第97話 Silence(3)
「こわいなぁ、いやだなぁ」
『淳二?』
『四窓してるけどめちゃくちゃにおもしろい』
『草』
なんか知らない間に見てくれてる人が増えてる……
人の怖がる姿がそんなにおもしろいか?
……おもしろいか。
たしかに面白いなと納得しつつ、暗い廊下を進む。
さっき、チラッとライトの光が見えた方向に進んでみたけど、すっかり見失っちゃったし、いつになったら合流できるんだろう。
「足遅すぎて合流するなら斧捨てたほうがいい気がしてきた」
『捨てないでくれ』
「そんなダメ恋人みたいな」
なんかコメント欄の様子がおかしい気がする。
斧捨てるの反対派が多いし、モデレーターがなんかフル稼働している。
消されてるコメントは、暴言とかじゃなくて、普通のコメントっぽいし、なんだか私が知らないところで、盛り上がってるっぽい。
あっちはあっちでおもしろいことが起きてるのかなあ。
合流目指して、ちょっとずつ進めるほうがいいのかな。
……ひとりで?
いや、無理だけど……
「歌おう……!」
『なぜ?』
『どうして?』
『がおがおぶーっ?』
こわいし、こういうときは歌ったほうがいいに決まってる。
「すずめはかわいい、かわいいぞ~」
既存の曲は著作権の問題で配信じゃ無理だし、パブリックドメインも知らないしで、歌えるのは創作下切雀の歌ぐらいだ。
作詞作曲、長月さんである。
「すずめはつよい、つよいぞ~」
『は?可愛すぎて草』
『萌えキャラの方?スパチャ解禁してもらってもいいですか?(半ギレ)』
『すいません。自分、切り抜きいいっすか?』
「暗い道怖いぞ~」
『本音でてない?』
『怖がれてえらい!』
『こわいね……』
進みたくないよ~こわいよ~
というかここどこ……
暗い廊下を進み、開けられる扉を開けっぱで進んでいき、ここに私が通った痕跡を残していく。
だれか声ぐらい聞かせてくれないかな……
______メギャアアアアアン
……聞かせてくれた。
遠くのほうで悲鳴か悪魔の声かわからないものが聞こえてきた。
この声は、千虎ちゃん?
『なにいまの汚い悲鳴』
『エンペラー出す音?』
『この汚い悲鳴は……千虎ちゃん?』
とりあえず近づいてみよう。
追われてたら最悪、音立てずに隠れるし……!
「こっそり、行くね……」
そろりそろりと悲鳴の聞こえた方へ向かう。
すると、ライトの光が見えてきて、ドタバタと走っている千虎ちゃんが一階の大広間を全力で走っているのが、二階の手すり越しから見える。
やっと、やっと人の姿が見えた……!
そのまま千虎ちゃんは、階段を駆け上がり、私がいる方向からは逆の右手に走っていった。
きっと、私がいるから避けてくれたんだと思う。
「追いかけよう!助けられないけど……!」
『草』
『千虎ちゃん目線ではハンターが追加されただけなんだよなぁ……』
『おもしろくなってきた』
「待ってて千虎ちゃん、やられるところ見ててあげるから!」
『なんでやられる前提www』
『やめてね』
『千虎ちゃんは不憫なぐらいがええんや』
私は、距離を取りながらゆっくりとした歩調で追いかけた。
◆◆◆
やらかした、やらかしたやらかした……!
ゲームを進めながら飼い主さんを捜すことにした私たちは苦戦していた。
それは、あまりにも鷲宮さんがこういうゲームに慣れてなかったことが理由だ。
「あ、なんかラジオ鳴らしちゃったわ」
「バカ―ッ!!!!!」
私と雀ちゃん、二人の声が揃う。
そしてそれはやってきた。
見た目はほとんど芋虫だ。
だが体を纏う粘着質な黒い液体と真っ黒なクレヨンで塗りつぶされたような顔。
その体にはハエが集っていて、ソレが酷く悪臭を放っていることを悟る。
音に反応するってことはソレの目的はラジオだ。
だけど、恐怖に指が反応し、下がろうと思わず、Sキーに触れてしまった。
わたしが誤算だったのは、ラジオの効果時間が短かったということ。
ラジオは運悪く直ぐに消え、私がガラスを踏みぬいた音だけが小さく鳴る。
ソレがラジオからこちらへ向き、その粘着質な体を捩らせながら、私へ向かってくる。
「メギャアアアアアン」
よくわからない悲鳴を上げて、走り出してしまった私を静止する声なんてものも聞こえず、私は必死に逃げていた。
どこか、どこか隠れられる場所は……
自然と最初にいた大広間に出てきて、目の前に階段に走っていく。
マウスで一瞬だけ視界を動かすと、左手側にはさっきのぼんやりとした明かりが見え、別の化け物がいることがわかった。
じゃあ、逃げるのは右側だ……!
曲がり、どうにか解決策を探す。
なにか、隠れられる場所は……
怪物はまだ追ってきている。
足音がしているから当然だ。
「でも、チェイスじゃ負けませんよ。私はホラー鬼ごっこのキラーでノーパーク全滅企画やってるんですから!」
「『でもそれ追う側では?』……うるさいよ!」
逃げ続けていると、ある違和感に気づく。
なんで扉が全部、開いて……
一階にある扉は閉まっていた。
開いているということは誰かが部屋を開けたということ。
飼い主さん……!
扉は閉められる。
敵はプレイヤーよりも足は速いけど、たびたび聞こえる衝突音と角のおかげで距離は離れている……気がする……!
これなら逃げられる!
だが、喜びもつかの間、突き当たりを右に曲がった私に待ち受けていたのは、 行き止まりの壁と、左右の開いている扉。
考えている暇はない。
さっきから右ばかりに進んでいる私は迷わずに、右手の部屋に入り、扉を閉める。
___ガンガン、という音と共に扉を破壊しようとする音が聞こえる。
トレーラーで扉を破壊しながら追ってくる怪物を見た。
この部屋は幸い、奥にもまだ続く道があるようだけど敢えて私はその場に息を潜める。
「ふっふっふ、私はジーニアスなので、ここで息を潜めるんですよ」
身を屈めて、静かに待機する。
____ガタン!
直ぐに扉が破壊されるが、ここにいる私が音を発してない以上、見つかるはずはない。
あー、ジーニアスジーニアス。ジーニアスすぎて困っちゃうジーニアスねぇ……
ぬちゃぬちゃ、と粘着質な音が響く。
それはビビるぐらいには怖いけど、相手が襲ってこない以上は大丈夫だ。
そしてやがて、ソレはゆっくりと部屋を徘徊し始めた。
円を描くように、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。
捜しているんだ。
私を。
そしてその行動の先には私がちゃんといる。
ふっふっふ、落ち着け落ち着け。
ここで慌てる千虎七瀬ではない。
足音を立てないように、ゆっくりと、ゆーっくりと……___パキ
「パキ?」
足を踏み出した先にあった木の破片。
それはさっき、怪物が破壊した扉の欠片だ。
「へ、変なところばかり作りこんで~~~~!!!」
『ジーニアスは流石ジーニアスねぇ』
『草』
『うーん、不憫』
前はいけない。
こちらへ凄いスピードで向かってくる怪物から、奥へ逃げ込む。
こっちが行き止まりならゲームオーバーだ。
奥には更に部屋があり、扉がある。
あの部屋に逃げ込んで、さっきみたいに、今度は足元に注意しながら息をひそめれば今度こそ、なんとか逃げ切れる……はず!
私は必死に扉を開け、その中に逃げ込んだ。
そして、絶望する。
そこには、ぼんやりとしたランタンの光を放ち、斧を振り下ろさんとする何かがいた。
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更新遅れました。申し訳ございません。
事情とお詫びのSSを昨日更新した近況ノートに置いてます。
次回更新は、水曜日か木曜日!
最近、18時に投稿できてないので18時投稿できるようにがんばります。
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