第65話「天都原軍もう一人の天才」(改訂版)
第二十五話「
つまりは
――
兵法と剣術を以て王家に仕える軍の中枢たる家柄で、
「えっと、正面の敵軍……そうだ、なんて呼ぼうか?同じ
そう言って無邪気に笑う爽やかな青年。
「
そして無邪気な主の質問に渋い表情で首を横に振った中年の武将は、テーブル上に広げた作戦図を指さして指示を催促する。
「そうかなぁ……呼び名大事だと思うけどなぁ……」
だが肝心のその主の態度は何処吹く風だ。
整った容姿の爽やかでどことなく浮世離れした人物。
そして二十五歳になった現在、彼は国の重臣であるという他にも
まさに天才という呼び名を欲しいままにする人物。
しかし、生粋の軍人でありながら普段は
「
「あっ!」
中年家臣が拳に力を
「
「あ、ああ、ごめん、ごめん……ちょっとね、思いついたんだ」
「思いついた?何を?」
不可思議な顔を返す家臣の顔をズイッと覗き込み、”にたぁぁー”と
「”
「ま、まぁ……ですが、
中年武将は戸惑いながらも答える。
この戦いは建前上は……
病弱な
そのためには一時的に王である
王太子、
正直それを鵜呑みにしている将兵は、良くても半数も無いだろう。
それ以外の者は……
戦国の世にあって、大国
王太子にして王位継承権一位、国内最大の武力を誇る北伐軍総帥、
公爵令嬢にして王位継承権六位、軍総司令部参謀長、
その二人の覇権争いであって、これは
道理よりも正義よりも、結果……最後に大国、
王が病弱で事実上権力を行使するのが困難な現在の
「あの見目麗しい
しかし、自家の家臣が見せる心配などお構いなしで……
「うるわしの……そうだ!”麗しの黒き美姫軍”!これがいいよっ!」
とびきりの案を思いついたとばかりに、ビシリと中年武将の顔前に指を指し示す
「それではまるで敵を称えているようでは無いですか……」
「そうかなぁ?」
「そうです、今は”
「でも美人なんだよなぁ……とびきりの」
家臣の言など何処へやら、
「そ、それよりも作戦指示を……敵正門を守るのは元”十剣”……あの
「…………」
「
相変わらず上の空の主人に、堪りかねた中年家臣が荒い声を上げときだった。
「ここと、ここと、そこに五百ずつ……あと、城門前にあからさまに展開する中央前部隊は時間稼ぎの罠だから放置で……ああ、それと」
「っ!?」
直前まで心ここにあらずといっった顔をしていた青年は、サッサと次から次へ戦略地図の数カ所を指さし、極めて的確な指示を出す。
「うっ……では、
中年家臣はなんだか納得いかない表情を浮かべながらも、彼に仕えて長い事もあり、正直もう馴れたというように残った問題を尋ねる。
「それは……そうだなぁ、兵力はこっちが圧倒してるんだから力押ししても良いけど、それも芸が無いし味方の被害は出来るだけ小さくしたいしね……当面は
「確かに……
家臣の反応に、上機嫌でウンウンと頷いている
「が……それでは奴等に見す見す手柄を恵んでやることになるのでは?」
しかし、大まかなところでは賛成でも家臣は最後にそう付け足す。
これだけ苦労して露払いに利用される……
中年家臣の尤もな言葉に、青年はニッコリと笑って見せた。
「元”十剣”
「?……寡兵の敵ぐ……”麗しの黒き美姫軍”が?」
中年家臣は、敵軍と素っ気ない呼び名を発しようとした瞬間に曇った青年の顔を見て、瞬時に彼が提案したばかりの馬鹿馬鹿しい呼称に言い直した。
正直、こんな下らない事で、ここでまた彼にへそを曲げられては話が進まない……
中年家臣はそう考えたのだろう。
どこの世界でも中間管理職は大変だった。
「寡兵だけども、だからこそ準備は万端だろうね。先の見事な伏兵戦術をさらに再利用してそれを元に情報網まで構築しているみたいだし……流石は”
「…………」
中年家臣は、そう言って笑う主を見て黙る。
この青年は……
我が主ながら”
「ああ、そうだ、
そして中年家臣が改めて主である青年に感心している最中にも、彼は次手を示す。
「
「そうそう、
聞き返す家臣の言葉に
中年家臣は苦々しく笑いながらもこう応えたのだった。
「それは……容赦がないですなぁ……」
――
―
――
世界が一度、
「城門前防衛戦の
「右翼方面、
「そうか……
指揮官たる俺、鈴原
情報が大量に流れ込み、対応に走り回る
「
そして絶妙のタイミングで香りの良い紅茶と、ふわふわのサンドウィッチが作戦指揮をしている俺の前の机に置かれる。
「ああ、ありがとう
俺に
「はい、予定通り前線への潜入に成功したとの事です。あと、
「…………」
――
「そうだな、では……」
俺が
――ガタ、ガタッ!!
二人の兵士に肩を借りる形で、ボロボロの少女が司令室に姿を見せる。
「ふ、
何事かとそちらへ視線をやった
――
黒髪でおかっぱ頭の少女は、小さい
「……なな……こ?……かえってきて……たの?……ううん……そ、それより、ひ、姫様……は?」
満身創痍……
少女はそれでも
「何があったの
「お、
ドサリッ!
そこまでで、その少女は床にへたり込んでしまった。
「……はぁ……はぁはぁ……え……ん……ぐん……を……はぁ……はぁ……」
既に立ち上がる力も、言葉を話す力さえ出し尽くした少女は、下を向いて肩を上下に呼吸を繰り返すだけだ。
――
床にへたり込んだままの
「傷は浅いものばかりかと……しかし疲労が尋常ではありません」
俺は頷いて黒髪のおかっぱ少女が見事に果たした仕事に応える。
「解った、直ぐに援軍を向かわせる。
――
どうやらそこでは俺の想像する以上の激戦が展開されているようだ。
「……」
――直ぐに援軍を……か、
この様子では既に
俺は最悪の事態を想定して策を練り直す。
――
そして俺は
「
「っ!?……さい……
「ああ、嫌な予感がする」
俺は用意していた策を確認するため、そして何よりもこの嫌な予感を払拭するため、自らそこに足を運ぶことを決断していた。
第二十五話「
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