第6話「父、アルベルト」
一羽のコウモリが夜空を漂っている。
気流に乗りさえすれば、
風に流されることを心地よく思っていた
散歩の度に、毎回自分を眺めているのは解っていたが、どう考えても、自分を見ていることを不思議に思った蝙蝠は、今日こそはと勇気を出して、彼女に近づいてみることにした。
「こんばんは」
自然に投げかけられた言葉に、蝙蝠は戸惑いながらも、挨拶を返す。
「こ、こんばんは……恐く……ないのか?」
「気持ち良さそうに空に浮かんでいる貴方を毎日見てたから、恐く感じ無くなったのかも知れない……こんなこと言ったら、ヴァンパイアに失礼だね」
そう言って、彼女は微笑んだ。
「貴方、名前は?」
「あ、アルベルト……君は?」
「アルベルト、良い名前ね。私は
僕は、今日が三日月で良かったと、心から思った。
ドラキュラは、満月に異常とも呼べるほど、喉の渇きあるからだ。
元々、夜の散歩が楽しみだっただけなのに、いつの間にか目的が『美咲に会いに行く』事に変わっている自分に気が付いた。
美咲は僕のことを"化物"扱いしなかったし、僕は美咲が"人間"だと言うことを忘れていた。
会う度に僕は、君に惹かれていった。
いつしか僕は「人とヴァンパイアは解り合える」と思えるようにまでなっていた。
『朝露の 消やすき我が身 老いぬとも またをちかへり 君をし待たむ』
「どう言う意味?」
「万葉集の詩なの、朝露のように消え入りやすい私ですが、年をとっても、また若返って貴方を待ちましょうって意味で……つまり、その……貴方の奥さんにして欲しいの?」
「そんなに待てないよ」
そう言って、僕は君に口付けた。
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「兄さん、僕は妻を
「ほぅ? 王になるには必要なことだな。何処の家だ? アーベルシュヴァイツ家の令嬢か? それとも……」
「兄さん、僕の妻は人間なんだ……」
「何!」
「それに、僕は王に成る気はないと、何度言えば解るんだ。王は兄さんが成るべきだ。妖気だって、兄さんの方が高いじゃないか!」
「お前には、妖気を越える頭脳がある。歴史に名を残す王に成れる器なんだ。それを感じるからこそ、私は王位をお前に譲りたいんだ」
長い沈黙の後、カイルは吹っ切れ、一つの約束を交わす。
「解った。これならどうだ、お前が王位に就くのなら、その"人間"との結婚は認めよう。もし、お前の結婚に反対する者が居ても、私が黙らせてやる」
「考えさせてくれ……」
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「結局、アルベルトは王位には就いたが、結婚は、相手の家族が反対でな。優しいアルベルトは、相手の家族が納得するまで待つことにしたんだ」
タカヤがカイルと会ったのは、父と母について知りたかっただけで、まだヴァンパイア側に付く気になれない事を告げており、それにはカイルも納得していた。
タカヤは、生んでくれた母の名が、育ててくれた母の名で無い事を少し悲しく思っていた。
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