第73話 くえすちょん

ステラ・カンパネラ@VTuber準備中


好きなものはお金と可愛い女の子と自分。

最高のママ→@Suzume_smgr

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仕事終わりに、電車に揺られながらフォロー欄から鈴熊さんのプロフィールにとんで、ぽち、ぽち、と今日もツイートを確認する。


『猫いた!!!!』


画像と一緒にツイートされているそれは、猫……っぽい何かの写真。


いや、黒い猫ではあるんだけど、塀に映る影はまるで大きく口を開いた巨大な狼のようなものだ。


鈴熊さん、芸能事務所で働いていたからかどうかは分からないけど、写真の加工が得意だ。

それは今回のような一見普通だけど、よく見ればおかしい写真や明らかにやばいが写りこんでいるものまで様々だ。


今もこのツイートは、2万7千いいね、と大バズりしている。


鈴熊さんの日常ツイートに含まれる現実と非現実の入り混じった画像は、ツイートンの住人にはウケまくっていた。


画像の加工になんのソフトを使っているかを聞くとホンモノやで~っと笑顔で言われてしまった。


この人も大概底が知れない人だ。


そのリプライにも有名な人の姿がちょいちょい見える。




猫神 雫:か、かわいい猫チャンにゃね……


ステラ・カンパネラ:猫同士積もる話もあるやろうし、またこの子と会えたら猫神様のこと教えとくな~


猫神 雫:やめるにゃ



雀の子というのと本人のキャラもあって、ステラ・カンパネラというVTuberの卵は結構受け入れられている。


本人自体のキャラが強いから例え雀の子じゃなくてもバズりまくってた気がするけど、鈴熊さんは「こういうのは初動が大事なんよ。フォロワーおらんかったらどんな面白いツイートしても伸びひんから雀ちゃん様々や」と言っていた。


モデリングも依頼したと言っていて、一ヵ月と少しで納品するとの返事をもらったらしく、デビューも近い。

配信関係のことは雀や私が教えていて、要領の良い鈴熊さんはするすると吸収していっている。


デビューが今から楽しみだ。

確実にまた推しが増える。鈴熊さんのキャラ好きだし。


そのままツイートンを眺めていると、雀のMetubeチャンネルから通知がきた。



飼い主さんが帰ってくるまで、くえすちょん読む枠



雀には珍しいゲリラ配信だ。

直前のツイートを見ると、どうやらやってたゲームが緊急メンテに入ってしまったらしく、悲鳴を上げていた。


ワイヤレスイヤホンを鞄から取り出して、つける。

アニメのコラボモデルで、可愛い声で接続できたことを教えてくれて、雀の配信を見る。


「こんちゅん~、メンテはしょうがないことだと分かってるけどランクマの途中で緊急はやめてほしかったチュン」


『配信外でやってたの?』


「FPSは呼吸と一緒チュンからね。あと単純にサボりすぎてたからランク上げないと雫ちゃんとできないし」


『ありがとうございます……』

『雫ちゃん呼びたすかる』


私も両手を合わせて、ありがとうございますと内心呟く。


「今日は知らない間に結構溜まってたくえすちょんを読んでいくチュン。特にステラちゃんのことが多かったチュンね」


『確かに経緯とか気になる』

『ステラさん、呟きからキャラが濃いの分かるのおもろい』

『関西訛りの高身長糸目キャラとか好きにならないはずがない』


「まずはこれ」


【どういう経緯でママになったんですか?また、依頼をすればガワを描いてくれますか?】


「経緯は……そうチュンね~、ステラちゃんはお姉ちゃん……姉雀の知り合いでASMR配信をきっかけにVTuberに興味を持ってくれた人チュン。依頼されたとき、正直少し悩んだチュン、だけどステラちゃんと会って話して、この人がVとして作り出す世界を見てみたいと思って受けたチュン。だから申し訳ないチュンけど、今のところは依頼は受けてないチュン」


『まあ、確かにおもしれ~女すぎて雀ちゃんの気持ちわかるかも。デビューが待ち遠しい』

『どうやってこの逸材を見つけてきたのかと思ったけど、お姉さん繋がりだったのか』

『そういえば雀ちゃんのお姉さんってどんな人なの?』


「どんな人……飼い主さんよりも5㎝ぐらい身長が高くて、ちゃらんぽらんで女誑し……?」


『身長高めの誠実な女誑しが飼い主さんだとしたら、ちゃらんぽらんな女誑しがお姉さんなのか……』


誠実な女誑しとは?


「まあ、間違いじゃないチュンね……」


雀が神妙そうに頷く。

最近、言われすぎていて私が女誑しであることを否定しづらくなっている。


違うけど。


「どんどんいくチュン」


【雀ちゃんの新衣装が見たいです!】


「しばし待て!チュン!チュンはあと少しでデビュー1周年……まだ1周年⁉」


『自分で驚いてて草』

『1月デビューで、今が10月だからあと2か月と少しで1周年だね』

『雀ちゃん、デビューから色々濃かったから……』


「なんかもう2年ぐらい過ぎてる感じだったチュン」


デビューして猫神様に見つけてもらって、大手とコラボして、配信して、配信して、偶にコラボして、オフコラボにも呼んでもらってって考えると、本当に濃い。

ここまで雀が伸びたのは、運ももちろんある。

けどその運を手繰り寄せたのは、雀が、寧々が、ずっと情熱を注いできたゲームのおかげだ。


「ま、という感じで、1周年で何かが起きる……かも?チュン」


『うおおおおお!』

『楽しみにしてます!』

『匂わせ助かる』


「次はちょっと面白いやついくチュン」


【飼い主さん170㎝、お姉さん175㎝(?)ぐらい、ステラさん184㎝ 雀ちゃん152㎝が一室にいるところを想像したらめちゃくちゃ面白くて笑いました】


「これ、実際に起きた出来事だチュン。なんかいつものリビングが窮屈に感じたチュン……」


『草』

『ステラさんと雀ちゃん並んだらやばそう』


「首折れるかと思ったチュン。飼い主さんはテンション上がってた」


『飼い主さんwww』

『でも飼い主さんより圧倒的に身長高い女の人は珍しいだろうしなぁ』


「飼い主さん曰く、わんちゃん私のこと抱っこできるのでは?とのことチュン」


『ステラ・カンパネラch:いつでもしてあげるって伝えといて~』



「ステラちゃん!?」


ま!?

今度あったときに、抱っこしてもらおう。マジで。


中学のときとかはいっつも持ち上げる側だったわけで、そういうポジションに憧れはあったから楽しみだ。


『娘もよう見とる』

『ぜひ、その様子を配信で……』

『正直、見たい』


「それは要相談チュン」


却下で。

流石に、成人女性が抱えられてキャッキャしてる姿は見せたくない。


雀の配信に夢中になっていると、最寄り駅についたようで、今日ばかりは電車の速さを恨む。


片耳にイヤホンをしながらポケットに携帯を入れて、帰路につく。


時刻は19時前で、イヤホン越しに届く雀の声が自然と足を重くさせる。


私が帰ればこの配信は終わってしまう。

わがままかもしれないけど、もう少し、雀の配信を聞いていたかった。


「一応、この配信を聞いているであろう飼い主さんに言っておくチュンけど、配信聞きたいからってわざと遅く帰るなんてしちゃダメチュンよ~~~?今日はチュンの美味しいカレーが待ってるチュン」


突然の問いかけに、思わず笑ってしまった。


帰宅中であろうサラリーマンの肩が跳ねて、驚いたようにこちらを見てくる。


申し訳ない。


……どうやら私の親友には全部お見通しらしい。


立ち止まり、スマホを開くと寧々にメッセージを送る。


今から帰るよ、と。


メッセージを打ち込むと、直ぐに既読がついて、OKのスタンプが返ってくる。


雀の餌さんたちには申し訳ないけど、美味しいカレーのために今日は早めに帰らせてもらおう。


広く誰もいない家に帰る1年前とは違う、寧々が待つ暖かい場所への家路を急いだ。


______________________________________

寧々さんはちょっとお高いカレーフレークで玉ねぎ多めのカレーを作る。

次回更新早め。

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