一年目 冬~夏
第1話
______ゴクリ、生唾を飲み込む。
「お願い」
小さな両手を合わせて、呟くのは
身長152cm、私よりも20cmぐらい小さな私の幼馴染だ。
約一ヶ月前、寧々と私、
Virtual Metuber
Metubeという超大型動画サイトで、VRアバターを用いて動画投稿や生放送などを行う人々の名称である。
世間ではVtuberと略されることが多い。
寧々がその特技と魅力でvtuberの世界を自由に飛び回り、私はそれを裏方としてサポートする。
そうして生まれたのがVtuber『下切 雀』
登録者数3万人。FPS動画を中心に活動している、人気急上昇中のVtuberである。
そして生まれて1ヶ月という月日が近づいてきた日に下切 雀宛に届いた一通のメール。
差出人はMetubeだった。
__三日前、下切 雀チャンネルは収益化の条件を達成した。
投稿した動画の再生時間と登録者数。
登録者数は余裕で超えていたが、再生時間に少々手間取り、ついに超えたのが三日前。
その日のうちに収益化の申請を行い、そして今、Metubeからの返答がやってきたのだ。
「お願い」
寧々が祈り、私は深呼吸をする。
マウスに二人で手を重ね合わせて、メールを開封した。
『お客様のMetubeチャンネル(下切 雀チャンネル)のMetubeパートナー・プログラムへの参加が承認され、収益化ができるようになりました』
「やっ」
「やった……!」
口から跳びだしてきた声を、寧々がそれ以上の喜びでかき消してしまう。
隣を見ると、満面の笑みを浮かべた寧々が目尻に涙を浮かべつつ、こちらに両手を向けていた。
「ふふっ、やったね」
寧々の小さな手に私の手を重ね合わせる。
世間一般ではハイタッチと呼ばれるその行為も、今の私と寧々では手遊び歌のようにしかならなかった。
気力の失われた両手を繋ぐだけの行為で、ゆっくりとその事実をかみしめる。
_____収益化か。
「おめでとう。寧々」
「こっちのセリフでもある。おめでとう。彼方」
「そう?」
「そうだよ。二人で頑張った結果だもん」
「うん……そうだね」
未だに実感がわかない。
とりあえず、ツイートンで報告しようと文章を打ち始める。
『収益化通ったチュン!これもみんなの応援のおかげチュン!!!!ありがとう!!!!!』
『おめでとうございます!』
『おめでとうにゃ~!』
直ぐにリプライがきた。
送り主は、雀と懇意にしてくれている二人のVtuber
猫神様こと
「寧々、猫神様とまほろちゃんがリプライしてくれてるよ」
「うん。返信するね」
感極まった様子で、呆けていた寧々に携帯を渡して、まだPC画面に映っているMetubeからのメールを見る。
思えば一か月前。
何もなかった日常に、寧々が彩りを与えてくれた。
裏方として、寧々を支えようと動画編集をしていて、それが日常になり、配信までしてしまって、たくさんの人に認められて……そして、今。
頑張りが報われたかのように、収益化が行えるようになった。
これからも頑張らなければならない。
そんなことは当たり前で、だけど今、確かに一つの区切りとしてこの瞬間が存在している。
私たちはVtuberとして世界に認められたんだと実感する。
自然と、目頭が熱くなった。
「返信したよ~って、彼方どうしたの?」
「いや、いやさぁ嬉しいなって」
「うん。そうだね。だけど、きっとこれからもっと嬉しいことがあるよ。だからこれからも……これからも一緒に歩んでいこ?」
人差し指で涙をぬぐう。
そして心の底から笑みを浮かべた。
「うん。きっと、私たちなら無敵だ。これからも一緒に楽しんでいこう!」
____これはとあるVtuberのお話。
今は小さな芽だが、いずれは大輪の花を咲かせるそんな二人の話である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます