第60話 最終決戦

4試合を終えて、私たち『雀の止まり木』の順位は3位。まほろちゃんたちは5位。1位は兎兎座さんのところだ。

だけど1位から5位までのチームのポイント差は5もなく、接戦になっている。


つまり、次の5戦目。

5位までのいずれかのチームが勝利した場合、その時点で優勝が決まる。


チュンたちの4試合での戦績は1位、7位、5位、3位。キル数だと4キル、2キル、3キル、6キルの合計15キルと2試合目はじゃっかん早めにこけてしまったけどそれでも現在3位だ。

対してまほろちゃんたちは1位もないけどずっと2位から5位までの順位を取り続けていて、キルも多い。


「面白くなってきたチュン!」

「はい……!」


ついに最後の5試合目が始まる。


私たちのムーブは変わらない。

同じことをして、最終的に勝利をもぎ取る。

それだけだ。


◆◆◆


これは、バトロワの良いところでも悪いところでもあるんだけど、実力の次に運が必要なゲームでもある。

こういった大会では円によってムーブが変わるからそんな円の運は大事だ。


そして最終戦、私たちはその運がなかったようだ。


「見事に寄ってますね」

「見事に寄ってるチュンね」


円は私たちの降りた方向、北北東に若干寄っている。

最初の円でこちらに寄っているということは、最終的にもっと寄ることが多い。

つまり中ムーブを選択した人がこちらに来てしまう。

それは私たちのムーブがちょっと狂わされることになる。


「これ、近くの街に降りた人たちも移動せずに待機してる可能性があるチュンね」

「……確かに」


この集落の近くには街がある。

大きな名前付きの街だ。

そこに降りてぱっぱと漁って移動するチームが2チーム居て、チュンたちは移動した後に入って残り物を漁って物資を整えたりすることも多かった。

そのルートは今回使えない。そもそもこの集落からもあんまり移動したくない。


「この試合は結果的に中ムーブみたいになるかもしれないチュン。くまなく漁ってから近くのちび集落漁りに行くチュン」

「了解です」


5試合目は少し厳しい戦いになりそうだ。


そしてその予想は当たってしまう。


第3の円、最初降りた集落の2階で、武器を持って震えている子羊が私たちだ。

部隊数は14部隊と多く、ログを見る限りは優勝争いをしている他4チームは落ちていない。


円はこの集落を中心としており、下手に動いたら蜂の巣だ。


しかも武器状況もあんまり良くない。

私はアサルトとスナイパーライフル、ツユキちゃんはアサルトとサブマシンガン。

弾も余裕なく、グレネードやスモークも2人合わせて一つずつ。


「とりあえず最後の円が表示されるまではこの家を死守で行くチュン」

「はい」


余計な戦闘は避けたいけど、キルを多少取らなければ1位をとっても多くのキル数を獲得した2位のチームに僅差で負けるかもしれない。

だけど今は耐え忍ぶ時だ。リスクを出来るだけ抑える。

それがきっと勝つための近道だ。

そう、不安を拭うように、自分に言い聞かせる。


「雀さん」

「どうしたチュン?」


「一昨日ぐらいに雀さんが一瞬RTしていた飼い雀のイラストの話なんですけど」

「え!?」


思わずマウスも動かして、ツユキちゃんを見るとツユキちゃんはくすくすと笑いながら言葉を続ける。


「私、通知を入れてるのでRTした通知が流れてくるんですけどあのイラスト良かったですね」


「殺してくれチュン……」


CP系のイラストはRTしたいけどそういうのを嫌がる層が存在することも分かっているからあんまりRTはできない。

でも見たよ、好きだよの意志でいいねはしている。だけど、あまりにも良すぎてとあるイラストをRTしてしまった。慌てて取り消したが、その内容が飼い主さんと雀がちょっぴりえっちな感じの雰囲気になってるやつだ。

詳細は口には出せない感じだけど、見られていたなんて……


「ふふっ、雀さんどんどん声がかたくなってたのでちょっとは解せたみたいで良かったです」

「えっ、そうチュンか……?」

「はい。私でも分かるぐらいには」


「そうチュンか……」


マウスとキーボードから手を離して、手をぐっぱーぐっぱーとする。

意識してない間に、私は緊張していたらしい。

無意識にぷるぷると震えて、私を代弁する手に、苦笑いを浮かべる。


汗ばんだ両手を傍に置いてあるハンドタオルで拭き、両手で頬を挟みこみ、軽くマッサージをして姿勢を戻して椅子に座りなおす。


「ツユキちゃん、ありがとうチュン。思ってたより緊張していたみたいチュン」

「お互い様です。お役に立てて嬉しいです」


ラムネを口に含み、噛み砕く。


なんだかさっきよりも視界がクリアになった気分だ。


「作戦は変わらないチュン。この家を死守!安置がズレたら移動!先客を破壊!残ってる部隊を破壊!優勝!以上チュン」


「ふふっ、はい!分かりました!」


ツユキちゃんの元気な返事に笑顔を浮かべて、勝ってこのまま笑顔で終わるために気合を入れ直した。


◆◆◆


「あまりにも“運が”ない……」

「流通が困難になりますね」

「ボケてる場合じゃないチュン!」


最終円は見事に、私たちを嫌った。


集落から右下にぴょーんと外れた円は、引きこもりの私たちを無理やり外へ連れ出そうとしている。


しかも円は木々がぽつんぽつんと生えたような丘陵。

丘陵のてっぺんには大破した車が2台、前と後ろに遮蔽物として置かれているのが見える。

残り部隊数は7。

しかもまほろちゃんたちと兎兎座さんのところは残っている。


「右回りで、車を遮蔽にしてるチームの後ろを取れたりしませんかね」


「たぶん、ガッツリと見てるのと後ろのPTが確実にいるから危ないかもしれないチュン」


「なるほど……」


「ふむ。チュンたちはとりあえずここに向かうチュン」


ピンを差したのは、集落の私たちがいる家の反対側、円の隅っこにぎりぎり入った集落外れにある草むらと幹が太い木だ。


「ここまで取って辺りを索敵したいチュン。だけど集落の家にいるチームはいくつかいるチュンから直ぐに向かうと挟まれることになるチュン」


「ということはいつもの我慢比べですね」


「先に動き出した方が負けるチュン。ぎりぎりまで待って、撃つのも我慢してここへ入るチュン。先客には後ろから銃弾を浴びせてやるチュン」


「了解です」


前の円の時に続々と集落に集まってきていたPTは、この家には敢えて鳴らした足音で近づいてはこなかったが他の家に散らばっている。


この集落にいるPTは私たちを含め、私たちと他のPTの存在に気づいている。


だからこその我慢比べだ。

ぎりぎりまで息を殺して耐えれば、もういないのでは?という考えを引き出せるかもしれない。


私たちは一度足音を鳴らした以外は静寂を保っている。

私は階段上から玄関に照準を向けていて、ツユキちゃんは窓の外を見ている。

ピクリとも動かないから実況ではほとんど静止画で、画面映えはしないだろう。


そしてついにその時がやってきた。


向かい側で家の扉が開く音がして、移動する足音が聞こえてくる。

そしてそれを撃つのもまた集落のPTだ。


「始まったチュン」

「どうしますか?」


窓から様子を見ると、外では2つのPTが銃撃戦をしている。

片方は背の高い家から背の低い家の屋根に飛び移って、そこから2人で撃っている。

撃たれている方は後ろをケアしながらも家の塀を遮蔽にして戦っている。


ここからそれがよく分かるということは私たちの存在があんまりケアされていないということで、そして撃てるということだ。


「屋根上の敵を狙うチュン。チュンが合図をするからそれでチュンとは違う方を撃ってほしいチュン」

「了解です!」


できることなら塀側のPTを倒したいが遮蔽のある場所で、1人ダウンさせても隠れられて起こされてしまうだろう。

グレネードも大事で、あのPTが持っていなかった場合のことを考えると使いたくない。それなら確実にキルを取れる屋根上のPTを狙うほうがいいと思う。


威力の高いスナイパーライフルは頭一発でその体力を全損させる。

ヘルメットなどの装備によっては体力を削りきれないこともあるけど、見た感じ、彼らの装備したヘルメットはそんなにレベルの高いものじゃない。


頭を晒して撃っている敵に狙いを定めて、しっかりと頭を狙う。


「チュンは左を撃つチュン、ツユキちゃんは」

「右ですね、分かりました!」


スナイパーライフルらしい耳に来る轟音を響かせて放たれた弾は、一発で敵を仕留める。その間に、ツユキちゃんもまたしっかりとアサルトライフルで敵の体力奪ってくれていた。


「今のをちゃんと倒しきれるのはツユキちゃんも成長したチュン!」

「動かない敵ならなんとか当てられました!」

「ナイスチュン!」


PT合計キル数が2になったのを見て、塀側のPTを確認する。

彼らはもう移動したようで、ここからは見えない。

屋根の上にある箱からアイテムを回収するのはきっと難しいだろう。あまりにも射線が切れなさすぎる。


「たぶん、屋根側のPTが撃たれていなかったのを見ると集落にはもう敵はいないと見ていいかもしれないチュン。もう円が閉まるからさっきのPTに気を付けて移動するチュン」

「はい!」


家を出て、移動を始める。

だが家を出て、遮蔽のない場所に一瞬出ると直ぐに銃弾がこちらへ飛んでくる。

それは間違いなく、先ほど塀側にいたPTでチュンたちが移動する予定だった場所に陣取っている。


「めんどくさいチュン。集落の中を通って、移動するチュン。もちろん警戒されてるし別の射線も通るけどこっちのほうが結果的には安全に行けるチュン」


集落の家から家へ、先ほどのPTがいた塀までやってくると、ちらり、と先ほどのパーティーを見る。

相変わらずのガン見で、私たちを見逃す気はないらしい。


「しょうがない。虎穴に入らずんばずんばチュン。スモークを焚いて全力で倒しにいくチュン。正面にスモークを焚いて、グレでけん制、チュンが最初に飛び出すチュン。不利なファイトだけど勝たなきゃ勝てないチュンから頑張るチュン」

「りょ、了解です」

「円も閉まるからいくチュンよ」


まずスモークを投げる。

場所は前のPTがいる近く、走ってスモークに入ると、グレを視線を高くして感覚で距離を合わせて投げる。


グレの転がる音と移動する足音、それ同時に、飛び出した。


我ながら才能が恐ろしく、グレはちょうど彼らのいる場所に転がってくれたらしい。

避けようと左右バラバラに移動した彼らを、エイムしやすい位置にした左の敵をまず、倒す。

だけど相手も上手い。ちゃんと撃ち返してきた右の敵が、ツユキちゃんをダウンさせるが、それでも私が有利だ。

ツユキちゃんがだいぶ削ってくれていた敵のHPを削りきって、敵を倒すとスモークの中に後退して戻っていったツユキちゃんを確認して、直ぐに起こそうとする。


「すいません!」

「大丈夫チュン!」


ここなら起こせるだろう。

これで4キル。


___カラン。


カラン?何かが転がる音に、反射的にその場を移動する。

遅れて聞こえてきたのは爆発音で、ログにはmahoro_chanがtsuyuki_shizuをキルしましたと表示される。


グレネード……!

投げられたのはどこからだ。

辺りを見るが投げられそうなPTは1つだけ、丘のてっぺんで車を遮蔽に高みの見物をしている2人だけだ。


「雀さん、残り3部隊です。残っているのは、まほろさんたちのチームと、おそらくは兎兎座さんのチームです。2,1,1です。2人のところは」

「まほろちゃんたちのチームチュンか……」

「はい」


さて、どうするか。

まず木と草むらを盾に回復を巻きたい。

だけどもう一個、ピンポイントにグレを投げられたらほぼ終わりだ。

それはGGとして素直に祝福しよう。


小刻みに動きながら、医療キットを取り出して無駄にリアルな治療描写と共に体の傷を癒す。

体力を全回復すると箱を漁り、スモークを2個、グレを2個、フラッシュバンを1個、弾を回収した。

アサルト2丁にするのがいいと思うけど、安定策を取るよりはワンパン性能が高いスナイパーライフルをサブに持っておく。


さて、あとは円が縮まると同時に勝負だ。

ポジションの関係的に私は挑戦者で、相手は絶対王者。


こういう勝負は熱くなるし、楽しい。


「ツユキちゃん、優勝して肉行くチュン!」

「は、はい!」


打ち上げは高い肉を食べよう。優勝して最高に美味しいお肉を。


アイテムを回収し、戦う準備を整えて円の収縮を待つ。

スモークを焚く準備をして、ほっと息を吐きだした。


最後の勝負が始まる。

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