第2話「滅びゆく世界」

 この頃の人々は、口癖くちぐせのように、こう言っていた。


「恐竜が滅びたように、いずれ人も滅びるのだろうか?」


 ――ヴァンパイア。


 伝説というよりも、お伽噺とぎばなしのような空想の産物さんぶつが、まさか現実になるとは、誰一人として考えもしなかった。


 人々は武器を取り、軍を形成するも、不死身の肉体に犠牲は増える一方だった。


 伝説に残された真実は、太陽光を浴びれない事と、銀で心臓を貫く事だけだった。


 何の対抗策も出来ないまま、世に現れてからたった半年ほどで、地上のおよそ3分の1を奪われる事となる。


 夜はヴァンパイアと戦い、昼は血を吸われて奴隷ゾンビ化してしまった人間と……人々は戦うことに、疲れ果てていた。

 キリストが残した十字架に効果はなく、突然現れた化物に、人類は祈ることさえ許されなかった。


 戦局が変化したのは、ヴァンパイアが現れてから2年後。


 ドイツの研究班が発表した『紫外線の膨張ぼうちょうと熱量の拡散』によるものだった。

 25年経った今でも、領土が半分以下で抑えられているのは、その為である。

 しかし、それまでに多くの犠牲を払っており、50億を越えた人口も、すでに5億にまで減少している。


 残った人口をこれ以上減らさないために、一般市民からも高給を出す事で、兵をつのった。

 その兵数は、人口の凡そ5分の1、1億にまで膨れ上がった。


 職業軍人をマティーニ、諜報部をグラスホッパー、市民兵をソルティドッグ、科学班をスクリュードライバーと名付けられていた。

 後の世に『カクテル部隊』と呼ばれる事となる。


 部隊名がカクテル名になったのは、職業軍人が市民兵のことを『犬』や『捨て駒』呼ばわりしていたためで、注意しても陰で言い続けていた事から、時のローマ法王が気遣って付けられたと言われている。


 1億からなる兵は、世界を救うのだろうか?


「恐竜が滅びたように、いずれ人も滅びるのだろうか?」


 人々は口癖のように、こう言っていた。

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