第14話「グリンウェルの罠」

 グリンウェルは、ガーランドに『アルベルトの子であると言うエクリプス』が『狼王ウォレフ』と手を結んだと言う危機感をあおり、更に『王位を無条件で譲る』事で、エクリプスの討伐を依頼した。


「君達がエクリプスを狩るまで、ウォレフは私が抑えておく」


 だが、グリンウェルの真の狙いは、鷹也とウォレフにガーランドたちを狩らせ、その後、クレアの命と引き替えに、鷹也とウォレフを闘わせる事だった。

 そして、生き残った一方と闘えば、容易たやすく勝利が得られると考えた。


 もし、アルベルトの子とウォレフがガーランド兄弟に破れたとしても、無傷という訳には行くまい。

 ん? オズワルドが逝ったか?

 いいぞ、これでどちらが生き残っても、私の勝ちだ!


「アルベルトの子よ。今だけは生かしてやる、今だけはな!」


 月は薄い雲に隠れ、細い光を放っていた。

 その夜空を不気味に笑う一羽の蝙蝠こうもりが、け抜けて行った。



「何度やっても、同じだ!」


 三度みたびわたって本体を見切られ、更にフェイントを織り込んだ分身までもが止められた。

 ガーランドに、最早レイリアの指示は必要なかった。


 何故だ!

 何故、判る!


 五度の分身は、鷹也の息を荒くさせていた。


「来ないのなら、こちらから行くぞ!」


 向かって来たガーランドに対して、鷹也は六度目の分身を始める。

 しかし、今回の分身は3体のみで、しかも妖気を感じられるのは、1体のみ。


「終わりだ! エクリプス!」


 目を閉じてもとらえる事の出来る相手へ、ガーランドは渾身の力を込めて手刀を降り下した。


「違う! 兄さん!」


 妹の叫びは一足遅く、切り裂いた感触が無いと思った瞬間、背後から右腕を切り落とされた。

 今回、鷹也が繰り出した分身は、第3段階の入り口と呼べる物だった。

 しかし、第3段階は特に体力の消耗が激しく、降り下ろした剣の勢いを止める事さえ出来ないまま、気を失いながら、地上へと落下した。


「本来は……そういう技なのか……」


 ガーランドは、鷹也を追って地上へと降りると、切り落とされた右腕を妹に投げ渡し、気を失っている鷹也に近づいた。


冥土めいど土産みやげに教えてやる。貴様の分身には、致命的なくせがある。それは……」


「何か来る!」


 兄の言葉を妹がさえぎった。

 鷹也にばかり気を向けていたガーランドは気づかなかったが、レイリアは、あと数秒で近づく大きな妖気を感じとっていた。


「馬鹿な! 何故、貴様が此処に!」


「どうやら、グリンウェルに一杯食わされたようだな。どうする? その体で無傷の俺とるか?」


「コイツを離せば、逃がすと言う訳か?」


 軽くうなずいたウォレフに舌打ちしながら、鷹也をウォレフの方まで蹴り飛ばすと、ゆっくりと羽撃はばたいて妹へと近づいた。


「エクリプスに伝えておけ! オズワルドの仇は必ず取るとな!」


 そう言い残し、ガーランドたちは地平線の彼方へと飛び去っていった。


  ・

  ・

  ・


 鷹也は、深い眠りについてからも、夢の中で闘い続けていた。


「お前の分身には、致命的なくせがある」


 夢の中でも、何度も何度も、分身を繰り返していた。

 その相手は、ガーランドではなく、カイルだった。


「多人数を相手にすれば、攻撃範囲が広がって無理が出る。まして、未完成品を馬鹿の1つ覚えのように繰り返せば、見切られても当然だ!」


 厳しい伯父の言葉に付け加えるように、横で座って見ている父も口を開いた。


「鷹也、分身は奇襲きしゅうでしかない。必要のない分身は、体力を消耗するだけだから、闘いの一要素として考えるんだ」


「仕方が無かったんだ……あのままでは、クレアが……クレアが……」


 クレアの名を出した事によって、鷹也はその重いまぶたじ開けた。

 しかし、目を覚ますことは出来たものの、まだ、体の節々に痛みが走り、闘うどころか起き上がる事さえ出来ない。

 それでも、無理に起きようとしてベッドから転げ落ちた。

 その物音に気づいた看護婦が病室に入って来て、床に倒れている鷹也の身を起こした。


「ク、クレアは?」


 そう聞いた鷹也に対して、看護婦は「呼んで参ります」と答えた事に安心して、鷹也は再び深い眠りの中へと帰って行った。

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