第13話「CrescentMoon」

 視界に入る全てが、砂でおおわれ、落ちたばかりの太陽が、その光をわずかに地平線に残していた。

 隠れることも、逃げることも許されぬ此の場所で、鷹也は闘いを避けるように言われた相手を前にする事となる。


 妹のレイリアは、その身を動かすスピードと動体視力に定評があり、その目が追えぬのは、光くらいだと言われている。

 ジェット機を止めていた次兄のオズワルドは、身の丈が3mある無口なヴァンパイアで、その身から繰り出される力は、彼の右に出る者が居ない程に圧倒的だった。

 長兄のガーランドは、戦闘における発想が天才的で、まさに闘う為に生まれてきたようなヴァンパイアだった。


「狩る? 今、狩ると言ったのか? 人の血が混ざると、ジョークがうまくなるのだな」


 そう言って、ガーランドは高らかに笑う。


「それにしても、ホント、アルベルトに似てるわね」


 鷹也が気づくより先にレイリアが、その言葉の意味する答えに近づけた。


「何故、知っている?」


「今、この状況が偶然だと思うのか?」


「どう言う意味だ!」


 その時、イマジニア方面に向かう、大きな妖気に気が付いた。

 鷹也は、瞬時に身をひるがえして、クレアたちが乗るジェット機へ向かおうとしたのだが、その前をレイリアがふさいだ。


「あら、何処へ行くの?」


「邪魔だ、退け!」


 鷹也は、レイリアに向けて剣を一文字に抜き放ち、レイリアが回避した先へは目もくれず、開いた空間へ飛び立とうとしたのだが、背後からオズワルドに叩き墜とされ、砂丘を転がる。

 砂まみれになった鷹也の前に、ガーランドが立ちはだかる。


「何処へ行く気だ? 俺たちを狩るんじゃなかったのか?」



 一方、パドロは、現在の状況を無線で母国イマジニアへ伝えていた。


「イマジニア応答せよ! 鷹也君がヴァンパイアと交戦中! 至急、応援求む!」


 それに対する返事は、パドロが考えた以上に対応が早いものだった。


「既に王が出られています。あと10分程でそちらと接触します! そちらにも向かっている大きな生体反応が確認されています。十分注意してください!」


 国防軍の所持する生体レーダーで、イマジニアとジェット機の間に、大きな生体反応を確認していたウォレフは、音速ヘリを使って出撃していた。

 しかし、その行為までもが敷かれたレールの上だと、この時のウォレフは知るよしも無かった。

 先にクレアの乗るジェット機に追い付いたのは、ウォレフではなく、グリンウェルの方だった。


 音も無く、まるでさばかれ事に気づかない魚のように、尾翼びよくを切断されたジェット機は、墜落を余儀よぎなくされる。

 謀ったように森へと導かれ、幾つもの木を薙ぎ倒し、轟音と振動を伴って、機体は不時着した。

 その衝撃で、パドロもクレアも、気を失ってしまう。

 グリンウェルは、ジェット機の機首に近づき操縦席を破壊すると、クレアに手を伸ばす。


「これが、アルベルトの子の女か……」


 グリンウェルがクレアを抱き上げた時、音速ヘリから飛び降りたウォレフが、遅れて到着する。

 それを見て、グリンウェルは高らかに笑う。


「フフフ、ウォレフよ。国力を過信して、いつしか平和ボケしていたようだな。平和を望んでいる者でさえ、情報ぐらいは売る事を覚えておくがいい!」


「待て、グリンウェル!」


「私に構っていて良いのか? ボヤボヤしてたら、アルベルトの子は死ぬぞ?」


 そう言うと、クレアを肩にかついで飛び去った。


「ちくしょうぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーッ!!」


 ウォレフの叫び声が、静かになった夜を突き抜けた。


 連れ去るという事は、利用する価値がクレア在るという事だ。

 未だ、殺さない筈だ……。


 グリンウェルの敷いたレールに、乗るしか道はなかった。



 時間に追われている鷹也は、一気に勝負を決めに行く。

 複数に分かれ行く鷹也に、ガーランドたちは目を奪われた。


「な、なんだと!」

 

 6体に分かれた鷹也は、オズワルドを囲み、その体を四散させる。


「オズワルドォーーーッ!」


 崩れ墜ちて行く兄の肉片を見て、レイリアは悲鳴をあげた。

 冷静さを欠いた妹に、残りの兄が近づいて、軽く頬を叩いた。


「落ち着けレイリア! ヤツを追えるか?」


 ガーランドは、レイリアに鷹也の本体を目で追うように指示すると、鷹也の注意を引く為、攻撃を仕掛ける。


「兄さんの右!」


 レイリアは、微かに見える本体を兄へと告げて行く。

 レイリアの視力と口の速度が合わないものの、ガーランドはうまさばいてみせた。


「後ろ!」


 偶然か?

 それとも、必然か?

 防戦一方だったガーランドの繰り出した回し蹴りが、妹の指示なく鷹也を捕らえた。


「なかなか面白い芸だったよ」

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