第33話



「アシュはな、一番弱っちいし、魔力の使い方もヘタだし、全っ然あたしの敵じゃないな! 七人姉妹みんなで喧嘩したときは、いつも最初に狙い撃ちされてたぞ。むしろ、まだ消えてなかったことが驚きだな。とっくにリタイヤしたものと思っていたぞ」



 食堂から教室へ帰る途中、マモンは言った。


 ちなみにソフィアは手早く食事を済ませるなり、用事があるようでさっさと席を立ってしまった。

 アシュマダイも食堂を出たとき、胡桃沢に見つかり、どこかへ連れ去られた。「小学生が勝手に入っちゃいけません、めっ」とか言われていたが、小学生にしか見えない胡桃沢にアシュマダイは、ぽけーっとしていた。


「魔界では姉妹みんなにのけ者にされて、よく泣いてたなー。泣くとまた、お父様が怒るんだ。弱い奴に用はないって。アシュはお父様にも疎まれてたな」

「普通、末っ子って甘やかされるもんだけどな」


 自らの記憶から零司は言う。マモンは小さく笑った。


「それは神の子だけだ。あたしたち悪魔は実力主義だ。強い者だけが愛される。だから、みんな強くなろうとするんだ」


 零司はアシュマダイの無表情を思い出していた。あの顔は、嫌な記憶を呼び覚ます――。



「ところでさ、悪魔って何の話?」



 脇から結城が顔を出した。

 すっかり存在を忘れてた。こいつがいたんだった。


 完全に置いてきぼりを食らっている結城は、零司とマモンをしきりに見比べている。興味津々な様子だ。

 仕方ない。こいつも契約者だし、説明してやるか。

 観念して教室に着くまでの時間を使って話してやった。



「え、てことは、二人は美人悪魔姉妹だったのか! 萌え要素追加だな!」


 第一声がそれか。


「というわけだから、告白には応じるなよ。死ぬぞ」


 こいつにはこれくらい言っておいたほうが安全だろう。「俺のモテ期が……!」と机を叩いて悔しがる結城を置いて、零司は頭を巡らせる。他に契約者の注意事項はなかったか……?


「そうだ! 襲撃!」


 はっとして零司は隣の席のマモンを見た。


「おい、結城も契約者なら、他の悪魔に襲われる可能性があるんじゃないのか?」

「うん、そうだな」

「そうだなって、軽く流せることじゃないだろ! どうするんだよ!」


 友人とも思っていないが、結城の訃報は聞きたくない。マモンは首を捻った。


「セキュリティシステムに守られてなくても、一人にならなければ大丈夫だと思うけどな。派手に地上で暴れると、エクソシストに目を付けられるから、それは避けたいはずだ」


 零司とマモンが結城を見る。二人の視線を受けた結城が、恐る恐る言った。


「今度の土日、うちの両親が旅行に行くから、俺、一人なんだけど……」


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