閑話 2週間遅れのキスの日話
最近、疑問に思っていることがある。
……寧々、キス上手くない?
や、経験が豊富ってわけじゃないから上手いか下手かとかはあんまり分からないんだけど、たぶん寧々は上手いと思う。
キスの上手さってなに?というのは私の中の基準だけど心地良さだ。
寧々のキスは心地良い、頭がぼーっとして何も考えられなくなるキスをしてくる。
単純に相性が良いのかもしれないけど、……それにしても上手すぎると思う。
まさか、誰かで練習を……?
脳を破壊する妄想をしながら、私は未だにそんな疑問を問いかけられないでいた。
いや、信じてるけど。
でも長月さんが催眠術とか使ってる可能性とかあるしな……あの人、それぐらいできるでしょ、たぶん。
デキルヨ
ほら、心の中にいる長月さんもできると言ってる。
なんでいるんだ、出ていけ。
そんなことを考えながらリビングのソファでぼーっとしていると、歯磨きを終えた寧々が可愛いパジャマを着てやってくる。
そのまま私の隣に座ると、ぴとっ、と私の体に密着した。
隣を見ると、表情を変えずに上目遣いで、寧々が私を見ている。
無言の圧だ。
私は往生際悪く、横目で時間を確認して、小さくため息をつくと、おとなしく寧々に顔を近づけた。
「ん」
寧々が満足そうに声を漏らし、唇と唇が触れる。
本当に触れるだけの、すっかり慣れてしまったというより、習慣じみてしまったそれに、寧々は少し不満げだ。
分かっていないという風に、私に体重をかけてくる寧々に、私は観念して身を任せる。
寧々の柔らかい唇が、私の唇に触れる。
小さな両手を、私の頬に当て、ゆっくりと圧を掛けていくように唇を重ねていく寧々。
ミントの香りが口に広がって、多幸感に満たされていく。
やっぱりキス上手すぎじゃない……?
私の弱点を知られているというか、なんというか……
やがて満足したのか口を離して、見惚れる笑みで微笑む寧々に、思わず私はこの疑問をぶつけてしまった。
「キス上手すぎじゃない?」
「……キスは天ぷらが美味しい」
「そっちのキスじゃなくて」
「知ってる。…………練習したから」
「練習?」
私が首を傾げると、寧々は恥ずかしそうに顔を逸らした。
「お酒を飲んで酔っ払いになった彼方で練習した。ふにゃふにゃになったら全然覚えてないし」
「なるほど……なるほど!?」
れ、練習!?私で!?
ぜ、ぜんぜんまったくみじんも覚えてない……
「それっていつから?」
「初めては学生のとき、彼方が昼寝してたときにこっそりと」
学生の時に!?
思った以上に早く、私はファーストキスを奪われていたらしい。
「練習は初めてお酒飲んだ時、彼方、酔っぱらちゃったでしょ?彼方が起きてるときにしたのはそれが初めて」
飲んだ。酔っぱらった。
大学二年生の頃だ。ハイボールとかワインとか酎ハイとか色々買って飲んで、二日酔いで苦しんだ記憶がある。
「まさか知らない内に初めてが……」
「魔が差した……本当に申し訳ないと思っており……」
「じゃあもしかしてそれからもちょくちょくしてた感じ……?」
「あい」
こくり、と頷く寧々。
どうやら私のファーストは結構早い段階で、私のことが大好きな親友によって奪われていたらしい。
暫しの沈黙が流れ、寧々は耳を真っ赤にしながら呟く。
「……好きなんだもん」
おっけー。
今この瞬間、全てが許された。
他ならぬ寧々なら許そう。
長月さんとかならぱんちするけど。
俯いて、恥ずかしそうな寧々に、私はもう一度、比較すると下手くそであろうキスをする。
「彼方?」
「じゃあ、今度、私で練習したキスを教えて?私も上手くなりたいから」
そう言って笑いかけると寧々は少しだけ考えて、答えた。
「今からでも、いいよ?」
どうやら寧々の方が一枚
カウンターパンチに、上手く言葉を紡げない私に、寧々が笑う。
私は唸りながらも、「お願いします」と頭を下げた。
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