閑話リハビリ短編 高校生かなねね
「つかれた……」
「おつかれ」
昼休みを迎え、ぐでっと机の上にとろける寧々を横目に、スマホを開く。
夜型人間を極めている寧々は毎日2時3時まで起きてゲームをしている。
やってるのは硬派?な鉄砲を撃つゲームで、私も少しやらせてもらったことあるけどマウスとキーボード操作が慣れなくてむずかしかった。
「今日も学食でいい?」
「今日もうどん」
今日もうどんらしい。
寧々が学食で頼むのはだいたいがうどんで、天ぷらうどんだ。
温うどんで、上にかきあげとえび天が乗っていて、430円とお手頃な値段をしている。
私はラーメン。
ネギと薄っぺらなチャーシューが乗ったちょっぴり甘めの醤油ラーメンに胡椒と七味を掛けて食べるのが好きだ。
ちなみに370円と非常にお得で、満足感もある。
だが、学食に行くまでが問題だ。
この机にぐでーっと張り付いた粘着性の寧々をどうにか剥がさないといけない。
正直な話、寧々も私も昼を抜くぐらいなら全然大丈夫な小食タイプではあるんだけど、一度それを許してしまうと私も寧々も昼食を食べないようになってしまう可能性がある。
それは長月さんや冬起さんから寧々を任されている身としてよろしくない。
寧々は昼食べるようにどこかで短時間のお昼寝をしたいだろうけど、いつも通り、心を鬼にして寧々を剥がしにかかる。
まずは寧々の背後にまわり、脇に両手を差し入れて……
「また不純同棲交友してるー!」
後ろから聞こえてくる寧々と私の数少ない共通の友人(アホ)の声を無視して寧々を起こす。
スポブラ越しに感じる柔らかさから意識を逸らしながらよいしょと寧々を気合で起き上がらせると寧々はわかりやすくため息をついて、観念して気だるそうに立ち上がった。
さてここからが問題だ。
この気だるげな猫を学食まで歩かせるのは、この親友を持ってしても難しい。
抱っこは前にマジ怒りされたから禁じ手だ。
あのときは不思議と寧々の頭の上にイカ耳が見えた。
いつも通り、手を繋いで学食まで先導しようとすると、寧々の体が動き出す。
そう、寧々が自らの足で歩きだしたのだ。
テコでも動かないと明日彼方界隈で有名な寧々が自らの足で……!
驚きと感動を反復横跳びしていると、寧々が振り返り、ジト目で私を見る。
「何考えてるかなんとなく分かる……、行くよ」
「うん」
寧々の隣に小走りで向かって一緒に学食へ向かう。
隣のクラスを通ると、「今日は手つなぎじゃないんだ」とか「手繋いでない!?」と何やら寧々が一人で歩きだした理由が分かるような声が度々とんでくるもんだから、愛想笑いを浮かべることしかできない。
親友
私的には手つなぎというより誘導ってイメージだったんだけど。
「私たちはまだ高校生になって二カ月程度、それなのに同級生上級生含め、なぜかラブラブカップル扱いされてる現状」
「なにそれ初耳なんだけど」
ラブラブカップルってなんだ。
「手つなぎ、抱っこ、だいたい一緒にいる。それだけなら普通に仲良しで済むかもだけど彼方は顔が良いから目立つし、邪推が捗る」
「顔の良さでいうなら寧々も相当だけど」
「……つまり私たちはこの高校で平穏に三年間を過ごすために距離の近さを改めないといけない」
「え、やだ」
「えっ、でも」
「やだー!」
ほとんど歩く速さと変わりない駆け足で廊下を走り、少し進んで後ろを振り向くと寧々が困惑した顔でこっちを見てる。
「嫌なの?」
「嫌なの!」
私、知ってるよ。
こういう些細なやめとこうから疎遠になっていくんだ。漫画で読んだ!
あと1000年は寧々の親友の座を降りる気はない身からするとこういったスキンシップは続けていきたい。
1000年後に出来るかもしれない寧々の恋人だったりに、お前の前にいるのは1000年以上付き添った親友だってしないと。
幸せにしろ!
あれ、私、さては重い女か……?
「そっか……」
寧々はほんの少し頬を染めて呟く。
どうやら差異はあれど、気持ちはそんなに変わらないらしい。
嬉しくなって、ひょこひょこ寧々に近づくか逃げる気配はない。
目の前に行くも、カーディガンのポケットに手をしまいこんで、ため息をついている。
「手は?」
「……いいよ」
いいよと言うわりには、その手がポケットから出される様子はない。
「だっこは?」
「絶対ダメ」
「後ろから抱き着くのは?セーフ?」
「……ぎり」
許可が出た。
私は、寧々の背後にまわり、寧々を抱きしめる。
恥ずかしそうにカーディガンのポケットに隠されたおててを握る。
「コンボは禁止。判定強すぎてガード間に合わない」
「見えないからいいじゃん」
「見えなくてもポケットに2人の手が入ってるのはわかる」
「たしかし」
しょうがないから、ポケットから手を出して行き場の無い両手を寧々の前で交差させる。
咎めるような熱い視線を受け取りながらも、やめる気はさらさらない。
そんな私たちに向けられるのは、いつもの生温かい視線で、寧々はこういう視線が心地悪いらしい。
私は中学のときにすっかり慣れてしまったけど。
「寧々」
寧々の耳元に口を近づいて囁く。
びくりと小さな肩が跳ねて、耳を赤くした寧々が私を睨んだ。
相変わらず耳は弱点みたいだ。
「な、なに」
「別に勘違いされてもよくない?」
「そ、それってどういう」
「別に勘違いされようが何を言われようが、私が寧々の傍を離れることはないし傷つくこともないよ。それならいつも通りのほうがお得じゃない?もちろん、寧々が嫌なら私も考えますけど……」
嫌って言われたら人目をはばからず、大泣きする予定ですが。
「……はぁ」
寧々が盛大にため息をつく。
え、もしかして嫌?
泣く準備入るべき?
「彼方はほんとに……ほんとにだね」
寧々はそういうと、私を振りほどいてポケットの中で厳重に警備されていた手を差し出す。
私は笑顔で、その手を取った。
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お久しぶりです。お待たせして申し訳ございません。
小説の書き方を思い出したので、更新を再開します。
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