第83話 作業通話とか
____忙しい……!
正月も明け、労働に勤しみながらスケジュールを組み立て、他のVTuberさんたちへの連絡や伝達事項を伝えて、プログラム表を作り、配布して、投稿用の動画編集して……
「ちかれた……」
「頑張ってるね~」
通話越しに沙雪ちゃんが苦笑する。
最近の作業通話の相手はもっぱら沙雪ちゃんで、推しではあるけど友人のような距離感で過ごしている。
「ね~、彼方ちゃん」
「どうしました?」
「1から16の中で好きな数字順に3つ言ってくれない?」
「えぇ……じゃあ4.6.16でどうですか?」
「ありがと!6好きな子なんだー!んー、三連単と複に500円ずつかな~」
沙雪ちゃんは、ウマから馬にハマったタイプの人らしく、大学一年生から競馬をしていて、結構好きらしい。
平場も地方もやってるからめちゃくちゃに負けてると笑っていた。笑いごとか?
「競馬、今度教えてくださいよ。最近、Vの人も結構やってるので少し気になって」
「もちろんだよ!今度競馬場いこうね~!あ、おススメのレース動画とか送るから見て!見て!」
「オタクだ……」
ピコンピコンととんでもない量のリンクが貼られていく。
「でも、まだ編集作業があるのでこれ終わってからですね」
「了解~!あ、そういえば新衣装動かしてくれた?」
「それはもちろん、雀がウキウキしながらぴょこぴょこ左右に揺れてましたよ」
「かわいいねぇ」
雀の新衣装は最高のデキだった。
早くお披露目したい気持ちを抑えて、来る日のために取ってある。
「歌ってみた動画もあがるんだよね?」
「はい」
「楽しみ~!」
「ありがとうございます」
お礼を伝えて、時計を見る。
時刻は21時30分。
「そろそろ雀の配信が始まりますね」
「あ、うちのえーっと鹿の人とのコラボだったよね」
「
「恥ずかしながらその子のことをあんまり知らないんだよね……雫とのコラボにいる子はチェックしてるから覚えるんだけど、動画勢で配信も個人配信が多めっぽいし」
猫神様の配信チェックしてる報告たすかる……!
……でもまあ、コラボは彼女にはまだ少しハードルが高いかもしれない。
私は、鹿志摩さんと話した時のことを思い出していた。
『は、ははは初めましてて鹿志摩
「わー」
隣で寧々が口を開けて驚いている。
鹿志摩さんは、栗花落さんの話に聞いていた通り、極度の緊張しいらしい。
『すみません。鹿志摩は初対面の人と話すときは基本こんな感じで……』
鹿志摩さんに頼まれて同席したという栗花落さんの言葉に、なるほどと返す。
鹿志摩さんと一度話してみないか、と栗花落さんに言われたときは驚いたけどそれはどうやら外部の人と話せるようになるための特訓中とのことだ。
大手企業はそういうのもやっているんだと感心してたけど普通は面接の段階で落とすらしい……それはそうだ。
だけど彼女のスキルは必ず必要になると社長の鶴の一声で、受かり、今の彼女がいる。
【期待されてるってことなんですよ。それを本人もちょっとは分かっているから頑張っててそういう子ってなんだか応援したくなりますよね】
栗花落さんの優しい声色で話していたのを思い出す。
結果から言うと、彼女のスキルはピカイチだった。
鹿志摩さんのおかげで、思っていた以上に歌ってみたが良くなったと実感できるし、動画勢だけあって動画の編集も得意で、企画の意見交換なんかもできた。
もちろん、文章でだけど。
一方雀はというと、ゲームという自分の力が最大限に発揮できる分野で鹿志摩さんと接触し、ぐんぐんと距離を縮めていた。
その流れで、今日鹿志摩さんの初の外部とのコラボを行うことになり、滅多にない鹿志摩さんの配信ということでSNSもにわかに盛り上がっている。
「なるほどね~。あ、彼方ちゃん配信みる?」
「ちょっと面白そうですけど後で動画上げるってなると結局アーカイブ見るので今度にします。今は作業もありますし」
「そこは私ともっと話したいからとか言ってほしかったなぁ~」
「猫神様に怒られたくないので」
「雫と彼方ちゃんと私と雀ちゃんで修羅場になったらそれはそれで面白いかも」
「絶対地獄ですよそれ……」
「あはは、確かに」
寧々にハイライトの無い目で、詰められるのを想像してみるけどめちゃくちゃに怖い。
どんどん頭が低くなっていく自分を想像できた。
「終わった~……」
約5時間にも及ぶ作業通話。
作業通話なんて本来はお喋りに集中してまったく進まないか、進む代わりにおしゃべりをしないかのどちらかでしかないはずだけど無事やること全部終わらせることができた。
「おつかれ~」
「今日も付き合ってくれてありがとうございます」
「いいよいいよ。私も作業進んだし。……いよいよ準備完了だね」
「はい!」
ずっと進めてきた準備がやっと終わった。
寧々と少し詰めれば、完了で、あとは待つだけ……緊張してきた……
「なんか私も緊張してきたよ。本番楽しみにしてる。じゃあ私はそろそろおねむちゃんだから寝るよ」
「はい!ありがとうございます。おやすみなさい!」
「うん、おやすみ~」
通話が切れる。
息を吐いて、椅子に深くもたれかかり、スマホを見る。
1周年配信まであと少し。
正直、めちゃくちゃに緊張している。
呟かれる期待の声と悪癖でもある自信のなさで押しつぶされそうだ。
だけどだからって投げ出すわけにはいかないし、投げ出すつもりもない。
もう一度、気合を入れるために軽く頬を叩いた。
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お待たせしました。次回1周年配信です。
前話の後書きで最終準備回を最終回と空目した人がいたようでとても申し訳ないです。そして最終準備回と書いたけどそんなに準備することもうないなってなった結果の準備(作業通話)回です。
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