第22話「勝者の行方」

 その城は、城と言うよりも小さい山と言えるほど大きく、あるじが代わってからも、その大きさを変える事はなかった。

 のちあるじが住むには、不便に思う大きさだっただけに、後世こうせいの学者達から『虎の衣を借りると言う意味で、効果的だったのではないか?』など、色々な説が唱えられていた。


 まだ、その城が研究対象とされる30年前。

 その中では、剣と爪によって奏でられた音色が鳴り響いていた。


 鷹也の剣には、明らかに迷いがあった。

 一度は闘った相手ではあったが、今では父のようにしたう相手だ、抵抗が無いといえば嘘になる。

 それはウォレフにとっても、同じだった。

 そんな中途半端な試合に飽きた、たった一人の観客が、いやらしい笑みを浮かべながら、手を叩いて両者をかした。


「どうした二人とも、そんな程度か?」


 なんとか、打開策を模索していたウォレフであったが、何も思いつかないまま、体力だけが消耗していく。


 一方その頃レイリアは、気配を消し、ゆっくりとクレアに近づいていた。

 殺された兄を見ても、グリンウェルに飛び掛らず、妖気を抑えられたのは、それが兄の望んだ事だと思えたからであった。

 しかし、クレアの横にグリンウェルが座っており、おいそれと近づけない。

 レイリアは、グリンウェルが動き出すのを静かに待ち続けた。


 出来れば、レイリアがクレアを助け、3対1が理想だったが、アレでは上手くは行かんな……、

 これ以上の体力の消耗は、グリン戦に響く。


 先に覚悟を決めたのは、国を守らなければ行けない王の方だった。


 鷹也が本気になるまでに、ケリをつける!

 果たして、俺に出来るか?


「鷹也ー!」


 その時、突然に目覚めた少女の叫び声によって、鷹也のトリガーは引かれる。

 剣先まで伝わる闘気が、今までとは別人である事を物語ものがたっていた。

 全開で飛ばしている筈のウォレフでさえも、避けるのがやっとで、剣を振る速度は少しずつ上がり、ウォレフの体をかすめ始める。


 チャンスは、一度きりだ。


 縦に大きく振られた剣は鋭く、ふところに入いることを許さないどころか、間合いを開かざるをえなく、ウォレフは大きく後方に跳んだ。

 その瞬間、鷹也の分身が始まる。


 今だ!


 分身が始まる直前に、わずかな隙が出来ることが解っていたウォレフは、この一瞬に全てを賭けていた。

 肩から体当りを喰らわせ弾き飛ばすと、更に追いかけるように飛んで、鷹也が壁に衝突すると同時に、鋭く尖った爪を鷹也の心臓目掛け、串刺した。

 激しく飛び散る鮮血が、ウォレフを真っ赤に染める。

 鷹也は、床に剣を突いて、まだ闘おうとするが耐え切れず、崩れるように、その場に倒れた。


「イヤァァ、ァァァ……」


 その光景は、少女から再び声を奪おうとしていた。


 ウォレフは動じることなく、次の相手、グリンウェルへと歩き始める。

 グリンウェルは、ゆっくりと手を叩き、勝者を称える。


「もう少しヤルと思ったんだがな……経験の差か」


「覚悟は出来たか?」


「何の覚悟だ?」


 グリンウェルの指摘は正しいもので、ウォレフはグリンウェルを過小評価していた事を認めざるを得なかった。

 それは、幾らウォレフが全開で飛ばしても、数分でガーランドを葬り去る事は出来ないからだ。


「ところで……レイリアはどうした? 居るのだろう? 加勢させんのか?」


 何もかも見透かしていると言わんばかりに、いやらしい笑みを浮かべて問いかけてきたが、ウォレフは何もこたえず、静かに臨戦態勢に入る。

 一歩また一歩と、グリンウェルとの距離を縮める毎に妖気を高めて行き、射程距離に入る手前で最大限にまで押し上げ、一気に間合いを詰めて飛び掛かろうとした、その時!


「なん……だと……」


 それは、まるで火山が噴火したかのような印象を受けた。

 目の前に立ちはだかる者の妖気は、自分の親友さえも凌駕りょうがし、その兄のレベルまで達していた。


「覚悟は出来たか?」


 今度は、逆にグリンウェルが問うたが、ウォレフは無言のまま、その戦いの火蓋は切られた。

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