第19話 ギャルゲーするよ!(1)
マイクよし、事前インストールよし!
サブモニターに映されるコメント欄には既に多くのコメントが流れている。
登録者3.4万人。同時接続数700〜2000程度。
活動開始から約二ヶ月の成果として十分もいいところだ。色んな人のおかげである。
今日も私は、心を弾ませて、彼女の仮面を被り、今日も少しだけ声を高くする。
さあ、今日も楽しい生放送の始まりだ。
「はじまったチュン!」
『わこつつ』
『出かわ』
『タイトルにもあるけど珍しい感じのゲームだね』
リスナーさんのコメントをサブモニターで確認しながら、コメントを読んでいく。
「そうチュンね。ちょっと珍しい感じのゲームをチョイスしてみたチュン!」
タイトルは『夏の残滓と秋の色』
所謂ギャルゲー。恋愛シュミレーションと呼ばれるジャンルだ。
FPSをやっているとマックス人は集まるけど、動画投稿もあってチャンネルの動画や生放送がFPSゲームで埋まっているのは少し寂しい。
それにリスナーさんのなかにはFPSが苦手という人も少なからずいる。
だから偶には毛色の違ったゲームをするのもそういう人たちのためになるし、なおかつ新規リスナーさんを取り入れるための入り口になってくれる、と考えた。
『夏と秋はいいぞ。』
『名作じゃ〜ん』
『アニメ泣いた』
このゲームの規約上、最後までは配信に映せないけどアニメ化もされてノベライズやコミカライズもしている大人気作品だから知名度は高く、多くのリスナーさんが知っているようだった。
「チュンは事前情報まったく入れてないからネタバレはNGでお願いするチュン!」
『了解』
『ネタバレは悪い文明』
『おけまる』
New Gameをタップする。
幼い少女の声でされるタイトルコールが可愛いらしい。
【主人公を選択してください】
「おっ?」
主人公。つまりは私となる姿が二人表示される。
一人は男性、もう一人は女性。
どうやらこのゲームは男女どっちも性別が選べるようで、しかもどちらを選んでもシナリオに影響はないと書かれている。
細かい台詞とかは変わるかもしれないけど、このタイプのゲームでどちらも選択できるのは結構嬉しい。
もちろん、女性を選択する。
黒髪で活発そうな如何にも主人公って感じの女の子だ。
『ノータイムで草』
『雀ちゃんならそうするよねって見てたw』
「男の人でもよかったチュンけど、どうせなら女主人公にしてヒロインとイチャイチャしたくないチュンか?」
『わかりみが深い』
『それな』
『性別選べる恋愛ゲーム、正直めちゃんこ嬉しい』
あといわば自分の分身たる主人公の口調が自分とかけ離れてるとちょっと感情移入しにくいのも理由のひとつだ。
「主人公の名前は雀でいいチュンね。チュンはこのゲーム完全初見だからネタバレは禁止でお願いするチュン」
『あたぼうよ』
『そういえば雀ちゃんのとこは、モデレーターさんとかいないの?』
生放送のコメントを管理してくれるモデレーターさんは、配信の縁の下の力持ちのような存在だ。
荒らしコメントやスパムコメントを削除してくれるため、生放送の治安を維持してくれている方々だ。
「一応、飼い主さんと仲良いVtuberさんにはあげてるチュンね。まあでも基本はチュンが処理してるチュン。今日は飼い主さん、仕事疲れで死んでるから、ネタバレがあってもスルーするか適当な嘘でもついて流してくれると嬉しいチュン。あとネタバレやめろみたいなコメントもネタバレに繋がるからやめてほしいチュン」
『了解です!』
『主人公が自爆するシーンおすすめ』
『主人公が溶鉱炉に沈んでいくシーンは涙なしでは見られない』
「別に積極的に嘘をつけって言ってるわけじゃないチュンよ!?」
ノリの良いリスナーさんのコメントに笑わせられながら、ピアノの音色とともに始まったストーリーを見ていく。
主人公は今日から高校一年生で、寝坊した主人公が、幼馴染の
隣の家同士で窓から侵入する創作あるあるだが、創作だと分かっていてもこういった関係に憧れてしまうのはしょうがないことだ。
私が高層マンションの彼方の家にそんなことしようとしたらミッションがインポッシブルな感じになってしまう。
「夢ちゃんはツインテールじゃないチュンね」
夢ちゃんはふわふわな癖っ毛ぽい髪を肩まで伸ばした女の子で肉付きが良いふかふかした感じの庇護欲をかき立てられる女の子だ。
『草』
『言ってることはわかる』
『幼馴染キャラってだいたいツインテールツンデレって考え方、インターネットの住人って感じだ……』
『雀ちゃんツインテール好きなの?』
「いや、特には……、ポニテが好きだって言ったら次の日、ポニテにしてくるとか小柄で腰まで伸びたふわふわ栗色ロングとかそういった髪型が好きチュンね」
宇宙人とか超能力者に興味があったり、強情卑怯唯我独尊でとんでもなく危なっかしい隣に住む顔の怖いドラゴンさんに養われてる虎さんとかが好みのドストライクだ。
『駄犬とか呼んでくる子とかメロンパン好きな子も好きそう』
『アニオタ老人会やめてもろて』
『雀ちゃんツンデレキャラが好きだったんだ……』
「クーデレもヤンデレもツンデレも等しく好きチュンよ。というか嫌いなキャラがいないって感じチュンね」
さて、雑談はこれぐらいにしてゲームに戻ろう。
主人公、雀ちゃんの高校生活1日目はまさに出逢いの日だった。
夢ちゃん。そしてタイが曲がっていることを指摘してくる先輩の風紀委員長。泣きぼくろが色っぽい生徒会長に、八重歯のある元気な隣の席のクラスメイト。図書委員のメカクレちゃんに、天才飛び級ちびっ子教師。
「攻略キャラ多すぎでは????」
『それな』
『アニメでもほとんどのキャラはソフトタッチで夢ちゃんルートだけに焦点を当てて作ってた』
『一人攻略したら全員攻略したくなる罠』
『全員攻略して隠しキャラ攻略してイベントスチルコンプリするのに誇張なしで一ヶ月以上掛かる』
「んー、じゃあとりあえず夢ちゃんの攻略してみるチュン。そういえばこういうゲームでありがちな親友ポジはいないチュンか?」
古い認識かもだけどこういった作品は、好感度とか教えてくれる親友ポジのキャラがいるイメージがある。
『化学準備室に行けば化学教師が情報とか好感度とか色々教えてくれるよ』
『あっ』
『まずい』
「化学の先生チュンか!ありがとうチュン!」
マップを開いて、化学準備室へ向かう。にしてもリスナーさんは何を焦っているんだろう。
「じゃあまず夢ちゃんの情報とか……えと」
【ん?君……そのネクタイ、新入生か。どうした?迷ったか?】
白衣を纏い、棒付きキャンディを咥える黒髪の女性。身長は等身からして高めで少しだけクマがある。ダウナー系の化学教師。
「好き……」
『あちゃあ〜』
『どことなく飼い主さんに似てるかも?』
『雀ちゃんが好きそうだなって思ったw』
『そいつを好きになっちゃダメだ!』
『堕ちたな』
「キャラが多いのも考えものとか思ってたチュンけどキャラが多いからこそこういう尖ったキャラも入れられるわけチュンね!攻略するのこの人にするチュン!」
『……ッスー』
『攻略見たい!』
『^_^』
『^ ^』
『その人、攻略できないんです……お助けキャラなので』
「は?」
?????????
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ダウナーで二人称が『君』の美人化学教師は好きですか?
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