第30話 休日は親友と一緒に

朝……、いつもとは違う角度から差し込む光に身を捩り、体を起こす。

隣ですやすやと寝息をたてる寧々の頭を撫でて、仕事に行く準備をするために大きく伸びをした。


……体の節々が痛い。

昨日色々あって、というか色々ありすぎて、疲れ果てた私たちはシングルベッドで話をしながら一緒に寝てしまっていたらしい。

二人くっついて窮屈な格好で寝たから体が痛い。


……当たり前だが何もしていないし何かする度胸もない。


携帯を見ると上司から『有給伝えておいたから休みを満喫しておいで。お土産は缶のクッキーで』とネズミの絵文字と共に送られてきていた。


有給……?


頭に血が昇って前日有給申請という禁忌を犯したことを思いだす。

残念ながら千葉に行く予定はないので『エナドリ買っていきます』とだけ送り、携帯を閉じた。


そっか。休みか。


「んにゅ」

あざとさマックスな鳴き声をあげて、寧々の閉じた目が微妙に開かれる。


「かなた……」

「まだ寝てていいよ」


目元は少し赤くて、痛々しい。

寧々さえ良ければデートなんて考えもしたけどこんな寧々を人前に出したら全人類が心配になって寧々に押し寄せてくるかもしれない。


「や、起きる」


体を起こし、ふらふらしながらあくびをする。


「ふわぁ、彼方……仕事休みだっけ?」

「うん」

「そっか……えとその、あのー……」

「……はい」


少し顔を赤らめて何かを言いたげに髪をクルクルさせる寧々に思わずベッドの上に正座になる。


「私たちってお互い好き、だよね?」

「そ、そうですね」

「じ、じゃあ、その、恋人ってやつになる感じ?」

「ど、どうでしょう」


思わず敬語になりながら寧々の言葉を咀嚼する。たしかに好き同士だし恋人って器に収まるのが一番丸いんだろうけど、恋人という言葉よりも「親友」の方がしっくりくるし手離したくない。


「でも、私は寧々の親友でいたいかなー、なんて」

「……ん。私も同じ気持ち」

「じゃ、じゃあこうしない?親友って読んで字のごとく親しい友なわけだけど時代によって友達もやっぱ形を変えてるし、その、なんとかフレンズとか」


具体例はあえて口には出さないが、実際友達にもその人、唯一無二の関係性があるわけで、それをわざわざ名前をつけて枠組みに当てはめる必要性を感じない。


「だから私たちもこのままでいいと思うんだ。名前をつける必要はないというか」

「うん、そうだね。私もこの関係性は変わらないままでいいと思う」


へにゃり、とお互い顔を合わせて笑う。


私と寧々は親友だ。だけどそれはどこまでも深く繋がっているもので世間の物差しで測れるものではないのである。


「朝ご飯どうする?」

「食べる、今日は彼方の味噌汁が飲みたい気分かも」

「了解」


立ち上がり、キッチンへ向かおうとすると寧々が小さく裾を引っ張る。


「その、彼方……好きだよ」

「あはは、私も好きだよ」


迷いのない言葉が口から飛び出し、寧々は顔を赤くして布団に入ってしまった。

まだ耐性はないようで、微笑ましくて笑みがもれる。


さて今日の朝ご飯は腕によりをかけて作ろう。


そう、例えば毎朝作ってほしいと言われるようなとっておきの味噌汁を。

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