第31話 ホラーゲームと距離感のバグ(1)
「______というわけで今日の定例会議はホラーゲームをやっていくチュンよ!」
「……わー、ぱちぱちぱち」
『飼い主さんテンション駄々下がりで草ァ』
『たのしみ』
『飼い主さん嫌そうで草』
ついにこの時が来てしまった。寧々は楽しそうだけど、私としては今すぐ突然の腹痛を訴えて保健室に直行したい。
「ついにこの時がやってきてしまった……」
「二人で一緒に頑張るチュンよ。プレイは死んだら交代って形でやるチュン」
「死!?死ぬ系なの……?」
「そりゃ、ホラーゲームで死なないほうが珍しいチュン」
「ひえぇ」
「とりあえず最初のプレイはさっきじゃんけんで負けた飼い主さんにお願いするチュン」
「……あい」
指を絡め合わせ、腕を捻って見たじゃんけんの未来は無事敗北に終わり、マウスとキーボードを操作することになった。
『New game』の文字を睨みつけるが消えてはくれない。
私は観念して、エンターを押した。
私と寧々はあらかじめロケハンとして最初の部分だけ軽くプレイはしている。
だから操作自体はわかっている。
というかwasdで移動、shiftでダッシュという風に基本的にだいたいのPCゲームと変わらない。
エンターと共にストーリーが再生される。
『どうもー!バモ廃墟チャンネルのヤマタノでーす!今回はですね。生放送で巷で噂の廃洋館に行ってみたいと思いまーす!』
金髪の青年がカメラに映る。
『サイケ』はMetuberを主人公にしたホラーゲームである。
二人組のMetuber『ヤマタノ』と『オロチ』は許可なく心霊スポットの廃墟を探索する様子を動画に撮り、アップロードしていた。
そんな彼らも批判は多けれど支持する者も一定数いて、今回は一万人記念で生放送を決行した。
場所は国内最恐の心霊スポットと謳われる山奥にある廃洋館。
噂によると、一家心中により亡くなった家族の霊がさまよっているらしい。
深夜は午前2時。草木も眠る丑三つ時に、月明りもでていない山道を進む。
すると突然、洋館の前まできたところで車のエンジンが止まってしまった。
呪いだ呪いだ、と二人ははしゃぎながら車を止めて、中へずかずかと入り込んでいく。
立て付けの悪い扉を無理矢理開けて、高価そうな絵を外してみたり、やりたい放題をする二人。
だが突然、放送がオフラインになってしまう。
やがて放送がオンラインに戻った頃には生気を失った顔で助けを呼ぶヤマタノが映っていた。
カメラは床に置かれて、オロチの姿はない。
ただ映し出されているのは何者かに脚を掴まれ、ゆっくりと真っ暗な暗闇に引き摺り込まれる姿だけ。
そしてやがて引き摺り込まれたヤマタノは声すらも発しなくなり闇に消えていった。
当然、ネット上でバズり、警察が捜査するが二人を見つけることはできず、あったのはカメラと彼らに所持していた財布やスマホのみ。
また映像を見た若者たちがこぞって集うようになってしまう。
だが行った若者が全て行方不明になったことで禁忌の場所としてネット上でも恐れられ、警察と山の所有者により、この場所は封鎖されることになった。
だが本物の馬鹿はいるもので……
「ここが噂の場所ね」
彼女もまたMetuberだった。
登録者数3人。動画投稿数6本。主な動画はホラー系の解説だが、まだ動画編集などが不慣れなのとボイスチェンジャーでくぐもった公共放送でプライバシーに配慮したような低い声にしているため、低評価が多くついている。
名前を『地に落ちて再び舞い降りた最強堕天使ちゃんねる』
チャンネル主は、まだ中学二年生の少女である。
『このゲーム初めて知ったけど主人公かわいい』
『ネーミングセンスがちゃんと中学生なのすこ』
3Dホラーだが、制作者の情熱なのかなんなのか主人公の少女がとても可愛らしく作られている。アニメチックな絵ではないが、それでも十分可愛らしい女の子だ。
堕天使ちゃんねるだから作品ファンの間では通称ダテちゃんと呼ばれているらしい。
「じゃあ行くよ」
「骨は拾うチュン」
懐中電灯と暗視機能がついたビデオカメラを持って、警察によって設置された柵を飛び越え錆びた門を通り抜ける。
ここまでは先ほど寧々と一緒にやったところだ。
つまりここからは未知である。
門を通ると正面玄関が見えてくる。
少し開いていて、真っ暗な隙間から何かが覗いているように感じてしまうのは恐怖ゆえだろう。
「とりあえず正面から入っちゃうね」
洋館に潜入だ。扉の前まで行き、表示されたFキーを押して扉を開けようとするが、ふと奇妙な音が混ざっていることに気づく。
「なんか人の息みたいなの聞こえない!?」
「……聞こえるチュンね」
________はぁ、はぁ、と息を切らしたおそらくは男らしき声が聞こえる。そう、まさしく扉の奥から。
『ひえっ』
『なんかおるやん』
「飼い主さん、暗視モードに切り替えてそのちょっとだけ開いてる隙間を見るチュン」
「えっ、無理だけど」
「やるチュン!どぅいっと!」
えっ、嫌だ……だってなんかいるじゃん、絶対いるじゃん……
寧々は隣で楽しそうに私を見ている。私がビビってるのが楽しいらしい。
「楽しそうだね……」
「飼い主さんが追い詰められてるの新鮮すぎて楽しいチュン」
「ドS雀め。わかった……やる。やるけどちょっと怖すぎるからもっと近くに寄ってください……」
「しょうがないチュンね〜」
寧々とぎゅうぎゅうにくっついて、いざカメラを暗視モードにして中を見る。
「?何もいないチュンね」
「な、なぁんだ。やっぱり気のせいか」
半開きだった目を開いて、安心して声をもらす。
「いや、分かってた、分かってたよ。や、やっぱこういうホラーゲームって最初は手加減してくれるっていうかさ……ね?」
「ビビりまくってたチュンけどね」
寧々のジト目から逃れて、コメント欄を見る。
『お、おう』
『せやな』
『三下飼い主さんすこ』
「じゃあ次行くよー!さっさと攻略して解放されるよー」
「急に強気で草チュン」
寧々が隣で何か言ってるが気にしない。
Fキーを押して扉を開ける。
こういうホラーゲームは勢いが大切なんだ。
「やっぱし何もいなっヴァッ!!!!!」
【ガアアアアアアアア】
扉の影から突然、現れた人型の何か。
急に目の前に現れ、主人公を押し倒して何かを奪って逃げて行った。
「……死んだチュンね」
『惜しい人を亡くした』
『Rip』
『いや、普通にビビったけど飼い主さんのヴァッで腹抱えて笑うことになった』
仰け反り、背中をソファに打ちつけた私は痛む背中と早い鼓動を抑えながら立ち上がる。
……さ、寝るか!
「えー、飼い主は死んだのでさよなら」
「待つチュン!まだ序盤も序盤チュンよ!」
私とは対照的に寧々は楽しそうだ。
「死んでないからまだ飼い主さんがプレイするチュン」と笑う寧々に私はがっくりと肩を落とした。
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