2人の想い

「千虎ちゃんの様子が変?」

「そうなのよねぇ」


日曜の昼間から珍しく鷲宮さんと作業通話をしていると、ふと鷲宮さんがそんなことをもらした。

私を誘ってきたのはそういう理由らしい。


「なんとなく私を誘ってきた理由はわかったけど、箱に所属してるんだから私より適任がいると思うよ。私、口下手なほうだし」

「知ってるわよ。ほんとあなたってONとOFFとでキャラが違うわよね……というか質問に答えるけど私、千虎の次に仲良いと思ってるのはあなたよ」

「それはそれでどうかと思う」

「いいのよ。交友関係なんて浅く狭くで、あなたとだって、飼い主さんがいなければ仲良くするつもりはなかったわ」

「最低だ」

「誉め言葉ね」


「……それで様子が変ってどんなところが?」

「なんか避けられてる感じがするのよねぇ」

「へー、心当たりは?」

「それがあったら相談なんてしないわよ」


んー、そういうのは自分で聞いたほうがいいと思うんだけど……


「直接聞くのは?」

「聞こうとしたけどはぐらかされたわ」

「……なら後、私にできることは鷲宮さんの話の聞き手になるか千虎ちゃんにそれとなく聞いてみるかぐらいしかできないけど」

「なら私の話を聞いてちょうだい。あいつはなかなか心開かないもの」

「百合雀的にはそれは私以外に懐く姿は見たくないってことでいいチュン?」

「殺すわよ」

「怖いチュン」


にしても懐かないか。

わりと私のイメージでは千虎ちゃんはまほろちゃんみたいに、人懐っこいイメージだったんだけど。


「第一、あいつ猫かぶりなのよ」

「陰口なら聞く気ないよ」

「聞きなさい。別にあいつを悪くいうつもりはないから」

「のろけ?」

「はいはい、のろけのろけ」


のろけなら聞くかぁ……


そうして、私は日曜の昼は鷲宮さんとの作業通話によって過ぎていった。


◆◆◆


日曜の昼間から何をしているんだろう。

一度、過ぎってしまったものを変えることはできず、私は天音さんから逃げていた。

逃げた結果が、公園でしゃがみこみ、なにかよくわからないものをトコトコ運ぶ蟻を見ている不審者だ。


だいたい、天音さんも悪いと思う。

デリカシーないし、デリカシーないしデリカシーないし……


はぁ……自己嫌悪だ。


「大丈夫ですか?」

「ほえ?」


突然、掛けられた声に顔を上げる。

そこには、心配そうに私を覗き込む美人さんがいた。


「ああ、大丈夫です。ちょっと自己嫌悪にのまれていただけなので」

「それは大丈夫なんでしょうか」

「所説ありです」

素っ気なく言うと美人さんはちょっぴり困った顔になって、笑った。

美人っていうのは何をしても花になって良いな……鷲宮さんもそうだし……


「よければお話ぐらいは聞きますよ?」


……どうやらこの美人さんは内面まで美人さんらしい。

普段なら断ってしまうだろうけど、今日の私はちょっぴり貪欲だ。


「なら、お話だけ聞いてください」

私の言葉に、美人さんは小さく微笑んで頷いた。




「許嫁ですか?」

美人さん。名前は明日さんの言葉にペコリと頷く。


「はい。あの人、二人で一緒にいるのに平気で許嫁が〜とかいうんですよ!?ありえなくないですか!?」


「まあ、二人で過ごしたいときはあんまり別の人の話出さないでほしいですよね〜」


「そうなんですよ!私は、心許せる友人として一緒に過ごしてるのにあの人にとっては別に私のことなんてどうでもいいんじゃないかって、そんなことを思っちゃうんです」


この人、聞き上手タイプだ。

話の合間合間の相槌や話を聞く姿勢から真剣に話を聞いてくれてるってわかって、話していて心地良い。


一通り話終わって満足した後、明日さんは少しだけ微妙な顔で何か言いたげな顔をしていた。


「どうしました?」

「あー、いや、なんでもないです」


もしかしてお話だけ聞いてくださいって言ったのを気にしてるんだろうか?


「何かあるなら言ってくれていいですよ」

その言葉に、明日さんは少し悩んだ素振りをして、小さくうなずく。


「あのー、余計なお世話かもしれないんですけど自分の気持ちにあんまり整理をつけられていないような気がして」

「整理、ですか?」

「はい」


私の問いに、明日さんは頷く。


「よかったら、その方とどうなりたいのかを考えてみるのもいいかもしれないです」

「どうなりたいか」


どうなりたいか、なんて今まで通り、のんびりと一緒にいられたらそれで満足だ。

もし結婚とかになってしまったら一緒にいられなくなってしまうかもしれないし、VTuberだってやめてしまうかもしれない。

一度、繋がりが希薄なったら天音さんの性格上、そのまま疎遠になって会うことはなくなってしまうだろう。


それが嫌だ。

私はずっと、天音さんとくだらないことで盛り上がりたいし、遊びたい。


側にいたい。


特別でありたい。


……あ


「整理はつきましたか?」

「……なんとなくは」

「なら良かったです」


明日さんが笑う。


「あの、ありがとうございます。私、ちょっと行かなきゃなので財布も持ってきてなくて、お礼とか」

「いやいや、いいですよ。そんなの。心が晴れたようで良かったです」


女神の方だろうか?

いや、女神の方なのだろう。


明日さんに深くお辞儀をして、そのまま走り出した。


向かう先は、天音さんの家だ。


_________________________________________

昨日、近況ノートに書いたのですが肩を痛め、執筆できる状態じゃなかったので更新が今日にズレました。

次回更新は火曜日か水曜日。


彼方さんはこういうムーブで何人の人間を落としてきたんだろうか。

近況ノートにおまけのSSも載せてます。

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