第8話
「聞こえてるチュンか?」
『聞こえてるよー』
『大丈夫です!』
緩やかだがコメントが流れていく。
まぁ、やっぱりというか当たり前だが初配信よりはきている人数は少ない。
でも始まったばかりで400人の視聴は新人としては十分だと思う。
今日は『くえすちょんを読む枠』だ。
私と寧々でいくつか質問を選んで、それを画面に表示させて答えていくという配信内容は、Vとリスナーの距離を縮めるのに最適である。
あと寧々のお願いで、こういう雑談や質問がメインの配信は怖いから隣にいてほしいとのことだ。
だから今日はリビングのソファでノートパソコンを膝に乗せて編集している。
「じゃあ、まず一個めチュン!」
『アップされた動画見ました!ソロで四人スクワッドを倒したところで思わず声が出ちゃいました!質問なんですが、1対複数の戦い方を教えてほしいです!』
「動画見てくれてありがとうチュン!見てない人はぜひ見てほしいチュン!」
今日の朝、はじめての動画投稿をしてみた。朝投稿して放送が始まる前の20時に確認したところ既に三万再生、コメント欄には猫神様が当たり前のようにいて笑ってしまった。
おかげで登録者数もぐんぐん増えている。
今の登録者数は2.87万人。
これが2回目の配信であることも踏まえて、今個人勢でもっとも伸びているVといっても過言じゃない……と思う。
「1on4とか1on3の戦い方は、難しいチュンね……でもあらかじめ頭に入れていてほしいのはまず勝てないってことチュン。バカ正直に正面で撃ち合いしても勝てないから裏どりや回復、投擲物みたいに、色々な要素のかみ合いが必要になるチュン
だから一概にこうしろとは言えないチュンけど、今日動画をあげた
さ、参考にならねぇ……
『草』
『これぞバーサーカー雀』
『確かに結局はエイムだけどw』
『まぁまず勝てない勝負って意識は大切よね……それを勝っちゃうのが雀ちゃんみたいな化け物なわけだけど』
「最近人気のepexだったりだと複数相手にする時は遮蔽やキャラクター性能、立ち回りに、ドアロックとかPBGよりも格段に考えることが多いから流石にさっき言った方法は難しいチュンけどね。じゃ次の質問にいくチュン」
『猫派ですか?犬派ですか?』
「ナマケモノチュン」
『草』
『まさかのナマケモノは草』
『犬と猫……どこいった……?』
「肉食動物はチュンの敵チュン!チュンはナマケモノの方が好きチュン!」
雀の答えに思わず吹き出しそうになるのを堪えて、パソコンに向かう。
流石に声が入ってしまうのはまずい。最悪親フラとかでごまかせるかもしれないけど……
『好きなvtuberさんはいますか?』
「この質問多かったチュン!好きな人はいっぱいいるチュンけど最近は猫神様の放送見返してたりするチュン。参考にさせてもらってるチュン」
『う、嬉しすぎるにゃ……』
『猫神様もよう見とる』
『今日はいないのかって思ってたけどやっぱりいて草』
「あっ、猫神様こんばんはチュン!
あとはそうチュンなぁ……名前を出してしまうのは少しだけ抵抗があるチュンけど某大手V企業5464の一期生と二期生の人たちは昔から追っているチュン」
『出たわね』
『ヤベー奴らの集まり』
『一期生とかからだと結構ガチ目のVオタなのかな?』
「友だちがVのことが好きで、それに影響受けた感じチュンね」
……無論、私のことだ。
最初に勧めたのは『お絵かきの山』という描かれた絵を当ててより多くのポイントを稼いだ方が勝ちというゲームのコラボ配信だった気がする。
「次いくチュン」
____ん?
横目で私を見る雀に首を傾げる。
『動画すごく見易かったです!編集もかっこよくて気づいたら見終わっていました!編集も雀さんがやられているんですか?』
____ピックアップした覚えのない質問。
きっと寧々が答えたかったから入れた質問だろう……けどそれは。
「違うチュン。動画編集はチュンの友だちがやってくれているチュン!幼馴染の女の子チュン!」
いや、まぁ寧々ならそう答えるよな……
『てぇてぇ……?』
『裏方みたいなことやってくれてるんだ?』
『てぇてぇの波動をかんじました』
悪戯っ子のように小さくウインクをする寧々。
いや、まぁ……別にいいけど最初に相談ぐらいはしてほしかった……心臓に悪い……
『幼馴染はどんな感じの子なの?鳥類?』
「えっと、そうチュンね……」
ちらり、と私を見る寧々。
「幼馴染はただの人間チュン。かっこいい女の子で男女共にモテてる気がするチュンね 料理も上手いチュン」
モ、モテ?
生涯で今までモテたことなんて記憶にないけど……
「あと鈍感チュン 今そこで首を傾げているチュンけど自分がモテてることすらたぶん認識してない顔チュンね あれは」
『てぇてぇ』
『一緒に暮らしてるの!?!?!?』
『てぇてぇ助かる ちょうど切らしてた』
「今はチュンが幼馴染の家に居候してるチュン」
『もうそれは実質飼い主では?』
「飼い主……それ良いチュンね。チュンもこれから飼い主さんって呼ぶチュン」
わ、私の知らぬ間に飼い主になってしまった……
『雀さん、飼い主さんを僕にください!』
「駄目チュン!私だけの飼い主チュンから!」
……聞いているところで、自分の話されるの照れるな。
自分の顔が赤くなっているのを感じる。
「あ、飼い主さんが照れてるチュンから次の質問にいくチュン」
______________________________________
「じゃ、みんなおやすみチュン」
『おつ~!』
『おつかれさまでした』
約一時間半に及んだ配信をきり、「ふぅ」と寧々が息を吐く。
そしてギギギと壊れた機械のような動作でこちらを振り返った。
「寧々」
「は、はい」
すぐさまに正座をする寧々に、思わず笑みがもれてしまう。
別に怒っているわけではない、ただ事前に相談してほしかっただけだ。
「えっと、まぁなんというか……これからはちゃんと相談してからやってくれたほうが嬉しいかも。私が見ているところではなおさら……」
「りょ、了解です」
「ところでなんで、あの質問を選んだの?」
寧々はバツの悪そうな顔で、視線を下に向ける。
両手を前で組んで、にぎにぎとさせながら小さく呟いた。
「えっと、雀は私と彼方がいてこその雀だと思うから、それをリスナーにも知ってほしかったというか……」
「嘘でしょ」
「えっ!?」
寧々は嘘をつくときに両手を組む癖がある。
そもそも嘘をつくことが少ない寧々だ、たぶん知っているのはこの世で私だけだと思う。
「ほんとは?」
「彼方を自慢したかった」
「自慢?」
「うん、彼方はすごい出来た人だし、彼方にこんなに良くしてもらえてるのは私だけだから……それをリスナーに自慢したかった。私の幼馴染はこんなにすごいんだって」
寧々が嘘をついていないことが分かったうえで顔が赤くなるのを感じていた。
「そ、そういうことだから!」
私以上に顔を真っ赤にして、部屋へ走っていく寧々を見ながら、私は小さく熱のこもった息を吐きだす。
「……私、ちょろいなぁ」
若干の恥ずかしさもあるが、それ以上に胸を支配した感情はまぎれもなく嬉しさで、寧々にそう思われていたことに心が跳ねる。
「あ~、明日どんな顔して話そう」
寧々も同じ思いかもしれない。
今までこんな理由で気まずくなったことはないから新鮮だ。
「ふふっ」
お互いにすべてを理解した気になっていても、互いの胸の内なんてわかりっこない。
だけど、また一つ、寧々のことを知れたような気がして小さく笑みがもれる。
私って、思っている以上に寧々のことが好きなのかも。
こんなに思ってくれる友人がいる私は幸せものだな。
「さ、続き頑張るか」
跳ねる心を抑えつけることもなく、私は鼻歌と共に動画編集へ向かった。
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