第5話「リライト」
クレアを抱え、街を疾走するレオン。
「レオン、貴方……」
自分を抱え走る人間が、徐々に人にあらざる者へと変わって行く様に驚き声を詰まらせ、レオンが代わりに、予想される言葉を続けた。
「どうして、ヴァンパイアに戻っているのか? ですか?」
クレアは、黙って頷く。
「パドロ所長に、ヴァンパイアに戻す薬を依頼していたんですよ」
「そんな薬が出来ていたの!?」
「えぇ、亡くなる前に、薬を送ってもらえたのが不幸中の幸いでした」
「そうだったの……」
「本来の目的は、無理矢理人間にされた者を元へ戻す為だったのですがね」
強制的に人間化された者が、その報復の為に、暴動やテロを起こさないとも限らない。
そうなる前に元へ戻し、ヴァンパイア領へ逃がせば、争いは未然に防げると考え、依頼していたのである。
「流石ね、貴方が味方でホント助かるわ」
「自己防衛の為とは言え、まさか、自分が最初に飲む事になるとは思いませんでしたがね」
「でも、それなら逃げなくても、何とかなったんじゃ?」
「いいえ、恐らく手遅れです」
「手遅れ?」
「はい。奴らも馬鹿じゃない。捕まえられなかった時の保険は有ると思います。軍が待機しているか、既に指名手配されてるか」
「軍? 弱小組織のリーダー捕まえるのに、そこまでする?」
「それは、自身を過小評価してますよ。大きな力がある組織とは言えませんでしたが、それでも、嫌な存在であったことは確かです。それと奴らが一番怖がってるのは、エクリプスを影武者と広められてしまう可能性が有る事でしょうね」
「うーん? まぁ、貴方がそう言うならそうなんでしょうね。ところで、そろそろ私を降ろしても、良い頃じゃないかしら?」
3キロほど離れた辺りで、クレアがそう言ったのだが、
「いいえ、合流地点までは、このまま抱えて走ります。何より、この方が速いですしね」
レオンは、そう言って笑う。
「合流地点? いつの間に、そんな相談してたの?」
「否、さっきでは無く、いつかこんな日が来るんじゃないかと思いましてね。ホークアイ結成時に」
「え! そんな前から! なんで教えてくれなかったのよ? やっぱり、アタシが頼りないから?」
「違いますよ、ホークアイの内部にスパイが居たんです」
「スパイ? トータルエクリプスの?」
「えぇ、そうです。スパイを内包させたまま活動するには、貴方は演技が下手だし、バウアーは手を出しかねない。ということで、バウアーもスパイが居たことは知りません」
「ハァー、貴方がリーダーやるべきだったわね」
そう言って、苦笑した後、聞き難そうな表情で、
「リーダーのアタシが聞くのも何だけど……これから、どうするの?」
レオンは「確かに」と言って吹き出し、クレアは恥ずかしそうに笑う。
「今まで、イマジニアからヴァンパイアを受け入れてくれた、アレスター卿を頼ろうかと思います」
「あぁ、そう言えば、あんなに受け入れてもらったのに、会った事無かったわね。良い機会だから、お礼を言わないと」
アレスター卿は、イマジニアからの国外逃亡者を年間500人ほど、現在に至るまでの合計では、3000人以上を受け入れていた。
「アタシも、難民かぁ」
「いいえ、立派なテロリストですよ」
そう言ってレオンは悪戯っぽく笑い、それに対して、クレアは大きな溜息を
「こんな筈じゃ無かったんだけどなぁ」
クレアは、走って来た方向を振り返り、テロ行為の先陣を切った仲間の心配をする。
「バウアーは、大丈夫かしら?」
「アイツの心配なら無用です。腐っても兵長だった男ですからね。ヴァンパイアに戻ったアイツなら、今頃、片付いてるんじゃないですかね」
その頃、元居た酒場では、伸びた男達の山が築かれ、その上にバウアーが不機嫌そうに座って、
「おいおい、もう少し強いヤツ連れて来いよ。手加減してやったのに、遣り甲斐ねーなー」
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――交渉と言うよりは、脅迫だな。
そうボヤいたこの男、名をアレスターと言い、かつて、王不在の時代に摂政をしていたバルバドの息子で、現ヴァンパイア王である。
次回「アレスター」
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