな、器量良い女の……これほどの妖艶な姿を見せつけられた兵士達にとって働きに応じる褒美は必要ですぞ」
虜にした敵の女将軍を餓えた兵士達の褒美とは……
「…………」
それが味方の士気を上げ敵軍の士気を下げさせる戦術の一環というのなら是非もない。
ギ……ギギ……ギィィィーー
旺帝の二竜がそんなやり取りをしている間に、
城門の厚い厚い大扉がゆっくりと降りて――
ガッガァァーーン!
濛々と舞う砂埃を伴って目前の堅城、
ヒヒィィーーン!!
躊躇など微塵も無い!
その堀に架かった鉄扉の跳ね橋を一気に駆ける一陣の風!
それは旺帝軍の二人が言うように罠に飛び込む野鼠か、
それとも、愚かなる蛮勇の士か、
ダダダッ!ダダダッ!
――
「来たか……しかし」
「本当に単騎でとは……それに鎧も着込んでいないようだが?余程肝の据わった……いや、只のヤケクソか」
「いいや、
ダダダッ!ダダッ!……タッ……
――
やがて到着した騎馬は、遠巻きに前方左右と三方を取り巻く
「…………」
微塵の躊躇も無く突き進んだ騎馬の戦士は、顔面を包帯でグルグルに覆った男。
旺帝軍の二武将の前、数メートルで馬を止めた奇抜な包帯男は、馬上から一度、グルリと廻りを見ましていた。
――将は二人か……一人はあの時、城門前に馬を駆ってきた黒仮面で、確か
俺は敵中にて目前の将軍二人を見て考えてみたが……
まぁいいか、”
そう考え直して、二人の
「先ずは
「…………」
「…………」
俺の名乗りに二人の男は顔を見合わせた後、角兜の男がズイッと前に馬を出す。
シャランッ!
「我が名は
勢いよく腰から刀を抜き放つ角兜。
――
シャラン!
俺は表面上では頷いて応じ、自らも腰の愛刀”
密かに注意は台上の
「名乗りを済ませた以上は貴殿如きに時間は惜しい、直ぐに始めさせて貰うぞっ!」
二本角の兜を被った男は、そう言い捨てると馬の横腹を蹴った!
ヒヒンッ!
剣を振り上げ、一気に間合いを詰めてくる
ブオォン!
シュオン!
「……」
ヒヒィィーン
すれ違いざまの二撃を手綱を引いて右に避け、下がって
――流石、音に聞く”
しかし俺の意識は走り抜ける白刃より、この瞬間も
「……」
――両手は……拘束具で
ドシュゥゥ!
通り抜けた角兜男が直ぐに馬体を返し、今度は突きを放って来た!
「ちっ!」
ガキィィィーーン!
俺はそれを自分の刀で上に
「もらったぞぉっ!鈴木
ドシュ!
一刀目の大太刀を防いだ無防備な俺の喉元に、今度は短刀が突き抜けるっ!
「ちっ!」
――うっさいな、角兜……こっちは分析中で忙しいんだよっ!
スッ……
「な、なにっ!」
絶対必中だと思ったのだろうが……
俺がそのまま馬上で後ろに倒れた為、
――よっと!
グイッ!
「ぐっ!ぬおぉっ!?」
そして馬上で限界まで仰け反ったていた俺は、そのまま身体を横倒し、相手の突きで出た袖を掴んで諸共に馬下に引きずり落とそうとする!
「ぐっ!ぬおぉぉぉぉーーさせぬぅぅっ!」
ババッ!
ダダダッ!ダダダッ…………
落馬寸前の
「はぁはぁはぁ……こ、こしゃくな……鈴木……
乱れた息を吐きながら、馬上で俺と再び対峙する二本角兜男。
「……」
俺はそれを確認しながら、よっこらせと体勢を戻した。
「いい加減、名前くらい覚えろよ……」
俺はそう言いながら、正面の敵……本来の相手に遅まきながら意識を向ける事にしていた。
――
俺がこの一騎打ちに集中せずにいたのは、この後で1秒でも早く速やかに
ただでさえ20秒しかないのに、一騎打ちが終わってから算段したのでは……
カウントダウンが始まってからでは時間が勿体ない。
「う……ぁ…………」
苦しげに吐息を漏らす女……
あの
意識が完全に失われていれば、荷物を運ぶように彼女を救出しなければならなかったが……
それはなんとか避けられそうだ。
――助かる、意識を失った人体はその体重以上に扱いにくいからなぁ
「貴様ぁっ、先より何を余所見している!それとも、もう終わりかぁっ!!」
イマイチやる気の無い様に見える俺に、角兜はご立腹のようだ。
無理も無いか……
一騎打ちをしかけたのは俺なのに、この対応じゃなぁ……
いや、これは俺が全面的に悪い。
「悪かったな……ついつい
「貴様っ!!」
窮地のはずの俺が放った不真面目な態度に、その場の男達の気配が殺気立った。
「ぅぅ……ぁ……ぅ……」
あと、
「どこまでも
怒号を放つ二本角兜……
――おおっ!やっと俺の名前を覚えたのか、おっさん!お利口お利口……
「けど……なっ」
「……!?」
「けど、もう終わりだ。準備は整った」
俺はニヤリと笑った後、この一騎打ちで初めて……
自分から愛刀を敵前に構えて見せた。
第二十八話「一騎打ち」前編 END
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