第14話「最嘉と捨てても良い城」(改訂版)
↓最嘉と壱と真琴、スリーショットです↓
https://kakuyomu.jp/users/hirosukehoo/news/1177354054892613288
第十四話「
度重なる北伐軍の攻勢に
「敵、
「……
彼は面白く無さそうに伝令を見下ろす。
「は、はい!……
ドカッ!
「ひっ!」
言い終える前に蹴り飛ばされる伝令兵。
「二時間だと……ふんっ!
その理由はといえば……
大国
北伐軍兵力二万と協力する小国群、
自身の”北伐軍”を
「り、
転がった伝令兵の横で、側近である、小太りで頭髪にチラホラと白髪の交じる中年家臣が
「……時間の問題?そうだ、時間の問題なのだ!明日は金曜だぞ、世界が切り替わる……こんな小国相手にこんな状態で……持ち越し……この俺にそんな生き恥を晒せと言うのか!」
「……」
「……」
一様に黙り込む家臣達。
「ふんっ、揃いもそろって葬式のような辛気くさい顔をしおって……」
「まあいい、
再び肘掛け行儀悪く肘を乗せ、幾分か落ち着いた顔で空を仰ぐ。
「鈴原……
「!?」
ふと呟いた主の言葉に一同が目を白黒させる。
先ほどまであれほど
その張本人たる敵軍の指揮官が欲しいと……
だが、
例えば、
この時は戦場で交戦中であり
彼辺りなら普段の冷徹な口元に苦笑いを浮かべつつも、自身が使える英傑の度量を内心で称えただろう。
「伝令!殿下っ!早急にお伝えしたい事が!!」
困惑気味の顔を並べる家臣達の中、思案顔で椅子にふんぞり返っていた王太子は、新たに転がり込んだ伝令に視線を移す。
「殿下っ!殿下、早急に……」
尋常でない兵士の様子に
「なんだ?戦場では殿下でなく、閣下と呼べと……」
不機嫌をしっかりと取り戻した彼は、しかし伝令の持ってきた話の内容に……
「なんだと?」
更に機嫌が悪化するのであった。
ーー
ー
「
「は、はい!
私は直属の部下である
再三に渡る
――よく頑張った……ほんと、これだけの敵によくここまで……
敵味方問わず、死者や負傷者で溢れる戦場を見渡して、本当にそう思う。
「……」
私はあの日、
必ず
その誓いは……残念ながら果たせそうにない。
全ては私の力不足だ。
でも……だからこそ、私は残った兵を
そして……あの時、
――絶対死ぬな……今回は負けてもいい、本当に危なくなる前に
だけど、私は必死に食い下がった。
――でも、それでは戦略が……
そうすることが私の勤め、存在価値、それを失わないように必死になっていた私に、あの方は、笑ってこう言ってくれたのだ。
――それはそうだな、
――でもな
涙が……溢れた。
――帰って来い
――俺の元へ帰って来い
優しさなんて求めない……愛情も……私からは決して……私が、自身で、自らの意思で
臣下、鈴原
だけど……だけど、やっぱりわたしは……最嘉さまに……愛された……
――っ!
思わず弱気になる自分を奮い立たせ、私は胸の前でギュッと拳を握る。
「死ねない……」
――そう、私はまだこんな
あの瞬間……
予想を超える敵の大攻勢の只中、決意を新たにした私は、自軍の撤退完了までの行程を思い描いていた。
「あとは……どれだけ撤退までの時間を得られるか……っ!?」
ザシュッ!
「ぎゃっ!」
「きっ貴様!
ズバァァァ!
「ぐはぁぁ!」
突如、従えていた私の麾下の兵が何者かに切り倒されていた。
二人、三人……碌な抵抗も出来ず……
「……ふん」
抜き身の剣を携え、たった独りで
――なっなに?てき……敵軍?
「ほほぅ……なかなかの大物に当たったようだな」
血で
――っ!
――この……か、感覚……息が……つまる……
ザッザツ!
男は剣を下げたまま、無遠慮に
「なるほど、貴様が鈴原
――ゴクリッ
両手に愛用の”特殊短剣”を握りしめ、頭を低くして臨戦態勢をとる……
いえ、とらされる私。
「あ、
――
あたふたと追いついてくる
恐らく目の前の男の部下達であろう、その者達の言葉に……
私の困難になっていた呼吸は一瞬、完全に止まっていた。
「……ふん、無粋な、名乗りをあげる機会を失ってしまったか」
残念そうに呟いた男は既に私の目前だ。
「不本意だが、どうやらお互い名乗りは最早必要あるまい、鈴原
――
「二つに一つだ、
――私はこの男を
――世に名を馳せる戦場の羅刹!、鬼
直接面識はなくとも……この名を知らぬ戦士はいない。
「鈴原
その時、特殊短剣を握った私の左右の手は小刻みに震えていた。
ーー
ー
ザシュゥゥ!
ブシュッ!
それはもう闘いと呼べる代物では無かった。
ブォン!
「!」
ズバッ!
息も触れるような超至近距離からの袈裟斬り!跳ね斬り!一閃払い!果ては打突!
そして、それを放つのは、全身を
「よ、
ブォォン!
「くっ!」
ザシュッ!
「これ以上は無意味だ!
ブォォン!
「くっ!」
ザシュッ!
飛び散る少女の鮮血!
「……」
しかし
いや、崩壊してゆく
「死んで!
そのまま彼女は、
「うっ、うわっ!」
堪らず、握った短剣の構えを解く
――ドンッ!
「も、
私は叫んでいた。
直ぐに重なる二人のシルエット。
――ずぶぅぅ!
突き立てた。
――致命傷だ……これはもう……助からない
私は遠巻きにその光景を見ていた。
「……よ……しみ?」
「か……かはっ!」
そして
刃が突き立てられていたのは
多分、咄嗟に、条件反射で、無意識に……
「よ、
彼女に致命傷を与えた短剣を投げ捨て、まるで電池が切れた
彼女の肩を大きく何度も揺すっていた。
「……ひ、非道い……ひとですね……兄様は……」
「よし……み……」
「ひ、ひと思いに……殺せ……る相手を、こ……んなに切り刻んで……残酷な……にいさ……ま……」
「ち……ちがうっ!……僕は……僕は……」
「……かはっ」
再び真っ赤な鮮血を吐血する少女。
「
「……ふふ、じょう……だ……ん……です」
急激に色と熱を失っていく少女は、青白い顔でそれでも僅かに唇を綻ばせていた。
「わかってます……兄様……
「だめだ!もう喋るな!
必死で芯の無くなった少女の
「じょーだ……ん、ですけ……ど……嘘は……ね、言って……ないの……」
「
「にぃ……さまは……強くて、優しくて……そしてやっぱり非道い……」
「……よ……み……」
「でも、これで……きっと大丈夫だよ……さ、才能が凄くて……誰よりも……ど、努力家で……わた……し……の自慢の……
彼女のやけに小さくなった
「よしみっ!だめだっ!よし……」
「……ふふ……だ、だれにも……負けない……ょ…………」
「っ!!」
そして……
それでも
少しずつ……ずれ落ちて……
――とすっ
冷たい地面に祈るように両膝を着いてから…………動かなくなった。
「あ……ああ……ああああ……あぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
ーーこれが結末
ーーこれが……私が知る、鈴原の呪いの顛末……
ーー
ー
「やはり、降る事は無いか……」
「…………」
――
唯一の主君との過去を胸に秘めながら、私は再び目の前の
近接戦闘に特化した短剣を両手に携え、私は目前の化け物に相対している。
――化け物?そうだ、この男は”化け物”
私が
「…………」
低く低く頭を下げ、重心を目一杯後ろに移動させる。
イメージするのは極限まで緊張した強弓の弦……
私は……鈴原
――
ダッ!
そして一呼吸の後、私の
第十四話「
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます