第87話 1周年記念配信(4)
「久しぶりだね。雀くん」
「お久しぶりチュン!」
メア博士のダウナーなかっこいい声が脳を焼いてくる。
こんなかっこいい声を出すなんてなんらかの条約に引っ掛かってると思う。連邦法とか。
「雀くん、1周年おめでとう」
「ありがとうチュン!」
そしてメア博士にはこちらもおめでとうと言わないといけない。
「メア博士も登録者10万人突破おめでとうチュン!」
メア博士はこの前、チャンネル登録10万人を突破した。
普段の配信をもちろん面白いんだけど、突破した理由はとある配信がたくさんの人の目に留まったからだ。
「それでさっそく質問なんチュンけど可愛いバニーたちはどうだったチュン?」
「あはは……」
メア博士は、今、人気を博しているとあるゲーム配信を行っていた。
かわいい女の子に接待されながらお酒を頼むゲームだ。
人気ゲームだけあって、それだけならただの配信だけど、メア博士の配信はひと味違う。
それは女の子にときめくたびにお酒を飲むという縛りプレイである。そしてときめくかどうかは画面に表示された心拍数で分かる。
そしてこういうゲームでの必需品である目線トラッカーも入っていた。
女の子のパンチラをしっかり凝視して心拍数を上げたメア博士、お酒を飲むにつれて饒舌になっていくメア博士。
胸の大きさや下着の品評を始めたときは、コメント欄でカスのソムリエと呼ばれていた。
そんなメア博士の切り抜き動画がバズりにバズり。続く配信も好評で、メア博士の登録者はうなぎ登りというわけだ。
『エロ博士だ!』
『エロエロコンビってこと?』
『あの配信、普通に気持ち悪くて草だったぞ』
「メア博士の元師匠としては、初手お胸にしか目がいかないのはクリアリングが甘いとしか良いようがないチュンね。確かにショットガンなら胴撃ちで良いチュンけど」
『クリアリングwww』
『あの配信のメア博士、あまりにも男の子だった』
『でも雀ちゃんもたぶん、メア博士と大して変わんない結果になりそうな……』
「言い訳はしないよ。アーカイブ見れば全ての反証ができるからね」
「最高にVTuberしてるチュン。これからも定期的にちょっとえちなゲームをプレイしてほしいチュン」
「そのときは雀くんもお誘いするよ」
「トラップカードでツユキちゃんを犠牲にするチュン」
「雀くん、ツユキくんはダメだよ。守護らねばだよ」
『露木ちゃんは清楚の希望やぞ』
『ツユキちゃんを巻き込んではならない』
『うるせぇ!行こう!』
「じゃあ、改めておめでとう雀くん」
「ありがとうチュン!」
ほとんど1周年というより雑談のような感じだったけどメア博士の凸が終わり、次の刺客がやってくる。
「そして次は私のかわいいかわいい娘がきてくれたチュン!」
ポロロン、という音と共に、入ってくるのは可愛い顔をした私の娘だ。
「鐘の音は、星がやってくるのを知らせる合図!その姿は綺羅星の如し!ステラ・カンパネラだよ~!ママ、1周年おめでと~~~!」
「わ~~~!ステラちゃんありがとうチュン!」
『きたな、綺羅星のごとく現れて関わっていく女性Vを次々と落としてるすけこましが』
『可愛い系のVにステラとはコラボするなってコメントついてたの本当に笑った』
『今一番、ガチ恋勢に警戒されている女だ。面構えが可愛すぎる』
知らない間に、次々とVを落としている私の娘。
私の娘ながらその才能(?)には驚かされる。
「ママが1周年を迎えて、たくさんの人に応援されててまだ娘になってそんなに経ってないけど、娘としても鼻高々や」
「そういってもらえると嬉しいチュンね。そしてステラちゃんにはこれだけはっていう聞きたいことがあるチュン」
「お?質問やね。なになに?」
「ずばり、ステラちゃんがVTuberになって良かったこと、良くなかったことチュン!充実してるように見えるステラちゃんだけど、こういうところが良いとかこういうところが良くないとかママとして聞いてみたいチュン」
「んー、難しい質問やね~。良かったことっていうと、やっぱ時間が取れるようになったことやね。前まではちゃんとお仕事してて、職業柄まとまった時間取るんは難しかったんよ。やけど、VTuberになってからは趣味の時間がいっぱい取れるようになったな~」
「確かに、配信していない間は、編集作業とかの時間を退けたら基本フリーチュンからね」
「あとはたくさん友だちができたな~」
「わかるチュン」
「あと大人になると友だちづくりってどうしても難しくなるんよ。やけどVは人と関わることってわりと前提条件みたいなところあるやろ?V同士が関わることでデメリットもあるやろうけど、メリットの方がたくさんある。あ、別にウチや相手が損得勘定で動いてるってわけやなくてね、それが根っこに前提としてあるイメージで、ウチは結構グイグイ行くタイプやから人によっては避けられるし、仲良くなるためにはそのグイグイを許してくれる人やないとあかんけど、V相手だと多少グイグイ行って苦手やと思われても、直ぐに避けられることはないし仲良くなるための時間が作れる。その間に仲良くなれるのはウチの長所やと思ってるから、友だちが作りやすい」
「ほえ~」
『なんか難しいこと言ってる』
『隙を見せたな!その隙で、ウチはお前と仲良くなれるで!ってことか』
『お前がコミュ力お化けなだけ定期』
『雀ちゃんは基本、グイグイ行くというよりグイグイ来られてる方だから(某猫神某ポンコツまほろちゃん)』
「まあ、良くなかったことはやっぱ、生活リズムの崩壊と……将来の不安」
『うぉぉ……』
「仕事辞めて、V始めたからやっぱ色々不安なことはあるね~。お金のことは貯金もあるし今のところはなんとかなりはするんやけどいずれどうなるかなんて誰にもわからないことやから」
「リアルなやつがきたチュンね」
「ママはそういうのなかったん?」
「まあ、最初はクチバシで種を咥えて、畑に撒くって仕事辞めてVを始めたチュンけどやっぱチュンは飼い主さんがいてくれたことが大きいチュンね……飼い主さんが忙しいのに編集をしてくれて、一緒にチュンを形作っていってくれたチュン」
『畑に種まく仕事、重労働って聞くからな……』
『飼い雀てぇてぇぜ』
『飼い主さん何気に仕事してて、編集もして、配信もしてくれてってスペック超人じゃない?ついでに週5でASMRしてほしい』
「やっぱてぇてぇやね~」
「飼い雀は永遠にてぇてぇチュン!」
◆◆◆
「あらためてママ1周年おめでと~~~!」
「ステラちゃんも来てくれて、ありがとうチュン!」
「う~ん、ほんまならウチが最後に凸していちゃいちゃしたかったんやけどな~~~」
「わははチュン。それはまた次の機会チュンね」
「せやね~、じゃ、そろそろ催促のスタンプが凄いからウチは抜けるわ。おめでと~~~~!」
ぴろりんという音と共に、ステラちゃんが抜ける。
そして最後の凸待ちは、もちろんこの人だ。
「次が最後の凸になるチュン。そして最後はもうみんな分かってると思うチュンけどあの人チュン!」
コメント欄に流れる大量の『猫神様』の名前。
私がOKのスタンプを送ると、通話に入ってきたことを知らせる電子音と共に聞き馴染んだ可愛い声が響く。
「やっと私の番だーーー!雀ちゃんおめでとにゃ~~~~!!!!」
元気の良い声に、顔が緩む。
最後は雫ちゃんがきてくれた。
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スーパー遅れました。次回更新は22日水曜日18時頃を予定しています。
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