第8話 ゲームするよ(1)

ワールドクラフト。


ストーリーやタスクなどが存在しない所謂サンドボックスゲームの一種で、サンドボックスゲーの中では比較的新しい作品だ。

三人称視点のゲームで、プレイヤーは広大な世界を好きなように自らの目標で切り開いていく。

ただ他のサンドボックスゲームとは明らかに違う点があるけど。


「はじまったチュン!週末定例会議の時間チュン!」


週末定例会議。

端的に言うと雀と雀の餌のみなさんの悪ノリだろうか。


どうやら私の存在にも一定の需要が存在しているらしい。


雀の餌が望んでいるという言葉のゴリ押しで半ば強制的に、週末定例会議という名の私と雀がのんびり雑談やゲームをする日が設けられた。

名前の通り、週末である日曜日の20時から、だいたい二時間ほど放送する予定だ。


「こんばんは。明日は月曜ですね、飼い主です」


『こんちゅん〜』

『げつ……よう……?』

『ユルサナイ』

『それは禁句』


「道連れです」

「はいはい、飼い主さんは餌に喧嘩売るのやめるチュン。今日はサンドボックスの超新星『ワールドクラフト』をやっていくチュン。飼い主さんはやったことあるチュン?」

「サンドボックスは基本やったことあるよ。セサクワールドクラフトは1.1の時だけど実績コンプしたぐらいかな」

「それってすごいチュン?」


『やばい、世作はカスみたいな実績多いからフルコンプは普通にやりこんでる』

『調べたら1.1でも200ぐらいは実績あるんだすご』

『てかこのゲーム、調べたけどちょっと珍しい感じなんだ』


「ほーうほう、それはすごいチュンね!」


両手を合わせて、嬉しそうに笑う寧々。

何がそんなに嬉しいのやら。


『飼い主さんが褒められると嬉しくなっちゃう雀ちゃんすこ』

『週末定例会議はやっぱ最高だじぇ』

『てぇてぇ。無限に感謝……』

『ところで今日の雀ちゃんがリツイートしてるチュンアート見ました?』


「あっ、見たよ見たよ。すごいよかった!」


思わずノートPCの壁紙にまで設定してしまったそれは、飼い主と雀のイラストだ。


ソファに座る飼い主の膝に雀が頭を乗せてお互い笑い合っている姿を柔らかなタッチで描いたもので、すごい幸せそうなイラストだった。

私も見た瞬間好きになってしまった。


『あれ最高だったよね!』

『飼い主さん×雀ちゃんの絵増えろ増えろ〜』

『できれば飼い主さんのファンアートタグも欲しいです!』


「いいアイデアチュンね!どうするチュン?」

「あー、私描いてくれるのは普通に嬉しいからなぁ。今日決めちゃう?」

「そうするチュン!アイデア!」


『飼い主ガチ恋絵』

『チュンの飼い主の絵』

『か絵ぬし』

『飼い主チュン』


コメントが急加速していく。

よくもまぁ、みんなそんな直ぐに思いつくものだ。


「か絵ぬしはわりと好き」

「わかるチュン。次点でチュンの飼い主の絵チュンね」


______________________


「よし!『#か絵ぬし』にするチュン!」

「じゃあ私の絵を描いてくれるって奇特な方がいればこのタグで呟いてね〜」

「プロフ欄にあとで載せとくチュン」


『ありがてぇ……』

『普通に容姿が好みすぎるから飼い主さんのファンアート増えるの嬉しみが深い』


「じゃあセサク?に戻るチュン。といってもチュンは完全初心者の素雀しろうずめだから飼い主さんにレクチャーしてもらいながら頑張るチュン」

「おっけー。まかせて」


まず世作というゲームは、土や石や木など資材を掘り、さまざまなものをクラフトすることができる。


敵や動物、さらには魔術やUMAなどさまざまなロマンが詰め込まれたこのゲームはとてつもなく時間が溶ける。


ちなみに公式では、人生でもっとも時間を奪うゲームだと紹介されていたりする。


あらかじめ雀の巣という名前でサーバーを作っていたからinするだけだ。


inすると何もない洞窟にポップする。

あまり見慣れない自分の姿を確認して、AとDを交互に押してカニ歩きしていると、おそらく雀らしき存在が目の前にポップした。


「ピッ」

雀も無事入ることができたようだ。


「どういうことチュンかこれ!?」


目の前で複眼を持ったクモがかさかさと動いている。


『草』

『初見ならそういう反応になるよなw』

『セサク、それはモンスター育成サンドボックスゲーム!ちなみにモン娘にもなれるよ!製作者の趣味丸出しだね!』


「ちなみに最初になるモンスターはランダムだから、一回抜けて入りなおせばリセマラできるよ」


『suzume left the game』


『草』

『速攻抜けるのは草』


「雀、クモ苦手だからねぇ」

「クモというか節足無理、ほんと無理チュン。勘弁してくれチュン」

「初期モンスターでもクモは2%ぐらいだったはずだから結構レアなんだけどなぁ」

「知らんチュン」


『suzume joined the game』


雀が入ってきて、再度前にポップする。

どうやら今回は節足動物の魔の手から逃れられたようで、小さな鳥の姿をしている。

名前は『sparrow』。


このゲームで一転狙いは闇だから触れなかったけど、雀は配信者として相応しい剛運を持っていたらしい。


「ほぅほぅ、分かってるチュンね!」


『さすが配信者』

『……鳥類ルートは地獄だぞ』

『アッ……しかも雀』


「な、何チュンか!その反応!?」

「こほん。説明しよう」


このゲームの生物カテゴリーは大まかに五つに分けられる。


昆虫類、魚類、哺乳類、爬虫類、鳥類の五つだ。

この中で、初期キャラの強い順に並べるとこうなる。


昆虫類=爬虫類≧哺乳類>魚類>鳥類


wikiには初心者が鳥類を引いた場合はできるだけリセットしたほうがいいと書かれている。


初期キャラとなる生物は多く存在するがそのどれもが小さいものばかりである。

だがあまりも小さいのは操作に支障が出るとされ、初期キャラの大きさは皆等しい……はずであった。


だがそうなると空高く飛行ができる鳥類が有利ではないか?

そう考えた製作者は、初期鳥類の大きさを他の1/3にまで縮小してしまった。

大きさと体力は比例する。

小さな鳥類は体力も低く、それでいて飛行にもスタミナがあり、尽きると落下してしまう。逃げ続けることができない鳥類は、すぐに狩られてしまうため、初期最弱の称号を得ているのだ。


まぁ、それは魚類も同じで、初期キャラは小さく設定されている。

だが鳥類が暮らしている地上ではなく、敵が比較的少ない水場スタートだから鳥類よりもランクは上に設定されている。


因みに魚類はPVPプレイヤーVSプレイヤー鯖では最強認定されているらしい。


「ふむふむ。ちなみに進化すれば?」

「最初の二段階ぐらいを抜けたら鷹や隼とか相当攻撃力が高い鳥になれるからわりと強いよ」

「ふむ。じゃあこれでいいチュン」

「まぁ、雀ならそう言うだろうと思った」

「ちなみに……ずっと聞きたかったチュンけど飼い主さんのキャラ、何の生き物チュンか……?」


薄ピンク色の体色をしていて、にょろにょろと動く謎の生物。

たぶん私がセサクを本格的にやっていたときにはいなかった生物だ。


えっと名前は……


『Amphisbaenia』


えっと、その、なに?


翻訳を掛けてみる。


「ミミズトカゲ?らしい」

「ほぅほぅ、ウーパールーパーみたいチュンね」

「たしかに」


つぶらな瞳がついてて、前足がニョキッと生えている。後ろ足はないっぽい。


「あっ、でもミミズトカゲだけど写真とは見た目ちょっと違う気がする」


『ミミズトカゲのアホロテトカゲって種だと思う』


「アホロテ……?」


一瞬、煽りだと思ったけどそういう意図ではないらしい。

調べてようとするとサジェストにかわいいなどといったものが出てくる。


やがて表示された画像には、確かに愛らしい蛇みたいな生物が写っていた。


「あー、これだ!かわいい」

「かわいい……?」


隣でノートPCを開く寧々にスマホの画像を見せると首を傾げている。


「えっ、かわいいでしょ」

「んー?」


『私は可愛いと思う』

『ミミズが無理だからパス』

『顔は可愛いけど胴体ががが』

『触ってみたい』


賛否両論か〜

可愛いと思うけどなぁ


「飼い主さん、飼い主さん」

「なに?」

「なんか右下のゲージが減ってるんだけどこれやばいチュンよね?」

「右下はご飯ゲージだね。キャラによってゲージに描かれてる生き物が違うと思うけど雀はたぶん、ミミズとかのマークついてるでしょ?」

「うん」

「だったらとりあえずマウスのホイール押してみて」


私も同じようにホイールを押す。

するとソナーのような状態になり、奥に動く複数の小さな影が見える。

私の食事は蟻らしいからあれがごはんになるわけだ。


こんな風にホイールを長押しすると、ソナーが発動されてご飯が見えるようになる。


スキルを割り振れば、素材なども見えるようになるが序盤は食事をして育つことが目的だから、あんまり振る必要はないと思う。


『実績 突撃準備、お前が晩御飯を達成しました』


「あ!見えたチュン!って何チュンかこのふざけた実績」


『い つ も の』

『やがて実績にキレるまでがセット』

『なんやこれw』

『草』


ちなみに『実績にキレる配信者w』という動画がMetubeで投稿されていて、和訳された各国の配信者のキレのあるツッコミや怒りが見れるから、おススメだ。


「ちなみにだけどこのゲーム本物の生き物の動きを参考にしてるから気を付けてね」

「何をチュン?」

「ふふっ、まぁとりあえずご飯食べてみよっか」


『最終鬼畜飼い主』

『あっ……』

『どういうこと?』

『見ればわかる』


餌を目指して、洞窟を歩いていく雀のあとを着いていく。

やがて餌を見つけたのか、ぎぎぎとこちらへ振り向いた。


見慣れた、うねうねと地面に頭を突っ込んだまま動く薄ピンクのソレを見て、苦笑いを浮かべた。


そう、このゲーム、何を隠そう実際の生き物を動きを参考にしてるから生物の動きがリアルすぎるのだ。


「……もうやめていいチュンか?」


いつもとは違う、か弱い雀の声に私は満面の笑みで呟いた。


「ダメ」


______________________________________


ぼくがかんがえたりそうのげーむ


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