第3話「鷹の目」

 鷹也を捜し続け、5年経った或る日。

 イマジニア研究所の所長、パドロが死去したとの一報を受ける。

 祖父シューレットが亡くなり、鷹也の行方も判らない今、クレアにとって、パドロは家族に一番近い存在だった。

 急いでイマジニアに戻ったものの、既に葬儀から数日経っており、最期の別れを告げる事さえ出来なかった。


 パドロの墓前で、別れを告げるクレアに、一人の男が近づいてきた。

 彼の名は、レオン。

 イマジニアの元諜報部員で、ここ数年、鷹也捜索のサポートをしてくれていた男だ。


「研究所で倒れていたところを発見され、解剖の結果、心疾患で亡くなったそうです」


「そう……」


「と、報告を受けましたが、恐らく、暗殺だと」


「え?」


「パドロ所長は、ヴァンパイアに致命傷を与えるような武器製作の許可を出していませんでしたが、死亡直後に許可が下りています」


「でも、それだけで暗殺を疑うのは……」


「動揺で頭が回ってないようですね。もう一度、言いますよ。死亡直後です」


「直後?」


「そうです。死亡推定時刻とほぼ変わらない、寧ろ許可の方が早い感じです」


「まさか、トータルエクリプスが?」


かたくなに断られた後の犯行で、間違いないでしょうね」


「だったら、今から奴等の本部に乗り込もうぜ」


 そう答えを急いた男は、イマジニア元近衛兵このえいへい長だったバウアー。 


「そいつは無謀だな」


「何故だ?」


「暗殺をするような奴等だぞ、そんなことしてみろ、逆に返り討ちだ」


「返り討ちだ? あんな奴等、何人居ようが……」


「お前だけならな」


「じゃ、どうすりゃ良いんだよ! 暗殺したのは間違いねーんだろ?」


「間違いないとは思うが、確たる証拠が無い」


「証拠を今から集めるのか?」


「流石に手遅れだろう。それに、仮にそんなことしてみろ、奴等に目を付けられて、俺等も暗殺候補だ」


「あぁー、なんも出来ねーのかよ!」


「パドロの件は、諦めるしかないわね」


「クレアさんまで……」


「政治団体を作りましょう。その代表に私がなるわ」


「クレアさん、それだと鷹也さんの捜索が……」


「捜したいけど、それよりも、鷹也が救った世界が、悪い方に向かうのは許せないわ。それに、その方がパドロの供養にもなるでしょう」


 もし、鷹也が無事なら、

 捜さなくても、きっと帰って来てくれる筈。


 こうして、政治団体として、ホークアイが結成される。

 名の由来は、無論『鷹也が見ている』という意味だった。


 最初は、政治団体として正当に活動し、議員に成ってもみたが、トータルエクリプスに吹いた風は余りにも強く、政策はおろか改善案も通らず、結果、国外逃亡するヴァンパイアを支援するのがやっとだった。


「ウォレフが、どれほど偉大だったのか解ったわ。ウォレフに後継者が居れば、まだ……」


「いえ、暗殺されますよ」


「レオン、いつも冷静でいてくれて助かるわ。そうね、たらればは止めないと……」


 そう言って、クレアは大きく溜め息をついた。


 努力はしているものの報われない、ただ忙しいだけの日々が過ぎて行った。

 そして今日も、そんな変わらない毎日の一夜を過ごす筈だった。


 酒場の扉を蹴破って、数人の男達が入って来た。

 先頭に立った男が、クレアに銃口を向ける。


「ホークアイのクレアだな?」


「物騒ね、何の用?」


「国家反逆の罪で逮捕する!」


「反逆だ?」


「バウアー、よせ」


「反逆を犯したという証拠でもあるの?」


「ヴァンパイアの国外逃亡を手伝っているだろ?」


「イマジニアの法律では、入国審査は厳しいけど、出入りは自由の筈よ」


「それは、昨日までだ」


「おいおい、国会審議も無しに、法律の制定は無いだろうが」


 そう凄んだバウアーに、銃口を向け、男は鼻で笑う。


「大統領令だ」


 その言葉で、最初に動いたのはレオンだった。

 レオンは、ポケットに入っていた照明弾を部屋に放つと、クレアを抱きかかえ、窓を破って外へ飛び出した。


「バウアー、あとは任せた」


_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/


再び、時は動き出す。


次回「Rewrite」

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