第4話 アビスコールを遊びつくせ(前編)
「来てくれてありがとうチュン〜!」
ここ二日ほど、寧々は収益化や凸の件もあってか、結構、長時間配信を行なっている。
ゲーム配信がメインで、今やっているのはTPSゲーム。
寧々曰く、『アビスコール』の練習らしい。
三人称視点でのエイムは苦手だからと言っていたけど、すぐに慣れてしまい、今日もその腕前で人々を驚かせている。
リビングでノートPCを開いて編集をしながら、寧々の放送を流していたが、作業をしているとやっぱり時の流れが早い。
放送の終わりとともに、寧々が部屋から出てくる。
「おつかれ」
「んー。あ、今何時?」
「えとね、23時半」
「おっけー、じゃあそろそろだね」
アビスコールがサービスを開始するまで、あと30分、0時ぴったりに始まる。
明日の夜に猫神様とコラボをする予定だから、それまである程度、慣れておきたい、というのは建前で寧々と新作ゲームを一緒に遊ぼうということになった。
「情報見てたけど、釣りとか農業とか、戦闘だけじゃないから彼方も気にいると思う」
「うん、生産系の職業もいっぱいあるし楽しみ」
「種族とかはどうするの?」
「種族かぁ」
アビスコールには、大まかにわけて四つの種族がいるらしい。
獣人族の
「んー、個人的にはフェアリーかビーストかな」
「その心は?」
「ケモノが好きなのと、PVに出てた妖精族のもふもふしたのが可愛かったから」
PVで花の冠を作っていた狸とリスが混ざったような愛らしい犬科の顔と二足歩行でリスのような大きな尻尾をした80cmぐらいの謎の生物。
どうやら妖精族のポックルと呼ばれる種族らしい。
「あー、もふもふ好きだしね」
「寧々は?」
「ビーストの猫」
「あー、っぽいぽい」
獣度は変えられるらしいが、PVでは猫耳を生やした愛らしい少女だった。
猫好きだし、確かに選びそうだ。
_____なんて談笑をしているといつの間にか0時が迫っていた。
「じゃあ、部屋に戻って通話掛けるね」
「ん」
部屋に戻ると、スタンバイモードを示す青い点滅がデスクトップPCから放たれている。
PCを起動すると、既にインストール済みのアビスコールのロゴが表示されていた。
ディスコを開いて、数人しかいない友人の中から雀名義のディスコに通話をかける。
寧々はワンコールで出てくれた。
「よす」
「寧々はインストールできてた?」
「もち。あ、始まるよ」
「ほんとだ」
23:59分を差す時計の秒針が0時に近づいていく。
それと同時ぐらいにアビスコールを起動した。
------接続中-------
アカウント情報を確認。
___確認できました。
『ようこそ。アスタ様』
アスタとは私がよく使うハンネだ。
明日をアスと読んで、かなたのタを組み合わせてアスタ。
初めは適当につけた名前だが、昔からずっと使っているぐらいには気に入っている名前だ。
アビスコールへようこそ。
サーバーを選んでください。
「サーバーどこにする?」
「じゃあ最初から二番目のとこ」
「えと、エトルタでいい?」
「うん」
エトルタに入る。
初日だし混雑とは書いていたが、すんなりと入ることができた。
『現在キャラクターがいません。キャラクタークリエイトを行いますか?』
はい、を選択する。
待ちに待ったキャラクリの時間だ。
寧々は獣人族にするらしいし、私は妖精族を選ぼうかな。
四種類の種族が表示されて、右下にある妖精族を選ぶとずらーっと目次が表示される。
妖精族猫妖科猫妖目ケット・シーなどと随分細かい分け方をされているようだ。
「なんかいっぱいあるね〜」
「めんどくさい」
「種族の特性とか説明載ってるし全部読みたい派だけどこの量はちょっとしんどいかも」
「猫獣人の獣度、最低にしたら猫耳になった」
「獣度なんてあるんだ……ねぇ、マックスにしてくれない?モフモフにしてほしい」
「やだ」
断られちゃった。
私はどうしようかな。
やっぱポックルにするか、可愛かったし。
ポックルを選び、キャラメイクを始める。
デフォルトはPVの姿だが、いくつか種類があるらしい。
んー、どうしよっか。
全部を軽く眺めて、三番か六番のポックルで悩む。
三番は、デフォルメされた二足歩行の兎だ。
皮で出来ている服を着ていて、兎の足の形に合わせたブーツがなんとも可愛らしい。
六番は、小生意気な狐だ。こちらもデフォルメされていて、とても愛らしい。
共通しているのはその大きな尻尾で、兎の尻尾がふわふわした丸いポンポン、狐の方はもふもふした大きな尻尾をピンとたたせている。
んー、三番にしようかな。
悩んだが、三番に決定して軽く体毛の色などを変えていく。
結局出来上がったのは、メープル色の体毛をした琥珀色の目のウサギ。
ちょっぴりドヤ顔をしているのが憎らしい。
名前は、そのまま『アスタ』と入力した。
「キャラクリできたよ」
「こっちも」
「じゃ、いこっか」
決定ボタンを押す。
たぶん、寧々も同じタイミングで押したのだろう。
「おぉ~」と二人同時に漏れた声がそれを教えてくれている。
____百年前、世界にアビスの渦が開き、アビスから異形の怪物があふれ出た。
かつて争いを繰り返していた森林族、獣人族、魔人族、妖精族は互いに手を取り合い、一致団結して異形の怪物と戦い、アビスの渦を塞ぐことに成功した。
だが完全に塞ぐことはできず、今もなおアビスからは少しずつ怪物が現れる。
年月が経ち、ある日、一人の学者がその怪物の角で薬を作った。
すると不治の病が治ったという。
それからアビスの怪物は、人々の脅威であると共に、人々の希望となる。
危険極まりないアビスの怪物に挑む者たちを誰かが呼んだ。
アビスの怪物という宝物を求める『冒険者』と。
_____おとぎ話のような絵で紙芝居のような形で物語が進む。
やがて暗転して、ロード画面に入った。
「わくわくするね」
「うん。絵が綺麗」
画面が黒から白に、眩しい太陽の光と共に誰かがこちらをのぞき込んでいる。
『およよ?こんなところで何をしているんだい?』
こちらを覗き込んでいたのは、活発そうな少女。金髪碧眼で八重歯が素敵な女の子だ。ぴょんと跳ねた長い耳を見るにエルフだろう。
名前は『???』と表示されている。
どうやら私の分身は、街の直ぐ傍の草むらで寝ていたらしい。
選択肢が表示される。
・夜に着いたが、街に入れなくて寝ていた。
どうやらこれしか選択肢はないようだ。
『あ~、なるほどね。外の人か。この街は夜になると分かりにくいけど門に近づいたら見張りの人が出てくるからそこで身分証提示したら入れてくれるんだよ』
『そうなのか』
『うん。私はメアリー、冒険者をしているんだ。君は?おっちょこちょいな旅人さん……ふむ、アスタか。良い名前だね!』
……かわいい!
間違いない、おそらく彼女は様々なプレイヤーを一目惚れさせることになるだろう。
「このメアリーって子、絶対彼方の好み」
「うん、すごい好き」
「やっぱり。八重歯の元気っ子好きだよね」
「めっちゃすき」
そんな話をしていると、巨大なゼリー状の生物がぴょんぴょんと跳ねながらたくさん集まってくる。10匹ぐらいだろうか?
『あっ、スライムだよ!たくさん出て人を困らせる厄介者!下がってて旅人さん、私が倒すから!』
・手伝う。
・手伝わない。
こんなもの一択しかないでしょ。
手伝うを選択する。
『えっ、旅人さんも戦う?でも……』
・冒険者免許の提示を行う。
『冒険者!?旅人さんも冒険者だったんだ……分かった!私が半分やるからもう半分をお願い!』
・Cキーでインベントリを開き、武器を装備する。
いわれた通りにCを押すと、キャラクターとして作った『アスタ』の全身が表示される。
・武器をドラッグして装備。
武器はいくつかの種類に分かれているようだ。
魔導拳銃、魔導散弾銃、魔導……etc
よくわからないけど銃の種類がたくさんあるらしい。
どれが使いやすいとか、威力が高いとか、よく分からないから一番使いやすそうな拳銃を選ぶ。
・右クリックで照準を合わせる。
・左クリックで撃つ。
これはepexと同じだ。
照準を合わせて、スライムに撃ち込む。
スライムの動きは鈍く、簡単な的当てみたいなものだ。
一撃で三割近く削れるスライムを五匹倒すと、映像がムービーに切り替わる。
ムービーは、短剣と同じように拳銃を構えたメアリーが、俊敏かつ的確な動きで敵を倒していくものだ。
アニメーションの躍動感が、彼女の魅力をさらに引き出してくれる。
やがてスライムが倒され、『ふぅ』と息をついた彼女はこちらへ向き直った。
『やるね~!ぜひ私と手合わせしてほしいところだけど依頼があるから私は行くね。手伝ってくれてありがとう!これ紹介状!この街が初めてなら冒険者ギルドでこれを見せれば、この街で冒険者として依頼を受けるための手続きが早く進むと思うよ。じゃあね!』
そのまま、メアリーがどこかへ走っていく。
嵐のような元気っ子だった。
『チュートリアル:戦闘が終了。報酬を受け取ることができます』
『マルチプレイが開放されました』
「マルチプレイ解放されたって」
「うん。今、調べてたけどこれストーリーも一緒に進められるらしい」
「えっ、そうなの!?」
「一緒にやろ」
こういうことをオンラインゲームで言うと寄生?みたいかもしれないけど、寧々がいるとゲームが下手な私からしたら心強い。
「街の入り口のところにいるからきて」
「わかった!」
街へ入る。その際に身分証の提示を求められたが、冒険者免許を見せるとすんなり通してくれた。
そして直ぐに見えるのは、猫耳をはやした小柄な少女。
頭の上に表示されているのは『下切 雀』の名前だ。
直ぐにタップして、フレンド申請とパーティー申請を送る。
「送ったよ」
「おっけ~」
ぴこん、とアイコンが表示されて雀と合流したことが知らされる。
まだ時間がかかると思ってたから、意外と早い合流だ。
大きい銃を背負ってる寧々が手を振るエモートをする。
「じゃあやっていこか」
「うん!」
寧々とゲームの趣味が合うことがあんまりない。それは二人ともわかっているし、押し付けるつもりもない。
でも偶にこういったゲームを一緒にするのはやっぱり楽しい。
気心の知れた友人と、二人とも楽しめる内容のゲームをやるなんて最高の贅沢じゃないだろうか?
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