第36話
テーブルの中央に置かれたたこ焼き器、その周囲に所狭しと並べられた、たこ焼きの生地と具材に結城が「おー!」と歓声を上げた。パーティに相応しい見栄えである。
「すげえ、俺、たこパ初めてだよ。これ、どうやんの?」
「マモン様も初めてだぞ! 油なんか塗ってどうするんだ?」
「これから生地を流し込むので、そしたら自由に好きな具材を入れてください。何種類か組み合わせても大丈夫です。食材の相性が気になるようでしたら、遠慮なく訊いてくださいね」
「じゃあ、俺と栞ちゃんの相性って……」
「帰れ。今すぐ帰れ!」
生地が流し込まれる。
「タコ! タコ! タコ! ここのタコは全部、強欲のマモン様のものだ! たこ焼きを作りたければ、あたしを拝むがいい! そしたらタコを分けてやるぞ!」
「な、何いいっ!? タコを根こそぎ奪うなんて卑怯だぞ、マモンちゃん!」
「ふっ、下らんな。おまえら、タコを入れなければたこ焼きじゃないと思っているのか? 別にタコなんかなくったって……」
「じゃあ、タコの追加まだあるけど、クールにキメてるお兄ちゃんにはいらないね。結城先輩とアシュちゃんとわたしで分けようか」
「え」
「救いの天使、栞ちゃん降臨! やっぱ、たこ焼きにはタコがないとなー」
「ぐぬぬ、たこ焼きの要であるタコを隠し持っていたとは。さては、シオリ、あたしの野望を打ち砕く隙を狙っていたな!」
「……すみません誰かタコを分けてください」
いい感じに焼けてきた頃、栞が竹串を取った。
「こうして溢れた生地を集めて、くるんってひっくり返す……」
「「おおーっ!」」
「簡単だから初めてでもできると思いますよ。はい、みんなに竹串配りますね」
「マモン様がやるぞ! こうやって集めて……秘剣、燕返し!」
「あはは、マモンちゃん、技名つけたのかよ!」
「剣じゃねえし。本当の燕返しに失礼すぎるだろ」
「だったら、俺も真似して……秘技、たこ焼き返し(バーンオクトパス・ターン)!」
「……そのまんまだが、無駄にカッコよく聞こえるマジック」
「なんだ、レイジ。燕返しが気に入らないのか!? じゃあ、新しいのでいくぞ! うーん……秘術……うーん、うーん……!」
「マモンさん、早くひっくり返さないと焦げちゃうよ」
「よし、思いついたぞ! 秘術、黒焦げタコ返し(ブラックバーン・デビルフィッシュ)! どうだ!」
「技名としては合格だが、食いたくない」
そして、たこ焼きができた。
「あっつ! やべ、これ、普通に食ったら火傷する……」
「中は熱いので、気を付けて食べてくださいね、結城先輩。あ、マモンさんも……!」
「ん? どうした、シオリ? もぐもぐ、たこ焼き、うまいな! いっぱい食べるぞ!」
「待て、おまえ。そんな次々食って、口の中、火傷しないのか……?」
「そんなの、魔力ですぐ治せるぞ。魔力が余っているマモン様は、全然気にしないな! もぐもぐもぐもぐ」
「……おい、非常事態発生だ。タコパの大敵、火傷を無効化する奴が現れた。俺たちはこいつのスピードに勝てない。今すぐ全員、自分の分を確保しろ!」
「イエッサー!」
「えーえー、みんな、いきなり取り過ぎだぞ! マモン様の分がなくなるぞ!」
「元々、おまえの食うのが早いからこうなるんだ! 十分食ってるじゃないか!」
「マモンさん、たこ焼き、また焼くからね。これで終わりじゃないから」
異例の早さで第一弾がたこ焼き器から消えた。
バタバタと全員分の飲み物などを用意する栞に、食うのに夢中になっている結城、まだ焼けてないたこ焼きをじっと睨んでいるマモン。そして、すっかり周囲の流れから取り残されたアシュマダイ。竹串を持ったまま、少女は空っぽのお皿を見つめている。
まあ、この面子の中に放り込まれたら、そうなるよな……。
零司は確保した自分のたこ焼きを、そっと隣のアシュマダイの皿に置いた。少女が瞬きをして零司を見上げる。
「あー! アシュがレイジから、たこ焼きもらってる! ズルいぞ。あたしも食べ足りないのに!」
「おまえが足りないとか認めない! 今のが焼けるまで待て!」
「あ、マモンさん、出番だよ。もうひっくり返していって」
「よし、あたしの必殺技を見せてやる。――秘奥義、一斉反転(オール・リバース)ッ!!」
「マモンちゃん、すげえ決まってるんだけど、一個しか返せてないよ……」
再びうるさくなり始めたテーブルを見渡し、アシュマダイは皿に乗せられたたこ焼きを口へ運んだ。
「……おいしい」
その声は零司にしか届かなかったけれど、ちゃんと気付いた零司はアシュマダイの頭を撫でた。亜麻色の髪をくしゃりとされた少女は、幸せそうに笑顔をこぼしたのだった。
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