第99話 バズったり同衾したり

___なんか増えてる……


この前のホラーゲームコラボを終えて、2日。

夜寝る前に自分のMetubeチャンネルを確認すると、8000人ぐらいだった登録者数がいつの間にか1万2000人を超えていた。


「なぜ……?」

なぜ……?の顔をして、寧々にチャットを送ると無言で、URLが送られてきた。

タイトルは『Silenceコラボ 飼い主さんまとめ』?


サムネは寧々が前に描いた私の立ち絵と目を引くフォントの文字たち。

切り抜き動画ってやつだ。


URLを新規タブで開き、動画を再生しようとする。

だけど、私は再生よりも先にその視聴回数にフリーズしてしまった。


Silenceコラボ 飼い主さんまとめ


15万回再生 1日前


「ひえぇ……」


この前のコラボの切り抜きが有名な切り抜きチャンネルにアップされたおかげで、伸びてるみたいだ。

おそるおそるで、コメント欄を確認してみる。


『飼い主さんってこんなかわいいんだ』

『何が面白いって、これぜんぶ天然でやってるところ』

『浸かったら沼りそう』


良かった。

別に炎上してるとかじゃなさそう。

コメントで褒められるのは照れるけど、嬉しいし。


「彼方……」


ならいいかとMetubeを閉じると、後ろから寧々の声が聞こえてきた。

びっくりして肩を跳ねさせながら振り返ると、寧々が扉を半分だけ開けて、じーっとこちらを見ている。


「な、なに?」

「彼方がコメントにデレデレしてないか見に来ただけ」

「デレデレ?」

「なんでもない。あとこれ、いっぱい来てたけどどうする?」


そう言って寧々がスマホの画面を差し出す。

そこにはくえすちょんの画面が表示されていて、たくさんのくえすちょんが届いていた。


『飼い主さんのツイートンアカウントとか開設しないんですか?』

『飼い主さんのツイートンアカウント欲しい!』

『飼い主さんのアカウントで日常ツイートをしてくれるだけで救われる命があります……』


「あー……」


作るべきなのかな……


「彼方が好きなようにすればいいと思うよ。たくさんのファンが望んでても彼方の負担が増えるのは確かだし、変な意見が目に入っちゃうこともあるでしょ」


そうなんだよねぇ。

こればかりは本当に難しい。

私が作らない理由はあくまで私は裏方だからだ。飼い主さんのMetubeアカウントも雑談配信ぐらいしか使ってない。ゲーム配信すらこの前の『Silence』が初めてだった。

そのスタンスは今のところは変えるつもりはない。


「やっぱりやめとくよ。今度の雑談配信でちゃんと伝えるね」

「うん、わかった。彼方はそれで良いと思うよ。本アカと間違えて、えっちな絵RTしちゃったらまずいでしょ?」

「それはそう」


悪戯気に笑う寧々のかわいい笑顔に免除して、私の本アカが最近のR17.4ぐらいのイラストをRTしてたことが把握されていることは置いておこう。


さて……

ごろんと、私のベッドに転がる寧々を見る。


「あのー、寧々さん?そろそろ寝ようと思ってるんだけど」

「うん。いいよ」

そう言って、両手を広げる寧々。


「私、明日も仕事で」

「知ってるよ。今日は一緒に寝たい気分なだけ」

「……甘えんぼうだねぇ」


なんとなく、理由は察した。

私は寧々の待つベッドに入って、そのぬくぬくな体をぎゅっと抱きしめる。


「お腹いたい?気づけなくてごめんね」

「大丈夫……だけど、ちょっぴりしんどいかも」

「うん。わかった」


いつもよりもちょっぴり体温の高い寧々を抱きしめて、今日は睡眠用に流してる動画は流さない。

でも、この腕の中に、寧々の小さな体躯が収まってると考えると、ほんの少しの劣情がのこのことやってきてしまうのは、人間の悪いところだと思う。


「……キスぐらいはしとく?」

「いーよ。しんどいでしょ」


何かを察したのか、そんな提案をしてくる寧々を少しだけ強く抱きしめて、眠りについた。


「おやすみ。寧々。また明日」

「うん、おやすみ。彼方。また明日」


今日は、なんだかいつもよりも良く眠れる気がした。


______________________________________

ちょっと短め。

次回更新は、火曜日か水曜日。

定期的にこういう回を書かないと満足できない体になってます。

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