第11話

「僕の放送が始まる!」

いつも通り、元気の良い声で始まる放送には、既にたくさんの人がきている。


「今日はゲストのつよつよ雀ちゃんこと、下切 雀ちゃんがきてくれているよ!」

まほリスの皆さま、こんばんはチュン」


『こんまほ~』

『雀ちゃんだ~!』

『誰?』


「雀ちゃんのチャンネルは概要欄に貼ってるからぜひ登録してね~!じゃ、雀ちゃん軽く自己紹介お願いできる?」

「任せろチュン。チュンは下切 雀。少し前にデビューしたばかりの新人で、FPSゲームをメインに活動しているチュン。動画も投稿してるからぜひ観てほしいチュン」

「今日は雀ちゃんと一緒に、epexしていくよ~!」


『pexの時間だー!』

『まほろちゃんのえぺ好き』


始まって五分足らずで、既に2000人を超える人が放送に来ている……すごい、これが大手か。


今日は、まほろちゃんと雀のコラボ放送の日。

雀にとっては初のコラボ配信だ。


寧々からは一人のときと違って、見られるのはちょっと恥ずかしいとの言葉を受けたが、残念ながら見ないという選択肢はない。

単純に、コラボだからとかじゃなくて、私がいないときの寧々が他者とどういう風な会話をしているのか気になっていた。


だって、小学校も中学も高校も、寧々は私と一緒に基本的に同じグループにいたし、謎の力が働いたのか知らないけど一度も別のクラスになったことがない。

おそらく話しているとは思うけど、私は寧々が他の人と一対一で話している姿を見たことがない。


だから単純に気になっていた。

寧々がどんな話をしているのか。


今日の編集はおやすみだ。

金曜日だから、明日は休みだし、私は最近流行りのオープンワールドのRPGゲームを開く。


ストーリーは進めず、ただひたすらに作業するだけだから、デスクの上にタブレットを置いて放送を見ながらでもできるのが良い。

見るのは雀の視点。まほろちゃんももちろん上手いけど雀のプレイ動画ばかりみている私はこっちに慣れきってしまった。


「雀ちゃんとならランクマッチもぜんぜんまわしていけると思うけど、今日はカジュアルをのんびりとやっていくよー!」


まほろちゃんの言葉と同時に、マッチが始まった。

このゲームは特別なモードじゃない限り、3人1組で戦闘を行う。雀たちは二人でパーティーを組んでるから必然的に野良を一人入れることになる。

だが今回はなぜか一人いない状態で始まろうとしている。


「あ、時々あるバグチュンね」

「おー!じゃあ今回は僕と二人きりのデートだね」

「こんな殺伐としたデートは嫌チュンねぇ」

「まぁ僕らなら余裕さ!」

「カジュアルだから失うものは何もないチュンからね」


敵が次々とプレイヤー全員を乗せた飛行機から降下していく。

二人も続いて降下して、向かったのは大きな街だった。


「じゃあチュンはこっちに降りるチュン」

「おっけー、じゃあ僕こっち行くね」


二人が別れて着地する。

基本的に降りたときは、アイテムを漁るために別々のエリアを漁るほうが望ましいとされているらしい、これは前に雀に教えてもらったことだ。

同じ場所を漁るとどうしても一人当たりのアイテムが減るからだと説明されて確かにそうだと納得した覚えがある。


「敵も近くに降りてたから注意チュン」

「まじで!?全然見てなかった!まぁ、僕は最強だから負けないけどね」


『それでやられるまでがテンプレ』


「じゃあ敵は任せるチュン 漁ってるから倒したら言ってチュンね」

「ごめんなさい。一緒に戦ってほしいです」

「ふふっ、了解チュン」


『まほろんの扱い心得てんなw』

『笑い方かわいい』


相変わらず大雑把な漁りで、物資をとっていく。


「ぎゃー!敵いたー!武器ない!」

まほろちゃんのどこから出してるのかわからない絶叫が聞こえてくる。

雀は直ぐにまほろちゃんのもとへ向かった。


「任せろチュン」

逃げるまほろちゃんと入れ替わるようにして、アサルトライフルに分類される武器を構えた雀は追ってくる敵に射撃する。


胴から頭を中心にとんでいった銃弾は、初動でアーマーの弱い敵を倒すには十分だった。


1ワンやったチュン」

「ないすー!!!!強い!」

「当たり前チュン。まほろもさっさと武器見つけるチュンよ」

「わかったよー」


雀にやられてダウンした敵の仲間が、味方のカバーをするためにやってくる。

一人を倒したから、残り二人だ。

真っ直ぐ銃を撃ちながらやってくる二人の敵から逃れるように、家に入る。


このゲームにはドアロックというものが存在する。

ドアの前に人やものがあると外からはドアを開けられない。

開ける手段は、蹴りを二回入れて扉を壊すかグレネードなどの投擲物で壊すしかない。


少しの時間を稼ぎ、仲間の到着を待ったり、さまざまな選択肢に繋がる行動だ。


「武器取ったから今向かってる!」

「ロックしてるから横からさしてほしいチュン」

「おっけー!おらー!死ねえええ!」

「迫真すぎて草チュン」

「一匹やったよー!」

「ないすー」


報告と同時に家から飛び出し、まほろちゃんにヘイトが向いている残りの一人を倒す。

これで1部隊が全滅となった。


つえぇ~

初心者からするとこうして俯瞰的に状況を見れているからあれこれ考えることができるけど、戦っている状態だったらそこまで思考がまわらない。

コメント欄もだいたい私と同じ気持ちなようで、称賛コメントで溢れている。


『いや、つんよ』

『連携うまうまー』

『カバー完璧か〜?』


____そこからはまさに圧巻の一言だった。

物資が整った二人は、まるで戦車のように目についた敵をなぎ倒していく。

敵が戦っていたら、突っ込み、敵が撃ってきたら突っ込み……やがてチャンピオンの文字を大々的に表示させるまでに時間は掛からなかった。


「初戦はこんなもんチュンね」

「いや、まじで、雀先輩ぱないっす……ここまで安心感のあるの久々かも……だいたいソロだし……」

「ぼっちチュンか」

「本当のことでも言っちゃダメなやつ!」


『やばすぎ……』

『化け物コンビきたなこれ』

『コンビ名とか決めないの?』


「あっ、なんかコンビ名決めないのって言われてるチュンよ」

「んー、コンビ名かー」


『単純にまほすずとか?あっ、でも被ってるなこれ』


三石まほろちゃんと下切雀だから……うーん、これなんかどうだろうか?

普段はロム専だけど、久々にコメントを打つ。


『まほろチュンとかどうですか?』


「お!まほろチュンだって!可愛くていいんじゃない?」

「いいチュンね!名前考えた人には金一封差し上げるチュン。まほろのポケットマネーから」

「今月厳しいから百円でいい?」


『草。でもいいなまほろチュン』

『まほろチュン推します』


「おっけー!じゃあ次のマッチ行くぞー!」


______________________________________


「おつかれ~!今日はいっぱい優勝できて気持ちよかった!またまほろチュンでコラボすると思うからよろしくね!雀ちゃんは何か告知ある?」

「冒頭で言ったけど、動画投稿してるからぜひ見てほしいぐらいチュンね」

「おっけ~!じゃあいつものを、今日は雀ちゃんと一緒にいくよー!放送の締めは~???」


『おつまほ~』

『おつまほ~』

『雀ちゃん可愛くてチャンネル登録しました!』


____約二時間半ほどの長めの配信。

好きなゲームだったことや、友だちとやれていたからか、雀も比較的疲れが少なく放送できていたように感じる。


んー、やっぱゲーム配信だと誰かと一緒にやれたほうが楽しいよね~


コンコン。部屋がノックされる。


「開いてるよ~」

放送を閉じて、ツイッターを開いた状態で寧々を迎える。

やがて入ってきたのは、ジトっとした目をした寧々だった。


「放送みてたでしょ?」

「どうして?」

「……まほろチュンってコメントした人、あれが彼方のアカウントってこと知ってるからね」


……そういえば特に隠すこともないしアカウントはそのままで一緒に動画見たりしてるし、知っていても当然か。


「や、でもほら?やっぱ裏方としてコラボは何か起きたときのために見ておきたいし、ね?」

「恥ずかしいって言ったのに」

「いや、でも面白かったよ!上手かったし」


これ、あれだ。参観日のときにお母さんがきて友だちと仲良くしてるところとかみられるのがちょっぴり恥ずかしいやつだ。


「で、でも寧々、結構長時間やってたけど疲れとかない?」

慌てて話題を逸らす。

「……人とゲームするの楽しかったからそんなに」

「そっか。良かったね」

「でも、い、一番仲良い彼方とも一緒にゲームがしたいから」


寧々が近づいて、マウスを操作すると一応はインストールしているepexを開く。


「これから一緒にしない?」

「……でも、まほろちゃんみたいに上手くないし」

「うん」

「ほら、やっぱ下手な人とやるとイライラするっていうし」

「それは友だちには適応されないから」


有無も言わせない瞳で「ね?」と笑う寧々に私は力なく頷いた。


……ちなみにこの後、寧々がぎりぎりまで敵にダメージ与えてくれて、なんとか敵を倒すといった介護プレイが多発しました……



______________________________________


※まほリス。

まほろリスナーの総称。

ノリがいいことで知られる。


彼方のepexの腕前。

ほとんどFPSゲームを触ったことないのでへたっぴ。

寧々曰く、将来性は感じるとのこと。


FPSゲームをしている放送を文字に起こすのって難しい。

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