閑話 親友が可愛すぎる

_______最近、寧々に対して思うことがある。


「どうしたの?」


リビングで夕飯を食べ終わった寧々がこてん、と首を傾げる。


私のピンク色の脳内が、そんな寧々に思うことは最近は一つしかない。


……親友が可愛すぎる!


だってそうだろう。

見た目は百満天の美少女で、少し眠たげな垂れ目も可愛くて身長も低くて小動物っぽい。そんな彼女とほとんど二人屋根の下だ。


それに……、人類史においてずっと流行り続けている営みを寧々と行った私しか分からない可愛さももちろんあって……つまるところ、私のちんけな語彙力じゃ表現しきれないほど、寧々が可愛すぎてヤバい。


そしてそんな可愛すぎる寧々に私はとあることをお願いしようとしている。

だけど良い感じの言葉も何も出てこないで、挙動が不審になっているのが今の私で、寧々はそんな私を訝しげに見ていた。


「な、なんでもないよ」

寧々の問いかけに若干のうわずりを含んだ声で答える。

若干のジト目が返され、私は顔を逸らしてしまう。


そんな私を見かねてか、寧々はゆっくりと立ち上がって私の隣に立った。


「彼方」

「は、はい」


寧々の問いかけに答えるとむぎゅっと、頬を両手で挟み込まれる。


「悩むの禁止。言って」


うぅ……今だけは寧々の幼馴染ぢからが辛い。


だけどどんなに否定しても寧々はきっと追求を止めることはないだろう。


だから私は火を吹くような思いで、寧々の耳に口を近づける。

ぽしょぽしょと呟かれるその言葉は、酷く単純で、私の欲望をシンプルに表していた。


「……寧々とえっちなことがしたい」

「ん!?」


目を見開いて固まり、すすすと離れていく寧々。

その顔はたぶん私と同じぐらい、いやそれ以上に真っ赤で口をあわあわとさせていた。


「な、なんで急に……」

「だ、だって今日は長月さんいないし、明日は休みだし、それに……その、寧々が可愛すぎるから……」


俯きがちにそう呟き、寧々の反応を窺う。


寧々は真っ赤にした顔を逸らしながら、私の袖を掴み、耳に口を近づける。


「も、もう一回!……シャワー浴びるから、そ、それから部屋に行くね」


そう言い切ると同時にばさばさばさと、リビングから消え去る寧々。

嬉しさと恥ずかしさと若干の期待を胸に抱えながら、私も2回目のシャワー浴びようかな、なんて考えていた。


部屋に戻り、緊張で手につかない作業とMetubeの動画を行ったり来たりしていると寧々がお風呂場に向かう音が聞こえて緊張がピークに達する。


部屋の匂いは大丈夫だろうか。

無臭と謳っている消臭剤の置かれた部屋は、簡素で、ベッドと本棚と机と椅子、あと飲み物が入ってる冷蔵庫しか置かれていないいつもの部屋だ。

だけど落ち着くいつもの部屋が今は少し落ち着かないものとなっている。


下着は大丈夫だろうか。

可愛らしいネグリジェとかも持っていない私は寧々にプレゼントされたジェラートなボーダーのふわふわしたルームウェアとその下には無地のキャミソール。


いつもの格好が少しばかり不安だ。


そうして慌ててばかりの時間は、コンコンとノックの音で終わりを告げる。


扉を開けると、少し髪を湿らせて恥ずかしそうな寧々がちらりを顔を覗かせた。


服装はいつもと変わらないショートパンツと、そしていつもと違うダボっとしたシャツ。

そのシャツはなぜか私のもので、いつも下に来ているブラトップは多分着ていない。


……可愛すぎて死にそうだ。

お腹に溜まっていく劣情を感じながら、必死に理性を保つ。


「格好、どう?」

こてん、と首を傾げた寧々。


「……最高です」

髪が少し湿っているのも、私のシャツを着ているのも、全部が全部、私のヘキを刺激していて、なんでここまで自分のヘキを把握されているかは置いといて最高以外の感想が出てこない。


「良かった」


嬉しそうに。

本当に嬉しそうに寧々が呟いた。


_____プツン、と理性が焼き切れる音がした。


「寧々……」

顔を近づける。それだけで寧々は目を瞑って受け入れてくれた。


最初は小さなキス。


次は少しだけお腹に溜まった劣情を吐き出すようなキス。


少し感じるミントの風味が寧々が歯磨きをして備えたことの証左になり、それがたまらなく愛おしい。


「か、かにゃ、た」

「好き。好きだよ。寧々」


顔を真っ赤にして目尻に涙をためる寧々。

普段の私は日和ってしまうかもしれないが今宵のかにゃたは残念ながら止まれそうにない。


私の堪え性のない手が好きなように動き、寧々の全てを愛そうとする。


寧々の体を覆い尽くすように、ベッドに膝を立てた私の肩に寧々の腕がまわされる。

体を起こした寧々が耳元で、余裕のない声で小さく囁いた。


「かなた、もっと」

「なに」

「もっと。もっと言って。好きって。溺れるぐらいもっと」


……寧々は私を試しているのかもしれない。

既にパンクしている理性という名の本能に身を任せて、今度は私が寧々の真っ赤な耳元に口を近づける。


「好きだよ」

寧々の体が小さく震える。


「好き。寧々の顔も、性格も、体も、つま先から頭のてっぺんまで全部大好き。このまま二人でずっとこのベッドの上にいられたら、どれだけ幸せなんだろうってそればかり今は考えてる」


少しずつ言葉を吐き出しながら、寧々の体に触れていく。

優しいものから、少し意地悪なものまで、愛を囁きながら、寧々に触れていく。


汗で頬に張り付いた髪の鬱陶しさにも気づかず、寧々の陶磁器のような綺麗な肌しか視界に入らず、このまま永遠になればいいと願うもこの世界は残酷で、時間経過による疲労で先に根を上げたのは寧々だった。


「……疲れた。流石にもう少し体力つけるべきかも」

「じゃあ今度から一緒にランニングでも行く?」

「……やめとく」


想像したのか、苦い顔をして首を振る寧々。


私はベッドから攣らない程度に腕を伸ばして気合いで冷蔵庫から500mlの水を取り出す。


キャップを開けて寧々に渡すと肩で息をしながら喉を鳴らして飲み、一息をつく。


「しんどい」

「ごめんね。無理させちゃった」

「いいよ。ああいう彼方も新鮮で楽しいよ」


ああいう、とはどういうだろうか。

聞くのは正直怖い。


私は寧々が半分ほど飲んだ水の残りを飲み干すと、同じように一息ついてもう明らかに寝る気満々の寧々を横目に、転がったティッシュをゴミ箱に入れていく。

そしてゆっくりと寧々の隣に横になった。


私も若干、疲れた。

このままだときっと昼までぐっすりだろう。


「ねえ、彼方」

「なに?」

「この場合、どっちが抱き枕になるべきだと思う?」


横になり、私に体を向け、手を広げて捕食態勢の寧々。

大きい方が抱き枕になれとのことらしい。


私は甘んじて寧々の人肌がぎゅっと私を包み込むのを受け入れる。

右足が両足の間をこじ開けて入ってきて、腕は私を抱き抱えるようにする。

私の胸に顔を埋めた寧々は、小さく「おやすみ。彼方。大好きだよ」と呟いた。


そんな愛の言葉を私も返す。

「おやすみ。寧々。私の方が大好きだよ」


「私の方が好きだから」

「いや、私の方が」


顔を上げた寧々と、見合わせて小さく笑い合う。


「今日は良い夢を見る気がする」

「うん、きっと」


寧々の言葉に、頷いて、それから会話もなく、秒針の音に誘われてゆっくりと瞼を閉じた。


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前回、随分とお待たせしたので閑話として二人のお話を更新。

直接的な描写より間接的な描写の方が想像力を掻き立てられて好き

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