第93話 酔っ払いにご注意を
「沙雪ちゃん、そっちのカルビのやつとって~」
「これ?」
「それはギガミート」
どうしてこうなったんだろう……
机の上に並べられたピザとサイドメニューの数々。
ウイスキーやジン、ビールと机の上に置ききれず、地面に置かれたお酒たち。
私は
……まあ、なるようになるか。
猫神様が寧々にツイートン見て、と連絡し、寧々がそこに書かれた文章にどういう感情を得て、これからどうなるかは考えないようにしたほうがいい。
寧々には『ごめんなさい』のスタンプと2人の許可を得て、この場所の位置情報を送っている。
「雀ちゃんはなんて?」
「こう、らしいです」
寧々が送ってきたファンマイ公式がなんかの記念に出したスタンプを猫神様に見せる。異形が怒りでのたうちまわっているスタンプだ。
「お、お怒りだ……」
「あ、でも用事済ませてからくるっぽいです」
「おー!雀ちゃん追加だー!」
「じゃあ、雀ちゃんが来るまではカナタちゃんを2人占めだね」
そう言って、わんへさんが笑う。
私は照れて赤くなりそうな頬をごまかすために、ちょっぴり濃い目に作られたハイボールに口を付けた。
◆◆◆
「カ、カナタちゃん大丈夫?」
「大丈夫ですよ~!」
「ぜったい大丈夫じゃないよね!?」
3人でだらだらお話しながらの会話は、思った以上に盛り上がり、だからお酒も進んじゃったんだと思う。
顔を赤くして、にへらと表情を綻ばせるカナタちゃんは、完全に酔っぱらっていた。
「これは確かに雀ちゃんも激おこになるね~」
雫の言葉に頷く。
カナタちゃんは顔が良い。そんなカナタちゃんがこの酔っ払い方するのは破壊兵器だ。
「雫、水持ってきてあげて」
「うん」
「……そういえば」
「ん?なに?」
「なんで、沙雪ちゃんたちはお互いを名前で呼び合ってるんですか?」
「あー」
こてん、と小首を傾げるカナタちゃん。
正直、クソかわいい。
たぶん、質問はなんでVの方の名前で呼び合ってるんですか?ということだと思う。
酔っぱらってちょっと言葉足らずになってるのも、わんへじゃなくて沙雪のほうで呼んじゃってるのも可愛すぎる。
「ふっふっふ、それは私からお答えしよう。あ、これ水ね」
水を持ってきた雫が、酎ハイをいっぱい飲んで、ちょっと酔いの入ったテンションのハイさで、入ってくる。
「何を隠そう!雫とは、この
「わー!」
ぱちぱちぱち、と拍手するカナタちゃん。
「ちなみに私は違うよ。本名は
「沙雪ちゃんは沙雪ちゃんだからね!」
「てぇてぇだ」
てぇてぇかな……?
カナタちゃんが言うならてぇてぇなのかもしれない。
「私は
「明日?珍しい名字だね!」
明日……、なんか昔そんな名前の女優がいたような。
そんなことを考えていると、ふと彼方ちゃんがしていたネックレスの先に指輪があるのが見える。
しかも結構、良い指輪だ。
「あ、これですか」
私の視線に気づいてか、彼方ちゃんが指輪を見せてくれる。
「これ、寧々……あー、雀にもらったんです」
「雀ちゃんに?」
「はい。これは親友の証で、大好きの証で」
彼方ちゃんが慣れた手つきでネックレスから指輪を外し、自分の薬指につける。
「唯一無二の愛の証なんです」
愛おしそうに、自らの薬指に光る指輪を見つめる彼方ちゃん。
それを見て、雫の肘で小突かれる。
「私も欲しいな~~~~~!」
雫の言葉に、曖昧な笑みを返すことしかできない。
「そのうち、ね」
「飼い主さん、今の聞いてた!?言質取ったよね!」
「はい、たくさん取りました」
指輪高いからなぁ……
たくさん稼がないと。
______ピンポーン。
インターホンが鳴る。
テレビドアホンなんて上等なものはないから、訪問者が誰かは察しつつも、扉の前で返事をする。
「はい」
「雀です。彼方を引き取りにきました」
「はーい」
その声に、扉を開ける。
すると小さいまだ少女に見える女の子が立っている。
私は初めて会ったけどこの子が、雀ちゃんか。
「わんへです」
「あ、わんへさん。飼い主さん……彼方がお世話になってます」
ぺこり、と頭を下げられる。
「あ、雀ちゃんきた!入って入って!」
「え、私は彼方を引き取りに来ただけ」
「いいからいいから!」
雫が雀ちゃんの手を引いて、部屋に上げる。
そして酔っぱらってる彼方ちゃんを見ると、はぁ、とため息をついた。
「あ、寧々~」
両手を広げる彼方ちゃん。
さっきもネネって呼んでたけどそ雀ちゃんの名前なのかな?
そんな両手を広げる彼方ちゃんに、雀ちゃんが驚くほど滑らかに吸い込まれていき、その両手に収まった。
「思ったより酔ってない。良かった」
「そうなの?」
雫の問いかけに、雀ちゃんが頷く。
「彼方は酔うともっと凄い。たぶん、お酒飲むのと同時にご飯もいっぱい食べたからかも」
「えへへ、寧々~」
バックハグされている雀ちゃんが彼方ちゃんの言葉に、「はいはい」と返事をする。
あまりにも慣れた様子に、2人のなかではこれが日常茶飯事なんだと察する。
これぞまさにてぇてぇだ。
「雀ちゃんたち、今日泊まっていかない?狭いけど!」
「え、でも」
「大丈夫。隣の部屋も配信用で借りてて、そっちでも寝れるから!もっと雀ちゃんと話したい!」
「……予定もないしいっか。この状態の飼い主さんを外に歩かせたら、いたるところからBIGKISSがとんできそうだし」
「やったー!そうと決まれば宴だ~!あ、出前ーバ頼む?なんでも奢ってあげるよ!」
「別に良いよ。私、冷めたピザも好きだし」
雀ちゃんがそう言って、笑う。
どうやら今日の宴は、まだまだ続くようだ。
二日酔いが確定しそうな明日のことは考えず、グラスに残ったビールを飲み干した。
◆◆◆
体を包む柔らかくて、甘い匂いに目が覚める。
ぼやける視界が戻ると見慣れた小さな体が見える。
____途中から全然、記憶がない。
寧々がいて、抱き枕にしてるってことは帰ってきたのかと思ったけど、それは大量の空瓶と缶、そしてそこら辺で雑魚寝している残り二人を見て、全てを理解した。
……二度寝するか~
全てを理解した私は、もう一度寧々の体を抱きしめ、二度寝を決行した。
_____________________________________
次回更新は火曜日か水曜日。
特に覚える必要のない2人の本名が明かされています。
もっとでろんでろんに酔っぱらった彼方さんを書きたかったんですが、彼方さんが何も考えず、セーブせずに酔えるのは寧々さんの前だけでは?という自分のなかのやっかいオタクに怒られたので自重。
そのうち、でろんでろん酔っ払い彼方さんをどこかで書きたい。
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