第91話  狗猫、いい空気吸ってる人

「し、雫、こ、これは違うくてね……」


つっかえつっかえに、弁明するわんへさん。

猫神様は笑顔だ。


その様は完全に浮気がバレた人で、なんだか巻き込まれ事故を受けている私は、そんなわんへさんを見て、無力な私はすることしかできない。


今日の猫神様は眼鏡をかけている。

猫神様は綺麗な金髪で、その目は透き通るように青い。


猫神様のジトッとした視線がこちらへ向く。

なにわろてんねんと言いたげな視線は、次第にまん丸に変わって、表情が驚きに染まった。


「え、もしかして飼い主さん……?」

「はい。お久しぶりです」

「えっ!全然気づかなかった!」

「前に会ったの相当前ですからね」


「うん。飼い主さんだよ。だ、だからね。浮気とかじゃなくてね……」


誤解が解けそうなのにも関わらず、まだしどろもどろなわんへさんに、猫神様がジト目を返す。


「いや、でも飼い主さんは沙雪ちゃんが好き。ということは沙雪ちゃんがその好意を利用して……」

「私を何だと思ってるの!」


「冗談だよ。沙雪ちゃんにそんな度胸も、それに私一筋ってことも知ってるから」


ありがとうございます……ありがとうございます!


机の下で両手を合わせて、この世のすべてに感謝を示す。


浮気の誤解が解け、ほっとした様子のわんへさんが胸をなでおろした。


「隣座るね」

猫神様がわんへさんの隣に座る。

わんへさんは、とても居心地が悪そうにしている。


「ところで何の話をしてたとか聞いてもいい?」


しばしの沈黙が流れて、猫神様が口を開く。

これに答えるのは私ではない、わんへさんを見る。


だけど、わんへさんは全力で顔を逸らしていた。


往生際の悪いタイプの推しだ……


「え、本当に浮気……?」

不安気な顔に、慌てて首を振る。


「違います!でも、内容は本人から話を聞いた方がいいと思います」


「沙雪ちゃん?」

「……ちょっと待って、今、脳みその整理してるから」


脳みその整理をしているらしいわんへさん。


頑張れ頑張れと内心応援していると、ふと周囲からの視線を感じた。


まわりを軽く見ると、目を引く容姿の猫神様の登場で注目を集めちゃってるみたいだ。


「ここ、人が多いので別の場所で話したほうがいいかもしれないですね」


「そうだね」

猫神様が頷いてくれて、沙雪ちゃんたちと一緒に店を出る。


これで、私はお役御免だろう。


「では私はこれで」


頑張れわんへさん。

エールを心の中で送り、帰ろうとすると腕をガシッと捕まれる。

驚いて、こけそうになりながらも腕を見ると、わんへさんがしっかりと私の腕を掴んでいた。


「事情を知ってるカナタちゃんに一緒にいてほしいな~……って」

視線の合わないわんへさんの言葉に、猫神様も元気な声を上げた。

「あ、私も!1on1ワンオンワンなら沙雪ちゃん全然口割らなさそうだから」

「そんな尋問みたいな……、わかりました」


推し二人に頼まれて、断れる人がいるだろうか。いや、いない。

寧々に『今日帰るの遅くなるかも』と連絡を入れて、猫神様たちについていった。



2人と雑談をしながら駅まで歩き、そのまま電車に乗って10分ぐらい。

年季の入ったアパートに、案内される。


「ここって」


「ふふふ」

猫神様が不敵に笑い、102号室の扉を開けた。


「ようこそ!わが家へ!」


どうやら私は推しの家に招待されてしまったらしい。


______________________________________

更新遅れました。

ごめんなさい。今回短いです。


次回更新は水曜日か木曜日。

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