第13話「最嘉と計算高い男」(改訂版)
↓京極 陽子のイラストです↓
https://kakuyomu.jp/users/hirosukehoo/news/1177354054892613231
第十三話「
――コトリ
きめ細やかな白い指がすっと伸び、クリスタルの澄んだ盤面上に精巧な黒騎士の彫刻が施された駒が置かれた。
「!」
途端に対面に座った老人の眉間に皺が寄る。
執務の間で、老人の前に応接用のテーブルを挟んで座るひとりの少女。
腰まで届く降ろされた緑の黒髪はゆるやかにウェーブがかかって輝き、白く透き通った肌と対照的な
「宮は本当に”ロイ・デ・シュヴァリエ”がお強いですな……未だ負け知らずなのも頷けます」
”うーむ”と唸りながらそう言う老人は盤面上の駒達を難しい顔で凝視していた。
――”ロイ・デ・シュヴァリエ”
それは、二つの陣営に別れた、白と黒の多様な駒を駆使して優劣を競う盤面
縦十六マス、横十六マスの戦場で、”
簡単に言うと、
「そういえば……
思考中の老人は特に他意は無く話題を振ったのだろうが、対面の少女の腰まである緩やかにウェーブのかかった豊かな黒髪がピクリと僅かに揺れる。
「……
彼女はポツリと問いかける。
「ほほ、私は現役時代、戦歴だけは長かったですからな、経験した戦場も数だけは現”十剣”にも劣りません、
――コトリ
そう答えて、思案の末に
因みに……既にかなり昔に戦場を引退した老人、
「……”
「そうですね……我が
「……会ったことは?」
「残念ながら、ありませんな……彼が活躍したのはほんの五年ほどですし、それから丸二年……最近は
「…………」
「宮は、彼と親しくしたことが?」
「…………なぜ?」
「いえ、何となくです、先ほど彼のことを”
流石は年の功……老人は、なかなか目ざといと
「子供の頃、少し……ね」
「ほう」
「
彼女にしては不用意に、愚にもつかないプライベートをつい他人に話してしまいそうになっていた……
――
「?」
――
すぐに彼自身で彼女の言葉をそう補完して納得してしまった。
子供の時ならいざ知らず、大国、
「……」
しかし、その実、黙り込んだ
先ほど彼女は子供の頃と言ったが、それはほんの二年前のこと、そして……
――
彼女の言葉の続きが実はそう言った類いの言葉だったとは、
コトリ
「……鈴原
「は?……はぁ」
彼はそこでまた、脳内補完していた。
負けっぷりが良い……つまり、どちらにしても子供の時の話であろうが、やはり勝負には
カタッ
劣勢の盤面に起死回生の手を求め、考え込む老人を余所に彼女は席を立った。
「宮?まだ勝負は着いていませんが?」
「もう終わっているわ」
「?」
「六十四手先、
部屋を去って行く黒い装いの美少女。
「……」
彼には現状からの勝負の行方は終ぞ理解できなかった。
ーー
ー
「鈴原?それは……もしや貴殿は
「ああ、
「おおっ!あの
答えた俺に、目を見開いて両手を広げ、見る間に近寄って来るおっさん。
すかさず隣に控えていた
ガシッ!
ゴツゴツと骨張った手で俺の両手を取るのは、
――近い!近い!ちかいって!
妙に距離感の近い馴れ馴れしいおっさんに、俺は内心顔を
「おお、怖いな若者よ、俺は何もそこもとの
「……負けるより勝つ方が良いと思うが」
俺は呆れながら答え、握られた両手を迷惑そうに引き抜いてやった。
大体、敗戦の将にしては、何というか、あっけらかんとと言うか、まぁ良く言うと堂々としている。
普通は一族郎党、命を獲られる可能性もあるのだからもっと神妙だろうに……
「そりゃそうだ、しかし百戦して百勝など……考えただけで
前に言ったように俺達、今は
多分、元々こういう性格もあるのだろう。
俺は目の前の、”より力のある者に従う戦国戦人のお手本のような人物”、”計算高い男”と噂される
「犠牲……それは金や物資、兵……貴公の一見、節操なしに見えるどっちつかずの判断も、実は城主として、この地域を預かる者として、なにより守るべき領民の犠牲を最小限に抑える為として……選択していると言うことか?」
「…………ふむ」
俺の問いかけに、馴れ馴れしいおっさんは
「そう言えば俺を助命してくれるのか?鈴原
そして、髭の上にある品のあまり感じられない口の端を上げた。
――そうくるか
俺を試す
俺は右手を腰の剣……ではなく、ポケットに入れて一枚の計画書を出す。
「
そう言って差し出した用紙を男はニヤリと笑って受け取った。
男の名は、
計算高いと噂の男だった。
第十三話「
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます