第27話「無垢なる深淵と南阿の英雄」(改訂版)
↓京極 陽子のイラストです↓
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第二十七話「無垢なる深淵と
「……」
前線にて
それどころか、
「
「……」
――退く?
有り得んき……この戦は
無理に無理を重ねて集めた兵じゃ……それを……
「
「それ以上は言うなや……
「うっ……」
「ふんっ!」
――
それは、普段の
”
全ての
自らの生活の基盤、領地を守るため戦う彼らは、出世を第一の目的とする職業軍人や、ましてや金で動く傭兵とは違いそれこそ命がけで戦う。
”
先の戦いで大きな被害を受けた
だがこのまま放置しては他国、特に本州の大国達がこぞって
今回の出兵は、その恐れを払拭するために早期に要塞奪還を民衆に誓って無理をして集めた兵だった。
そこまでしての”
鉄壁の守護神”
海洋国家として他の大国と辛うじて肩を並べる島国、
それ無くしては、
その力不足を補うための第一歩が
これは
本当の意味で
「にしても、
そう呟いた
「……」
そして自軍の駒がズラリと包囲する中心、
「
「?」
「……どうぜ?」
「はっはい!潜入させている間者からの報告ですと、要塞には入らず、周辺に展開する
「…………」
「?」
「…………」
「
そして
「割り出せ……」
「は?」
「
「それは……無論、現在もおこなっておりますが……」
「!」
「ひっ」
恐ろしい顔で睨まれた兵士は悲鳴を上げる。
「総力をあげてじゃ!なんち、
「はっはい!」
そして転がるようにその場を後にする兵士。
「……全てはこの”
そして
――
―
「
――ロイ・デ・シュヴァリエ
それは二つの陣営に別れた白と黒の多様な駒を駆使して優劣を競う盤面
縦十六マス、横十六マスの戦場で、
簡単に言うと、
盤面を見つめる少女。
腰まで届く降ろされた緑の黒髪は緩やかにウェーブがかかって輝き、白く透き通った陶器の肌と対照的な
――
大国
そして更に付け足すなら、彼女は大国
「……」
戦争に必要な情報、地形、敵味方の陣形に始まり、そこから予測できる両陣営の動きまで全ては智神の如き頭脳に収められ、それをロイ・デ・シュヴァリエの盤面に反映し展開しているのだ。
「…………」
そして、思考する
通常なら、この緊急時に職業意識が低いと誹られようものだろうが、ある意味それは仕方が無いものだった。
もう何年も彼女に付き従っている古参の家臣であっても、彼女の美貌……特にその
そう……まことに希なる美貌の少女の極めつけは漆黒の
対峙する者を尽く虜にするのでは無いかと思わせる美しい眼差しでありながら、それは一言で言うなら”純粋なる闇”
恐ろしいまでに
――コトリッ
「多分……仕掛けてくるわ」
そして暗黒の美姫はポツリと言葉を発する。
「…………」
「……なにをしているの?」
「……はっ!はいっ!」
「……」
「仕掛けてくる……
「引き払う?」
「……司令部を移動すると言っているのよ」
察っしの悪い部下に
「はぁ……しかしこれで四度目ですが……」
「…………」
「そもそも、こんな危険なところに居られなくても、要塞の司令室で……」
自身の思考の
「それでは、戦況が解り辛いでしょう……情報も遅い」
だが、彼女の美しく整った容姿はそれを表に出さずに続ける。
――そう、自分の思考を理解出来る相手なんて……
それは生まれついての彼女の才能が偉才すぎるが故の、この十七年の人生で飽きるほど繰り返された葛藤。
「そんなことは無いかと……」
――情報伝達のスピードの誤差など、前線と要塞作戦本部ではそんなに変わらないだろう?遙か”
「兵は
「は、はぁ」
戦いでは
そして、その為に元となる情報の重要性を……
「……」
しかし、結局は彼女の部下に”それ”は正確に伝わらなかったようだった。
自分の”戦争指揮”はいつもこうだ……
何人もの優秀と言われる参謀、補佐を置いても軍内で自分は独り……
別に理解出来ない相手だけが悪いわけではない。
何が解らないか、どうすればその人物に説けるのか……相手が”解らない事が解らない”そういう自分も同じだから……
――自分に匹敵する頭脳を所持しながらも、あんなに自由な……男
「…………ばか
ボソリと呟いた暗黒美少女の
「兎に角、司令部を移動するわ、速やかに、迅速に」
気持ちを切り替えた
「たっ直ちに準備を致しますっ!」
そして、慌ててそう応えた
念を押されたにも拘わらず、実際彼はその必要性を理解していなかった。
それがこの後、致命的ともいえる状況を作り出すのだが……勿論、この時の
それは天才
――
―
ズシャァァ!
ザシュゥゥゥ!
「ほんに、この
年の頃は二十代後半、少し小柄な
まるで何処かの名奉行の様なモロ出しの肌は男としては白く繊細に過ぎ、まるで年頃の女性のようであるが、華奢ながらしなやかな体つきは決して貧弱には映らない。
それは
そして、男の風変わりな風体の最たるものは、むき出しの肩の上に大きく文字が書かれた縦長の軍旗を羽織っているという出で立ち。
――”
そう書かれた長物の軍旗は、
「
従えた
長い髪を後ろで結わえて無造作に垂らし、細く上がった眉とスッと通った鼻筋、赤みの強い薄い唇はまるで女性の様だ。
ズシャァァ!
ザシュゥゥゥ!
目前では次々と屍が増えていき、直ぐに
「
――ズシュッ!
「……承知」
スキンヘッドで無骨な顔つきの男は、刃に付着した血糊を振り払った後で先頭をきって主君を道案内し艦内へと入っていった。
「
着実に暗黒の美姫へと歩を進める女顔の男は、その容姿とは相容れない残忍な笑みを浮かべていたのだった。
第二十七話「無垢なる深淵と
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