三章
第50話 ふにゃりぎみ
「登録者13万人突破ありがとうチュン!この前、10万人に届いたから祝うつもりだったチュンけど、いつの間にか13万人になっててビックリしたチュン」
この前の猫神様たちとのコラボ、スポンサー契約の締結と大型イベントを通して、下切 雀チャンネルの登録者数は鰻登りになっていた。
前が7万後半だったのに2週間ほどで既に13万人を超えている。
VTuberの登録者の伸びランキングを見ても、大手の中に食い込んでいる。
それだけ今の雀には注目が集まっているということだ。
『13万人おめでとうございます!¥5000』
『¥10000』
『おめでとうー!』
『餌も鼻高々です¥10000』
「わわ、みんなマスチャありがとうチュン!」
マスチャをくれた人の名前を呼んでいく雀。
今、雀の同時接続は雑談でも平均3000人程度は居て、FPS系のゲーム配信では10000人を超えることも稀にある。
私の親友はVTuberとして躍進の日々を送っていた。
「今日は登録者13万人のお礼と、あとはこれから配信したいゲームとかしてほしいゲームとかそういう話をしていきたいと思ってるチュン」
『前してたギャルゲみたいな作品をしてほしいです。あの回、大好きなので』
『協力型のホラーゲームとかしてほしい。誰とは言わないけど』
「あー、チュンもああいったストーリーゲームとかしたいチュン。あの回、結構な人に好きって言われてるチュンけど後から見返したらチュンだいぶ狂ってて引いたチュン」
『それがいいまである』
『オタクは人が狂うのを見るのが大好きなので』
「百里あるチュンね。ホラーゲームは割と考えているチュン。といっても、そんなに怖くないやつで協力して謎を解いていくみたいな謎解き要素があるやつにしたいチュン。怖すぎると某彼女は途中で発狂しかねないチュンから」
某彼女、誰とは言わないが、確実に発狂してしまうだろう。
前のホラーゲームでさえ、限界だったというのに。
あの後、あのホラーゲームは私の本気の拒否によって、雀が一人で配信してクリアまで頑張っていた。アーカイブはもちろん見ていない。
「チュンが最近したいと思ってるゲームはVコレチュン。色んなVTuberさんたちがやってるから気になってるチュン」
Vコレ。正式名称はVTuberコレクション。
これはVTuberをプロデュースして育成するゲームで、VTuberとその魂と密接に関り、最終的にトップVTuberにすることができれば、クリアになる。
多種多様なイベントや、トゥルー、ハッピー、バッドと何十種類ものエンディングが話題になってた作品だ。
『あのゲーム楽しいけど、結構精神にくるよね』
「それが良いんだチュン!Vコレはそのうち配信やるからみんな楽しみに待っててチュン」
『まじで楽しみ』
『最初にプロデュースするキャラ、なんとなく分かるのおもろい』
「ちなみにダウナー系で高身長で元シンガーソングライターの某あの子をプロデュースするつもりチュン」
『知 っ て た』
『雀ちゃんのヘキが出てる』
『難易度高めの子だ』
「難易度とか関係なしで、見た目が良すぎたので決めたチュン。情報はほとんど入れてないからネタバレはNGでお願いするチュン」
『りょかです』
『逆に飼い主さんがやったら、雀ちゃんっぽいあの子を選ぶのか少し気になる』
「当たり前チュン!」
自信満々にそう答える雀に、顔を逸らす。
Vコレには本当にたくさんのキャラが居て、その中で私、一番推しているのは後輩キャラでボーイッシュなギャルっ子だったりするが、知られたら雀から抗議の囀りがとんできてしまう。
『草』
『草』
『これで選ばなかったときの反応見てみたいのでぜひ飼い主さんにも配信してほしい』
「らしいチュンよ?」
突然とんできた雀の言葉に、驚いてお茶をこぼしそうになってしまう。
「えっと、機会があれば……」
『絶対やらないやつ』
『問いかければ返ってくる位置に飼い主さんがいるのてぇてぇがすぎる』
『一日、いちなま飼い主が達成できたので良かったです代 ¥5000』
『雀ちゃんと飼い主さんとの最近のエピソード聞きたいです』
「最近のエピソード……なんだろうチュン?あ、一緒に映画観にいったチュン。最近、流行りの少年漫画の劇場版チュン」
『あれ良かった』
『作画すごかったよね』
「そうチュン。原作は読んでるし内容を知っているからどうかと思ったチュンけど作画が良すぎてビックリしたチュン。声優さんもイメージ通りで面白かったチュン」
『雀ちゃん出不精みたいなイメージあったから映画とか行くの意外かも』
「まあ、そのイメージは間違ってないチュン。基本、チュンは外に出ないチュンけど飼い主さんが有給消化で珍しく平日休みだったチュンからデートしてきたチュン!」
『最高』
『飼い主さんと雀ちゃん一生デートして幸せに暮らしてくれ~~~~~』
雀が雑談のフェーズに入って、のんびりと時間が過ぎていく。
私がソシャゲのデイリーをこなしつつ、そんな雀の雑談に耳を傾けていると睡魔がゆっくりと襲ってきた。
意識がゆっくりと沈み、感覚としてほんの数秒ほどで背中を揺らされて、目が覚める。
「あれ?」
「彼方、寝るならベッドで寝ないと」
雀の配信を開いていたタブレットには、このストリームはオフラインになりましたと表示されていて、時刻は記憶していた時より一時間進んでいる。
「あれ……寝てた?」
「それはもうぐっすり」
まだ覚醒しきってない意識であくびをもらして、ぐっと伸びをする。
ふにゃりぎみなぼんやりとした頭で寧々の顔が良いと形容するしかない顔を見ながら、「10万人突破おめでとう」と呟く。
「それもう百回ぐらい聞いた」
「いや、なんか言っとかないとみたいな感じして」
「なにそれ。じゃあ……私からも10万人突破おめでとう」
「私は雀じゃないよ」
「前も言ったでしょ。下切 雀は私たちで下切 雀なんだから彼方もおめでとうなんだよ」
寧々の言葉に、昔一言一句違わず、同じ言葉を言われたのを思い出す。
「二回目だね」
「うん、二回目。私たちは一緒に頑張ってきたんだから、彼方も胸を張る側なんだよ」
寧々の言葉で、VTuberになった親友と一緒に頑張ってきたんだってことが胸に落ちて、温かな気持ちになる。
「そうだね。うん。ありがとう」
「うん。私からもありがとう」
寧々が笑みを浮かべる。
一緒に住み始めた時より寧々の笑顔がだいぶ増えた。花が開くように笑う親友に、胸の奥が少しドキドキした。
今はもう慣れて、受け入れることができたこのドキドキを感じながら、私も寧々に笑いかけた。
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