第96話 Silence(2)

「ぴぃぃぃぃぃ」


蚊の鳴くような声で、真っ暗闇のなかをぴぃ、と鳴く。

親鳥がやってくるわけもなく、私はこの闇のなかで途方にくれていた。


「ゆ、有識者たすけて~」


コメント欄に助けを求める。


『もっと鳴いてくれ』

『暗すぎるっぴね』

『見た感じ、二階の書斎が近いはずだから行き止まりまで歩いて、突き当たりにある部屋に入ってみて』


ゆ、有識者~~~~~!

全力感謝をしながら、真っ暗闇を歩いていく。


それにしてもさっきの声ってなんだったんだろう。


「ねぇ、さっき変な声が聞こえて驚いちゃったんだけど、あれなんだったの……?」


『……なんだったんでしょうね』

『イヤー、ワカンナイナー』

『飼い主さんのため口に限界になった……わし……ごほんごほん、幽霊がオタクの声漏らしちゃったんじゃないかな~、知らんけど』


名誉のために見なかったことにしておこうかな……



とことことこ、と足元に気を付けながらなんとか突き当たりの部屋までやってきた。

扉は施錠されてなく、そのまま入ることができ、中はぼんやりとしたランタンの明かりに照らされている。


「明かり落ち着く~」

扉を閉じて、探索に移る。


このランタンは持っていけないのかな?

というかなぜランタンが……?


「あ、持てるっぽいね」

ランタンを持つ。さっき持ってたライトと違って、明るさはややぼんやりしてるけど、こっちのやや赤みがかった光のほうが落ち着く。


あと中にあるのは……日記?


日記と称されているのは紙切れ一枚。

とりあえず開いて読んでみる。


12月8日


私の研究はついに成功した。

あれは、近い将来、国を救う鍵となる。

犠牲になった者のことを考えると、心が痛むが祖国のためだ。

彼らもあの世で喜んでくれるだろう。


あとは量産できればいいのだが……


「量産……?このあれってのは、さっきのやつでいいのかな?でもあれが国を救えるなんて思えないけど」


『敵国に放てば、結構被害は凄そうだけど正直、銃あればなんとかなりそうだしな』

『1000体ぐらいいれば、兵器運用できそう』

『違うんだったらもっと別の怪物がいることになるけど……』


「そうだったそうだった。あれのことにしとこう。別のが出てきたら耐えられないからね」


うんうん、と頷く。


「さて、雀たちと合流したいけどどこにいるのか……あ、言わなくていいよ。伝書雀行為はよくないからね」


『了解』

『無理すぎたら言ってね』

『ランタンを手にして、セーフゾーンっぽい場所にいるからちょっぴり強気だ』


「そういうのは分かってても言わないんだよ」


実際、ここから出たら私はまた一匹のヒヨコに戻ってしまう。


その前に、ここで心の準備と探索を十分に済ませておかないと。


「あれ?」


部屋をくまなく歩きまわっていると、ふと壁に掛かっている斧が光っていて、近づくとそれをFキーで拾うことができた。


「え、斧拾えるの?」

手にしっかりと握られている斧。

左クリックで、振ることもできるけど、振ったら一瞬、黄色ゲージになったから音が出るらしい。


『勝ったな』

『倒せるなら余裕じゃん』

『壁破壊用です(小声)』


「小声助かる」

あっぶない。あれが出てきたときに脳死で振り回してしまうところだった。


「壁破壊用なんだ……あ、しかもこれしまわれないからずっと持ってなきゃいけない感じか……うわ、足おそ……見つかったら絶対逃げられないやつだ。捨ててくか?」


『でも、むしろその方が見つかったら詰みで逃げる恐怖なくなるから良くない?』


「天才?」


たしかに、見つかった目を瞑るだけと考えればちょっと心が楽かも……?


「よし、私はこの斧と一緒にいくよ。今日から私はエイリーク1世だ!」


『ドラララララッ』

『バーサーカーかな?』

『一応、フレンドリーファイアあるから気を付けてね?』


そうと決まれば、さっそく出発だ。


ランタンを手に持ち、斧を片手にのそのそと歩きながら扉を開ける。


とりあえずの目標はみんなとの合流だ。


怪物が這いまわるような音はしない。

ほっと息を吐き、私はランタンを持って、歩き始めた。


◆◆◆


「な~~~にやってるチュンか」


ジト目で鷲宮さんを眺めると、鷲宮さんは反省の意を示すようにしゃがんで床を見ている。


「ほんとうに、申し訳ないと思っているわ……」

「梅雨さんの限界オタクがこんなことになるなんて」

「このゲームってマルチで死んだらどうなるチュン?」


「たしか、助けられるまでふわふわ浮かぶだけの幽霊になります。半透明でプレイヤーにも見れますが、代わりに喋れません」


「じゃあ飼い主さんはまだ生きてるっぽいチュンね~」


飼い主さんは、自分がそういうスペクターみたいな存在になると直ぐにとんでくるタイプだ。


「さ、探しにいきましょう」


どのエモートを使ってるのか手をぶんぶんと振って、歩いていく鷲宮さん。

小走りで先に進んでいく、鷲宮さんに千虎ちゃんと一緒に慌ててついていく。


「ライトの光を目印に探せばいいはずよ」

「たしかに敵はライト持ってないチュンからね」


「ん、あれ光ってるのライトじゃないですか?」


二階に上がって歩いていると、ぼんやりとした明かりが見えて、千虎ちゃんが声を上げる。

その明かりに照らされ、人影のようなものを作っていた。


「いた!」

「ちょ、ちょっと待つチュン!」


鷲宮さんが声を上げて、向かおうとするのを慌てて止める。


「なによ」

「なんか影の形おかしくないチュンか……?」


その影は、明らかに私たちが持つライトとは違う、オレンジの明かりを放っている。

そして特筆すべきはその手に持っているもの。


それは明らかに『斧』のような形状をしていた。


「あ、あんな敵もいるんですか!?」

「し、知らないチュン!」


その影はゆっくりとした足取りでこちらへ向かってくる。


「鷲宮さん、逃げるチュン!」

「わ、わかったわ!」


その影の足は遅い。

追いつかれることはないから、ばったり出会わなければ大丈夫なはずだ。

ただBGMも変化してないし、たぶん私たちはまだ見つかってない。

見つかったらまずいかもしれないからあの光には注意して進まないとだ。


こうして、私たちは足音を立てないように一階へ降りた。


「あんな敵もいるチュンか……」

「トレーラーには載ってなかったんですけど……」


「とりあえず光には注意して進みましょう。ちゃんと光の色を見ないと」

「そうですね」



____結局、これがとんでもない間違いだったと知るのは、まだまだ先の話だ。



______________________________________

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