第9話
『22キル4300ダメージ!?新人Vtuberが無双してみた!』
ぐんぐん、と再生数の伸びていく動画。
今日のお昼に上げたばかりの動画はたった一時間で一万再生されている。
Epex Legendsというゲームがある。
突如現れたこのバトロワゲームは、世界に爆発的な人気を巻き起こし、今やFPSゲーマーのなかでは知らぬものがいないビッグタイトルとなっていた。
Metubeではどの時間帯でもVTuberの誰かはこのゲームの配信を行っていたりするほどの作品で、私も影響されてプレイしている作品だ。
そんなepexでは、バッジというものが存在している。
これは試合中に何らかの目標を達成すると得られるものだ。
試合では味方のつけているバッジを見ることができるし前回優勝し『チャンピオン』の称号を得たものは、前回のチャンピオンとしてバッジや名前が全プレイヤーに表示される。
つまり、バッジとは所謂ステータスのようなものだ。
そんな中で、難関と呼ばれているバッジがある。
『傷跡』と『ダブルソード』、『傷跡』は『一人で、1マッチで20キル』、『ダブルソード』は『4000ダメージを与える』ことが条件である。
1マッチ60人、1スクワッドが三人なので敵は57人、そもそも20人と接敵することが難しいなかでこのバッジを取ることは非常に難しい。
ダブルソードも同じで、敵は最高レベルのシールドで100、素のHPが100。
このゲームではダウン状態というものがあり、ダウンした時に味方が生きていれば味方に起こしてもらうことができる。
そんなダウン状態のHP100を足したとしても300。
毎回一人にこれだけダメージを出せたらいいが、それはほぼないと言ってもいい。
このゲームは3on3が基本なのだ、自分ひとりだけで全員に勝てるほど甘くはない。
今日上げた動画のタイトルは『22キル4300ダメージ!?新人Vtuberが無双してみた!』
そんな難関バッジを寧々はいともたやすく取ってしまったのだ。
間近で見ていた私は感動して、直ぐに動画を作り始め、一日で動画を完成させることができた。
タイトルのインパクトと、相変わらずの猫神様や他のVtuberさんなど、やはり大人気ゲームの動画はみんなが注目しているようで動画投稿を知らせるツイートにはみんなが反応してくれている。
むふふ。なかなかに高い完成度の動画の出来に満足しつつ、みんなの反応を見て、自分のことのように嬉しくなる。
動画のコメント欄は『6:30 ここやばすぎ』『化け物で草』『エイムがエグすぎんだよなぁ』などと賑わっている。
気持ち悪い笑みを浮かべながら感想を見ていると、ふと、ツイートンの
『初めまして!
ピッ!?ま、まほろちゃん!?
八重歯が特徴的なアイコン、おそるおそるアイコンをタップしてツイートンのホームにとべば、そのフォロワー数で本物であることが理解できた。
三石 まほろは、比較的最近デビューした企業Vだ。
大人気企業5464所属のVでデビューは、約二ヶ月ほど前だと記憶している。
三石 まほろと言えば、まずはそのキャラ設定だろう。
ボクっ娘の自信家で「僕は失敗なんてしませんよ!」が口癖だが、そのポンコツぶりでリスナーからいじられている。
またFPSの腕前は確かなもので、ソロでEpexのランクをダイヤまで上げた実績を持っている。
確かepexのランクは低い方から、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、ダイヤ、レジェンドの順だったはずだからランク帯だと二番目に強いところの人になる。
どうやら投稿した動画がまほろちゃんの目に止まったようだ。
さて、どうしようか?
寧々に伝えて返信をしてもらうか、ここで私が返信するか。
迷っていると、ぴこんとメッセージが更新された。
『初めましてチュン 動画みてくれてありがとうチュン!』
ね、寧々!
最近はすっかりSNSの操作にも慣れた寧々が先に返信をしてくれる。
猫神様の時もそうだったが、大手は怖いからこういう時に寧々のあんまり物怖じしない性格は助かる。
『突然で申し訳ないのですが、動画を見てお友達になりたいなと思い、連絡をさせれいただきました。もしよろしければ
『良いチュンよ!IDを送るチュン!』
ふふっ。二人の文章の差異に思わず笑みを浮かべてしまう。
ガチガチな文章のまほろちゃんに寧々はいつも通りだ。
にしてもdisscoか。
ディスコは、音声通話やビデオ通話などができるソフトウェアだ。
画面共有など他にもさまざまなことを行えるため便利で、大体の連絡手段は、今はこのディスコに置き換わっていたりする。
もうちょっとこの二人の愉快な会話を眺めていたいけど、流石にディスコの個別チャットまで覗くことはできないし覗く気もない。
寧々、上手くやってたらいいなぁ。
のほほんとそんなことを考えていると、突然バンッと扉が開いた。
慌てて振り抜くと、寧々が肩で息をしながら携帯の画面をこちらに向けている。
「わっ!?どうしたの!?」
「ど、どうしよう!」
ずいっ、と押しつけられるように出された携帯を覗き込むと、そこには一言。
『もしよろしければepexのコラボ配信しませんか?』
コラボか……
DMが来たときからなんとなくそんな気がしてた。
こう言っちゃなんだが、寧々は人見知りが激しい。
私とゲームするとき以外は基本ソロでしている理由の一つでもある。
おそらく猫神様ぐらい気軽に絡んだりできる仲だと多少は軽減されるだろうけど、それが今日初対面の相手だと完全にノーガード状態。
一撃必殺が当たり放題、当て放題である。
「寧々はどうしたいの?」
「コラボはしたいけど初対面で話すのが苦手すぎて無限に迷ってる」
「んー、とりあえずゲームしてみたら?」
「ゲーム?」
「うん、偏見だけどゲーマーってゲームやってたら仲良くなりそうじゃない?」
「そうかな?」
「知らんけど」
「わかった。じゃあとりあえずゲームしようって送ってみる。コラボすることになって日程が決まったら連絡する」
「ん。お願い」
とててて、と早足で部屋に戻っていく寧々。
この活動を通して寧々にも友だちが増えていけばいいなぁ、なんて親みたいなことを考えながら小さく笑みを浮かべる。
さてと。
今日は動画編集も頑張ったし、動画も伸びたから自分にご褒美あげないと。
冷蔵庫にあるビールとパックに入った、たこわさを取ってリビングのソファに腰かける。
テレビで流すのは当たり前のように、VTuberの生放送。
時刻は午後14時。休日だからといってこの時間帯の放送は少ないがやっているVは少なからずいる。
知っているVの配信を流しながら、携帯でソシャゲガチャの闇に呑まれていると、直ぐに時間は経つもので、1時間ぐらいはスキップチケットを使われるぐらい早く経過してしまう。
小腹空いたな……
ホットケーキの粉あったしホットケーキでも作るか。
寧々にもいるかどうか聞こうと部屋へ向かう。
ドアノブに手を掛けようとしたところで、中から聞こえてくる楽しそうな声に手が止まった。
良かったね、なんてこれじゃ本当にお母さんだ。
少しばかりの寂しさを抱きつつも、自然と口角が上がる。
寧々が部屋から出てきたらきっとお腹を空かせているはずだ。
私はそのために2人前分のホットケーキを焼いて、ちゃんと準備しておこう。
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『5464』『epex』『disscode』
この辺りの名称は怒られたら変えます。
epexの元ネタでは、最大レベルのシールドだと125の耐久がありますが、分かりやすく100にしました。
また、登場するVtuberの名前は完全に架空のものになっています。
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