第7話「またをちかへり」

 アルベルトが王位に就いてから間もなく、人間との和平交渉が本格化し、互いに反対派が出たものの、なかば強引に進めることとなる。


 主軸となる交渉内容は、

 ・互いに現状より領土を侵攻しない

 ・吸血行為を行わない代わりに、献血と言う形で提供する

 と言うものだった。


 その調印式が行われるのは、地中海に浮かぶ小さな孤島。


 アルベルトは、人間に不信感を与えないように気遣って、妻である美咲を供にし、太陽が出ている内に人間が所持する領土で行うことにした。


 調印式会場は、テレビ中継され、全世界へ"平和"になる瞬間を観せようとしていた。


 その中継を観ていた兵士の一人は、今までの疲れを一度に取るかのように、体を一杯に伸ばし、これから訪れるであろう平和に、安堵の息を吐き出した。


「コウモリの王が、会場入りしましたよ。これでやっと、平和に成るんですね」


 その兵士は、上官に対して返事が欲しかった訳ではなく、ただただ、同じ"平和"を共有したかっただけだった。

 しかし、上官から出された返事は、全く違う平和の形をしていた。


「よし、ではミサイルの照準合わせろ」


「え? 待ってください! これから平和になるんですよ!」


「あんな調印に、なんの保証が在る!」


「アソコには、1000人以上の人間も……」


 調印式には、各国の要人やマスコミなどで溢れていた。


「たった1000人の命で、コウモリの王が狩れるんだ。安いもんじゃないか。それにアソコに居る人間は、裏切り者だ!」


「待ってください!」


「邪魔だ! 退け!」


 必死で止める部下を押し退け、何の躊躇ためらいも無く、そのボタンは押された。

 轟音を響かせて飛び立つミサイルは、目標よりも多く、島を覆うほどの大きな雲を作った。

 日差しよりも暑い熱は、アルベルトの妻を融かしていった。


「またをちかへり……君をし、待たむ……」


「美咲ィィィーーー!」


     ・

     ・

     ・


「恐らくミサイルを撃った人間は、核の熱、もしくはその爆発力で陽光を遮る物を全て無くせば、アルベルトを狩れると判断したのであろう。だが、アルベルトは生き残った。これでな」


 そう言って、カイルは着ていた黒いローブを脱ぎ、テーブルの上に置いた。

 それは、アルベルトが開発した"陽光を完全に遮る物"だった。


「アルベルトは怒りの赴くままに、人間の世界を壊し尽くした。私が向かった時には、既にアルベルトは美咲を追い、灰になった後だった。これは言わば形見だ」


 カイルの話は、歴史に刻まれている紛れもない真実だった。

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