第5話 アビスコールを遊びつくせ(中編)
「寧々、そっち行ったよ!って数多いけど大丈夫!?」
「AKMの火力を舐めないで……」
飛び掛かる三体の犬型の魔物の攻撃を、まるで舞うようにダッシュと横移動を駆使して躱し、AKM(というらしい銃)で的確に急所である頭を狙い撃ちして敵を倒す。
PVのような華麗な動きに、思わず口をあんぐりあけてしまった。
「私 is GOD」
寧々の言葉に我に返り、マイクの近くで控えめな拍手を返す。
寧々は満足そうに鼻息をもらした。
「えっ、今のダメージ受けないで倒せるとかできるの?」
「ぶっちゃけ運だったけど、一体ずつ掛かってきてくれたのがよかった」
「いや、三体同時だったように見えたけど……」
「タイミングが完全に同じじゃなかったから」
「こわっ」
こわ。
やっぱり前線で戦う職業を選ばないで正解だった。
こんな猛者がうじゃうじゃしているなかで戦える自信がない。
メアリーと別れて、寧々と合流したあと。冒険者ギルドへ向かうと、職業を聞かれた。
どうやらそこで選んだ職業になれるようになっているらしく、寧々が選んだのは『アタッカー』という職業で、主にSMGやARといった近中距離の武器を得意としていて、近中距離の銃ダメージが上がる、といったバチバチ戦闘特化の職業らしい。
私が選んだのは『エンジニア』
ドローンで索敵を行ったり、味方にバフ効果を付与したり、敵の電子機器を一時的に無力化するなど、サポートに特化した職業だ。
ふよふよと、安全な位置からドローンを飛ばして敵の位置を知らせたり、ドローンからチクチク、銃弾を撃ったりしている。
「辺りに敵はいないよ」
「りょ。やっと落ち着いた」
ここは始まりの街の次の街『アトレシア』
最初の街で、クエストをこなしてボスモンスターである巨大なスライムを倒すことによって、次の街が開放された。
だが次の街になってから、一気に難易度が上がり、敵一体一体の強さはそこまでじゃないものの数が多くなってきている。
「どうする?私はもうちょっと戦闘していくけど」
「私はちょっと生産したいかも」
「おっけー。じゃあ一回分かれよ」
寧々の提案に、頷く。
パーティーの解散を押すと、バッと数人の人間が突然現れるのに少し驚いてしまう。
このゲームはフレンドとパーティーを組むことでフレンドと自分だけの世界を構成することができる。
こういったオープンワールドのゲームでありがちな、PKといったプレイスタイルとの対決や、野良との共闘などのときめきフレンド申請不可避イベントは発生せず、フレンドたちと自由気ままにこの広大な世界を旅することができる。
もちろん、設定で変更は可能だけど、私たちはその設定でプレイしていた。
だから突然、人が現れてびっくりしてしまったわけだ。
なんか人がいると落ち着かない……、下手くそなプレイは見せたくないし魔物が寄ってこないうちに街に戻らないと。
生産活動を行えるのは、各街にある生産ギルドの一角。
職業ごとに分かれていて、完全個室なそこで生産を行うことができるらしい。
戦闘職と生産職は分かれていて、戦闘職一つ、生産職一つと各種選ぶことができる設定だから、どっちかを選ぶ必要はない。それはちょっぴり……ちょびっとだけ戦闘にも興味があった私には嬉しい情報だった。
私の選んだ生産職は『薬師』
麻痺毒や回復薬といったものを作成できる職業らしいけど、実際それらがどれほどの効力を発揮してくれるのかはいまいちわかってはいない。
寧々は確か『ガンスミス』という武器を作ったり、改造したりできる職業だったはずだ。
「にしても、自由度が売りなだけあってやりたいことはなんでもできるって感じがするね」
「うん。何でもできる、が不自由に縛られた自由なゲームは何個も見てきたけどこれは本当にプレイヤーに一任してる感じがする。それでメインになるストーリーもちゃんと存在してるのがすごい」
公式ページに載っていた情報だけでも、戦闘、生産、釣りやまたカジノといったものまで何でも取り揃えている。
メインストーリー進行での、ありがちなお使い任務は少なく、冒険者となったプレイヤーが思うがままに行動していく。
いつか創作の中で見た作品のようだと思った。
さてと、生産ギルドはっと。
街へマップからワープ機能で戻り、ミニマップのマークを頼りに生産ギルドへ向かっていると、ふと見覚えのある名前が見える。
『atNekogami』
寧々と同じく猫耳を生やした愛らしい少女は、背中にスコープのついた大きな銃を背負って大勢の人に囲まれていた。
「あっ」
たぶん、おそらく、メイビー、本物だろう。
一応、配信を確認してみるも猫神様は配信はしていない。
ツイートンを見るとアビスコール公式のカウントダウンツイートをRTして、数分後に『乗り込むにゃ~!』とだけ呟いている。
『atNekogami』は、猫神様がよく使うIDだ。
他のゲームでもこのIDでやっているのをよく見かける。
その名前が、取られてなかったら確実に猫神様だろう。
有名勢の有名税っていうやつだろうか。
正直、ちょっぴり私も加わって、猫神様ファンサしてうちわを両手に装備したい欲はある。
「どうしたの?」
思わずもらした驚きの声に、寧々が反応する。
「なんというか、猫神様らしき人が多数の
「ああ~、なるほど。ちょっと待ってね」
カタカタカタと控えめなタイピング音が鳴る。
さらに少しして、さらにタイピング音が鳴る。
「どうしたの?」
「や。猫神様に本人かどうか聞いて、そうだったからパーティーに誘おうか?って聞いた」
「なるほど」
パーティーに誘えば、設定でパーティーメンバーのみにしている寧々だと他のプレイヤーは排除される。
今の状況を迷惑だとは思ってはいないだろうけど、あの状況じゃ動くに動けないから一応聞くぐらいはしたほうがいいのかもしれない。
「あ、パーティー組むって」
画面を見ていると、猫神様が消える。
パーティーが無事組めたのだろう。
良き良き、じゃあ私は生産ギルドに……
「ディスコしたいって言ってるけど」
「ぴぇっ!?」
「なにその声。彼方が嫌なら断るけどどう?」
「いや、あの、私じゃなくて猫神様を優先してもろて」
「猫神様も飼い主さんと話してみたいって言ってる」
「……?」
えっ?えっ!?
……え?
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※
猫神様のリスナーの通称。『猫を信じるものは救われる』が教義。
ねこはいます。
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