第88話 1周年記念配信(5)
「配信開始からPCに噛り付いてやって出番がきたにゃ!雀ちゃんの新衣装可愛すぎるにゃ~~~!」
「ありがとチュン!」
最後はやっぱり雫ちゃんだ。
下切雀を最初に引っ張ってくれた人で、私の憧れの人。
さっき、ツユキちゃんは私に救われたと言ってくれた。
それならば、下切雀は雫ちゃんたちに救われたようなもんだ。
まほろちゃんの凸のときにも言ったけど、今日、こんなにたくさんの人に祝われて、1周年を迎えられたのはまほろちゃんと雫ちゃんの力が大きい。
もちろん、伸びる自身はあったし、私は自分のゲームの腕前を信じている。
きっといつかはたくさんの人が下切雀を見つけた。だけど、それが早まったのはどこかの猫神様が、初配信すらまだの私を見つけてくれたからなのは確かだ。
雫ちゃんが見つけてくれたから私はこの場所に今、立っていて、たくさんの友だちができた。
「ふふっ、雫ちゃんありがとチュン」
「おぉ!?今の!今の凄い甘い感じの声なんにゃ!?ぞわぞわってきたにゃ」
『今のVOICEでオタクは死にましたあーあ』
『今の声凄くて耳びっくりしてる』
「今のはチュンの雫ちゃんへの感謝をたっぷり込めた囁きチュン」
「毎秒やってほしいにゃねぇ!」
「これはチュンの感謝パワーが溜まらないと使えない秘儀だからたくさんチュンの感謝を溜めるチュン」
「アーカイブで聞くにゃ」
『感謝溜め諦めてて草』
『雀を感謝させるには、飼い主さんになんとかしてホラゲーさせるしかない』
「さてさて雀ちゃんはにゃーにどんな質問するのかにゃ?スリーサイズなら@プラスの公式サイトに記載されてるにゃ」
「あの、100000m 40075m 10920mとかいうデカめの逆三角みたいなスリーサイズチュンね……」
「3つがそれぞれ何を表してるかが分かった人は、一度限り@プラス公式通販サイトで30%オフクーポンがもらえるにゃ」
「猫神雫冬季ボイス絶賛発売中チュン!」
『突然の販促は、VTuberの特権』
『打ち合わせしてたぐらいの息ピッタリ』
『仲良し助かる』
「仲良しチュン。そして雫ちゃんにしたかった質問はたくさんあるけどなんとか2つに絞ってきたチュン。まず一つ目の質問チュン。これはこっそりと気になってたことチュン。雫ちゃんがチュンを見つけてくれた時、そんなにRT数も多くはなかったはずチュンけどあれはタグから見つけてくれたチュンか?」
『確かに』
『猫神様の嗅覚凄いなとは思ったし、なんなら知り合いかもみたいな噂もあったよね』
「あれにはふかーい事情があるにゃ あの日、にゃーは顔が好みの女を探してたにゃ」
「もう聞かないで良い気がするチュン」
『ちゃぷちゃぷ音鳴ってて草』
『足の甲ぐらいしか浸かってないw』
「それで新人VTuberタグを漁ってたところ、運命の出会いがあったにゃ」
「それがチュンだったというわけチュンね」
「いや、別のたわわなお姉さんだったにゃ」
「おっと」
「だけどその人がRTしていたのが雀ちゃんのプレイ動画だったにゃ」
『途中、知らないお姉さん挟まってて草』
『猫神様と雀ちゃんに挟まる謎のたわわなお姉さん』
『参考までに誰か教えてほしい。あくまで参考までに』
「なるほど、その謎のお姉さんに感謝しなくちゃチュンね。ちなみに参考までにその謎のお姉さんの名前は?」
『エロ雀でたな』
『発想がコメ欄と同レベルで草』
「その人は今、活動休止中にゃから名前出していいかわからないにゃね」
「そうチュンか……」
「産休中らしいにゃ」
「今ので誰かわかったチュン」
既婚をデビューから公表していて、今は産休中の褐色お姉さんが頭に思い浮かぶ。
『一瞬で誰か分かって草』
『運命の出会い(人妻)』
『人妻を勝手に挟むな』
「という感じでにゃーは雀ちゃんを見つけたにゃ」
「なにはともあれ、チュンを見つけてくれてありがとうチュン」
「にゃーも、雀ちゃんがいてくれて、にゃーの世界はもっとあったかくて明るくなったにゃ!だからこちらこそありがとうにゃ」
『てぇてぇ』
『こーれ猫雀です』
『今日は猫雀食っていいのか!?』
『鳥獣保護法違反やめてね』
「次の質問は今後下切雀と一緒にやってみたいゲームやことはチュン。これはまほろちゃんと同じ質問チュンけど雫ちゃんにも聞いてみたいチュン」
「ちなみにこの質問で、答えたことは叶えてくれるにゃよね?」
「……ぜ、善処するチュン」
「か な え て く れ る にゃ よ ね?」
「はいチュン!」
『先輩VTuberの圧』
『これは捕食者』
『猫に睨まれた雀』
「にゃーが雀ちゃんとやってみたいことはJump Queenにゃ」
「いやですチュン」
『即拒否草』
『JQはやばい』
『ガチの地獄登山ゲーやめてね』
Jump Queenは所謂登山ゲーだ。
Jumpと左右移動しかできない主人公が、姫を助けるために山を登っていくという一見、単純に見えるゲームだけどその難易度は鬼畜を上回るレベルで、ジャンプには溜めによってその飛距離が変わり、シビアなジャンプが求められるため、些細なジャンプのミスでそれまで上手く登っていても一気にスタート地点やその前まで叩き落されるようなゲームだ。
知っているVTuberは30時間近くプレイしてもクリアできなかった。
「まだ話は終わってないにゃ!にゃーがやりたいのはJump Queenのオフコラボにゃ!」
「オフコラボ?チュン?」
「そうにゃ!にゃーと雀ちゃんのオフコラボで、どっちかが限界がきたら交代するってイメージにゃ 場所はまだ決めてにゃいけどスタジオか、もしできたら雀ちゃんたちの家、うちは狭めだからどちらかでやれたら嬉しいにゃ」
「なるほどチュン」
『うおおおおお!』
『激アツきたな』
『猫雀長時間耐久オフコラボ配信はさすがに嬉しすぎるかも』
彼方の方に視線を向けると、緊張するけどいいよの視線を返してくれた。
幼馴染力があるとそういうのはアイコンタクトで十分。
「じゃあ、うちでやるチュン?飼い主さんがいいよの視線を返してくれたチュン」
「ほんとうにゃ!?じゃあ雀ちゃんたちのおうちで一緒にやりたいにゃ!どこかのまほろちゃんが雀ちゃんたちの家に行ったことあって、にゃーがいったことないのは間違ってるにゃ!」
「それが理由チュンか」
『“なったな”』
『猫雀と飼い雀が同時に襲ってきて、雀の餌の脳はもうおしまいです』
『最高最高最高最高ハッピー!』
こうして猫雀の自宅オフコラボが決定した。
◆◆◆
「雀ちゃんをもっとお祝いしたかったにゃけど、さすがにもう5分以上長引いてるからにゃーはそろそろお疲れ様するにゃ!」
「わ、本当チュン」
「じゃあ改めて、雀ちゃん1周年おめでとうにゃ!そして願わくば、これからもずっとにゃーの友だちとして一緒にいてくれると嬉しいにゃ」
「当たり前チュン!チュンは、一生、雫ちゃんのマブチュンから!」
「にゃはは、じゃあ一生一緒に遊ぶにゃ!じゃあ、雀ちゃんまたディスコ送るから配信内でも外でも一緒にゲームするにゃ~!」
「一生一緒にチュン!雫ちゃんありがとチュン~~~!!!!!」
ぽろろん。
雫ちゃんが抜ける。
これで全員の凸待ちが終了した。
最初はまほろちゃん、そしてツユキちゃんに鷲宮さんと千虎ちゃん、メア博士とステラちゃん。
そして最後に雫ちゃん。
1年でずいぶんと友だちができたものだと思う。
やっぱりVTuberは最高だ。
そして……、まだ最後が残っている。
これは凸待ちじゃなくて、下切雀として1周年を終わらせて、そして2周年に向けてへの挨拶だ。
それに必須なのは私と。
視線を向けると彼方が頷く。
こそこそと近づいてくる。
「宴もたけなわチュンけど、そろそろお別れの時間がやってきたチュン!」
『いかないで……』
『あっという間だった』
「最後の最後にちょっとしたサプライズがあるチュンけどそれを語る上ではこの人が必須チュン!飼い主さんかもーん!」
「こんばんは。飼い主です。今日は楽しんでもらえたでしょうか?私個人としては見ててほんとうに楽しい1周年記念配信でした」
『たのしかったよ~~~~!!!!!』
『最高だった!』
『雀ちゃんあらためて1周年おめでとう!!!!!』
たくさん流れていくコメントに、2人顔を見合わせて笑う。
「さてさて下切雀の1周年記念配信はもう直ぐ終わっちゃうチュンけど、さっきも言った通り、サプライズがあるチュン。それは~~~~~、この後0時に公開される飼い雀の『歌ってみた』チュン!」
『うおおおおおおおおおお!!!!』
『お歌!?マジ!?』
『歌みた嬉しすぎる!』
「Mixを担当してくれたのは、この前コラボした
『イラストと編集を2人で出来るのほんとうに強みだ』
『しうちゃんがMixしたんだ!?』
『すげぇ』
「この後、0時に投稿されるチュン!みんな、ぜひ聞いてほしいチュン!」
「個人的に最高のデキです!」
「よし、じゃああらためて締めの挨拶に入らせてもらうチュン。あの日、チュンがこの世に生まれた日からチュンはたくさんの人の応援に支えられて、今ここにいるチュン!VTuberさんや飼い主さんだけじゃなくて、雀の餌のみんなの誰か1人でも欠けていたらもしかしたらこの場にいなかったかもしれないチュン。チュンが今日まで活動を続け、これからも活動をしていこうと思えるのは、雀の餌のみんなのおかげでもあるチュン!だからこの場で最後に伝えさせてもらうチュン!
みんなー!大好きチュン!」
『俺も大好きだー!!!!!』
『私も大好きだよーーー!!!』
大量のコメントが流れ、目が潤み、鼻がツンとしてくる。
一度、鼻をすすって、彼方の手を強く握りながら、最後の言葉を叫んだ。
「これ以上やったら本当に泣いちゃいそうだから今日は配信はここまでチュン!みんなーーーー!おつずめーーーー!!!!!」
『おつずめ~~!』
『おつずめ!』
『おつずめだ~~~!!!!!』
『たのしかったよ~~~~!!!!』
配信が切れる。
自然と溢れだしてくる涙を、私は彼方の胸で拭くことに決めた。
彼方は何も言わず、優しく背中をぽんぽんと叩いてくれる。
いつの間にか、時刻は0時をまわり、私たちの歌ってみたが投稿された。
曲名は『My Dear Friend』
覚えている人はいるだろうか、かつて私が実況したVTuberコレクションで、私が担当した
この曲に込められた想いは、作中で語られている通りで、お世話になったVTuberさんたちや支えてくれた大切な人のことを考えてつくった曲だ。
悔しかった過去も、辛かった時も、そして未来が幸せだと言い切れる今を歌った彼女の曲を私は歌いたかった。
私は確かに歌が苦手だ。
小学生の頃は、人前で歌うのが恥ずかしくて、でもがんばって歌うとからかわれたりなんかして、良い思い出はなかった。
でも、今の私はこの歌を胸を張って聞いてくださいと言える。
拙いながらもVTuberになってできた大切な友人たちと、雀の餌のみんな、そしてお互いの最愛の幼馴染に向けたその曲は、公開されて直ぐに10万再生を突破した。
______________________________________
曲名は架空のものです。
前回の話で、雫ちゃんのことを猫神様と呼んでたところと、ステラちゃんの関西弁っぽい方言の修正をしました。
次回更新は今週の金曜か土曜!
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