第84話 1周年記念配信(1)

『待機!』

『待ち雀!』

『待雀』

『乗り込めー! ¥10000』

『1周年おめでとうだ ¥50000』


マイクをONにする前に、小さく息を吐く。

ついにこの日がきた。

彼方と私、そして雀としての節目の1周年。

手をにぎにぎして、気合を入れる。


飼い主さんは配信画面の切り替えを担当してくれていて、が反応しない程度に離れて、見守ってくれている。


「あー、あー」と声を出して、マイクをONにした。 


「こんチュン~!!!!!」


待機画面を切り替え、ひょこっと、可愛らしいアホ毛が画面下から出てくる。

新衣装のお披露目タイミングを彼方と話合った結果、初手にすることにした。


下からぴょこりと顔を出した水色のアホ毛を見て、勘の良い餌たちが驚きの声を上げている。


『こんチュン~~~!!!!¥50000』

『こんチュン~!もしかして新衣装!?』

『初手新衣装マジ?』


「ふっふっふ、勘の良い餌たちは好きチュンよ。ここから30分ぐらいかけて、じっくり見せていくのもありチュンけど今日は何の日チュンか?」


『1周年!』


『そうだチュン!つまりやりたいことがたくさんあるからそんな時間はないチュン!チュンの晴れ姿をしかと目に焼き付けるチュン!」


ひょこ。


私の言葉と同時に、画面下から覗くのは、琥珀色をした瞳。

若干のジト目で、いつもより更に眠たげに見える。


水色の髪は、今まで通り、肩まで伸ばされているが、今回はところどころ跳ねている。

肩に乗っている雀は、毛にところどころ黒が混ざっていて、目つきはそこそこに鋭い。

モチーフは飼い主さんだ。


雀の口もとは猫口になっていて、仲良しの雫ちゃん要素になっている。


そして服装は、着ぐるみパジャマだ。


モチーフは着ぐるみパジャマで、雀の頭をデフォルメした可愛らしいフードや冬毛の雀のように白と茶色の混ざったフカフカな質感の服。


沙雪ちゃんが頑張ってくれたおかげで、動きは前よりも滑らかで、ずっと目で追ってしまう。


『かわいい!!!!』

『猫神雫:最高にゃ!』

『猫神様もようみとる』


「あ、雫ちゃんだ」


雫ちゃんもようみとる。


「どうチュンか?チュン的にはめちゃのくちゃにかわいくできたと思ってるチュンけど」


『最高! ¥10000』

『可愛すぎる』

『ずっとスクショしてる』


「ありがとチュン!モデリングはわんちゃんすへっどさんにお願いしたチュン!ほら、見てほしいチュン」


眠たげな目が少し開いて、中に星が生まれる。

所謂シイタケ目になった雀が画面に映る。いつもは覇気のない目をした雀がこの目になるだけで一気にやる気があるように見える。


『シイタケ目雀ちゃんかわいすぎる』

『シイタケモクスズメ科だ』

『良い仕事だ~!!!かわいい!!!』


「あとはハート目もあるチュン」


『えろ雀だ』

『飼い主さんと一緒ならずっとその目してそうな雀ちゃん』

『そういえば飼い主さんは?』


「飼い主さんは、ちょっと離れた場所にいるチュン。そのうち喋ってくれるチュン。挨拶はしとくチュン?」


飼い主さんを見るとこくり、と頷いた。


「こんチュン。飼い主です。今日は雀の1周年記念配信にきてくださってありがとうございます。ぜひ、最後まで楽しんでいってください」


「かたいチュン!もっとフレンドリーにギャルっぽく言うチュン」


「えぇ……やだ」


『草』

『やだかわよ』

『ぎゃる主さんは解釈違いなのでNG』


「つれない飼い主さんはおいといて、フードありの姿も見てほしいチュン!」


フードはデフォルメされた雀の顔になっていて、被ると雀の中に雀がいる状態だ。


「マトリョーシカチュン。雀なのに鹿チュン」


『チモシー生える』

『鹿雀』

『かわいいがすぎるだろ』


「えへへ、餌たちが喜んでくれて嬉しいチュン!チュンのかわいい新衣装たっぷり目に焼き付けてくれたチュンか?」


『スクショ撮りまくってる』

『最高』



「じゃあさてさてさてチュン、お披露目が終わったってことは~?」


『何が始まるんです?』


その問いには、下切雀のかわいいかわいい新衣装とその左上に表示された0という数字とその下にある十分な余白というヒントを出す。


流れていくコメントに混ざる正解を目にして、大きく声を張り上げた。


「今から1周年記念、下切雀凸待ち企画を開催するチュン!」


『うおおおおお!!!』

『凸待ちきちゃ!』

『くる面子なんとなくわかっちゃうなw』


『三石まほろ:1周年……凸待ち……うっ頭が』


『凸待ち0人もようみとる』


ちなみに事前にこの凸待ちをすることは伝えてあった。

そのうえで、誰からくるか、その順番は伝えられていない。

ディスコの凸待ちサーバーには既にきてくれると言ってくれた人たちが集まっていて、それだけで自然と笑みが零れてしまう。


「さっそくきてくれたみたいチュン!ということで最初はこの人チュン!」


ディスコのアイコンを表示させる。

下切雀のアイコンの下に、ぴょこんとまほろちゃんのアイコンが現れて、配信画面にも飼い主さんがまほろちゃんの立ち絵を出してくれる。

元気いっぱいな美少女だ。


「僕の凸待ちがはじまる!ということで、5464所属最強つよつよVTuberの三石みついしまほろだよー!雀の餌の皆さん、よろしくね。そして雀ちゃん!1周年おめでとう!!!!!」


「声でか」


『うるせぇ!』

『鼓膜ないなったが』

『個人Vの凸待ちでリスナーの鼓膜を破壊するとは流石企業V汚い』


「ちょっと音量調整するから待っててチュン。えーっと1から10までで好きな数字言うチュン」

「え?じゃあナンバーワンの1で!」

「おっけー、音量1にしとくチュン」


「なんでええええ!」


『草』

『1でも叫んだら結構うるさいのなんなんだ』


冗談は置いといて20ぐらいにしとこう。


「よしチュン。じゃああらためて三石まほろちゃんにきてもらったチュン。今日はきてくれてありがとうチュン」


「こちらこそ!雀ちゃんとこうやって1周年を祝えることができて嬉しいよ!しかもトップバッター!初コラボもいただいた上に、初凸待ちもいただけるなんてどこかの猫神様は枕を涙に浸してるだろうね」


「独特な表現チュンね。雫ちゃんの枕は吸水性ポリマーで出来てるチュンか」

「なにそれ?美味しいやつ?」

「ポリマーはたとえ美味しくてもあんまり食べないほうがいい名前だと思うチュン」


『草』

『この2人が揃うと漫才始まるのなんなんだ』

『吸水性ポリマーはおむつとかに使われてるやつ』

『まほろチュンでV‐1出てほしい』


「まほろちゃんと話してると遠慮がないチュンからか、無限に雑談しちゃうから本題に入るチュン。凸待ちしてくれた人にいくつか質問を用意してるチュン」


「質問!?スリーサイズなら上から1.90.45.30.30.30.40だよ」

「いったんぱんちしてもいいチュンか?」

「弱点じゃなかったら……」

「……」

「ごめんごめん!質問だよね!わかってるよ!」


『こんのまほガキ……!』

『スリーサイズ7個あるのはなんなんだ』

『最近某ゲームにハマりすぎた結果、種族値暗記配信とかしてた女だ。面構えも違うし意味が分からない』


「じゃあさっそく1つ目の質問にいくチュン!ズバリ!チュンの第一印象は?」


「第一印象か~、まあ最初はゲームが上手い子って印象だったなぁ。ファンマイは凄い難しいゲームってぐらいしか知らなかったし、……んー。嫌いにならないでほしいんだけど……ほんの少しだけ疑いがあったのはあるかな。動画勢なのもあって、もちろん悪いわけじゃないんだけどプロの動画に、声優さんが声を当てるって形式のVも存在しないわけじゃないからそれでちょっぴり様子見てたかなぁ」


「ああ。まあチュンにもそういう声が届いてなかったといったら嘘になるチュン」


悪意はどこにでもある。

ただ彼方も私も、ちょっぴりそういう悪意の付き合い方に慣れていて、少しばかり上手にシャットアウトできるだけだ。


「でも、生放送でPBGやってたでしょ?あれを見て、ああこの子は本物で、しかもちゃんとゲームが好きな人だって分かって一刻も早くこの子と一緒に遊んでみたい、一緒にコラボしたいって思って、マネージャーさんと運営さんに掛け合ったんだ」


「あのコラボにそんな裏話があったチュンか……ふふっ、そこまでチュンを想ってくれてありがとうチュン」


「いえいえ、僕の方こそ、ありがとうだよ。Vの友だちって突然いなくなることもあるから、こうやって雀ちゃんが1周年を迎えられてほんとうに嬉しいよ。これからも一緒にたくさん遊ぼうね」


「ありがとうチュン!ただ、綺麗にまとめられてるけどまだ質問は終わりじゃないチュン」

「大丈夫だよ!あと11時間半は付き合うから!」

「アーカイブ消えちゃうのであと10分程度付き合ってチュン」

「ひん」


「次の質問は今後下切雀と一緒にやってみたいゲームやことはチュン。FPSはまほろちゃんとはだいたいやってるチュンからそれ以外でストーリーゲーとかMMOとか協力ゲームとか具体的なタイトルじゃなくてもそもそもゲームじゃなくてもいいからあったら教えてほしいチュン」


「それは答えたら一緒にしてくれるってことでもいい?」


「もちろんチュン」


「ふふふ、言質は取ったよ」


まほろちゃんの悪い笑い声が聞こえて、猛烈に嫌な予感がした。

訂正しようと口を開きかけると同時に、まほろちゃんの声が届いた。


「なら雀ちゃんには今度、僕と一緒についっちスポーツをしてもらうよ!」

「殺す気チュン!?」


ついっちスポーツは大人気ゲーム機の老若男女問わず楽しめるスポーツゲームだ。

特殊なコントローラーをつけるから体の動きがそのまんま反映されてゲームしているだけでダイエットにもなると評判のゲーム。


運動不足が極まっている私がそんなのをやれば、溶けて消えてしまうやつだ。


『あかん、雀ちゃんが死んでまう』

『策士策に溺れてないか?』

『まほろちゃんも死ゾ』


「生きるか死ぬか!デッドオアデスだよ!」

「それだとどっちも死チュン」

「え?生きるって何?」

「哲学?」

「あ、アライバル!」

「到着しちゃった」


『うーん、このぽんこつ』

『哲学は草』

『死か到着か』

『亡命かな?』

『この場合、live or die定期』


「まあ、でもこの質問でやりたいと言われたことは出来る限り叶えるつもりだったチュンから受けて立つチュン!」

「ふふふっ、受けて立たれると本当にやらないといけなくなるなぁと考えてちょっぴり後悔してる僕だよ」

「草チュン」


「と、名残り惜しいチュンけどそろそろお時間チュン。といっても明後日にコラボの予定があるチュンけど」


明後日は5vs5の爆破ゲーをする予定だ。

といっても爆破ゲーは門外雀なので主にまほろちゃんに教えてもらう座学がメインになる。


「そうだね。名残惜しいけど僕はこの辺でお暇しようかな。じゃああらためて1周年おめでとう雀ちゃん。今年も最高に楽しいV生にしようね」


「当たり前チュン!まほろちゃん今日は忙しいなか、きてくれてありがとうチュン!」


「雀ちゃんのためなら会議中でも駆けつけるよ!じゃあ雀ちゃんも雀の餌のみんなもまた今度!三石まほろでした!」


ぽろろん。

まほろちゃんが抜けて、画面のアイコンも立ち絵も消える。

代わりに0だった数字が1に、何もなかった空白の部分に、三石まほろの名前が表示された。


「というわけで最初の1人はまほろちゃんだったチュン。最初にまほろちゃんとコラボしたことでたくさんの人に知ってもらえたチュン。最初にチュンを見つけてくれた雫ちゃん、そしてコラボしてくれたまほろちゃん、どちらかが欠けていたらもしかしたらチュンはこうしてたくさんの人に1周年を祝ってもらうことなんてなかったかもしれないチュン。だからっていうのは変かもしれないチュンけど2人にはほんとうに凄く感謝してるチュン」


『いい話だ』

『エモい』

『三石まほろ:もっとエモい話ください ¥50000』

『しれっと満額入れるな』

『照れ隠しが見え透いてて草なんだな』


「ふふっ、お、さっそく次の人が来てくれたチュン。ということで次はこの人チュン!」


画面に表示されたアイコンは、ファントム・マインドの初期武器である拳銃。

表示された立ち絵は、メカクレでかわいらしい女の子の姿。


露木 静つゆき しずちゃんがきてくれた。


「雀さんおめでとうございます!あとさっそくですが頼めばファンマイ縛って一緒にやってくれるってことって認識でいいですか!?」


「声でか」


二人目の凸者は露木静ちゃん。

その第一声は正気と思えないとんでもないことを要求する天丼だった。


______________________________________

だいぶ遅れました。難産でした。

文字数がとんでもないことになりそうだったので話を分けています。

今日更新された近況ノートに別に見なくてもいい追記や入れたかったけど入れられなかった会話などを置いています。

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