第5話

自己紹介動画をツイートンにアップした結果。


……またバズった。


動画投稿サイト登録者四十五万人、ツイートンフォロワー二十万人、大手VTuberである猫神様はどうやら随分と雀を気に入ってくれたようだ。


自己紹介動画についているコメントを見ていく。

『か、かわいいにゃ!』や『声が素敵です!フォローしました!チャンネルも登録しました!』など好意的なコメントに溢れている。


自己紹介動画は、実際は当たり障りのないものだったが先の動画と寧々の声、あと猫神様のおかけで順調な滑り出しとなっていた。


さて次のステップだが……

まずはFPSの腕前を生で見てもらう必要があると思う。

生放送で腕前を見せつければ一定数リスナーファンがついてくるはず……


正直自信はない。

私の方法はもしかしたら間違っているのかもしれない。

だけど、寧々が信じると言ってくれたのだから私が日和っている暇はないんだ。


「今度の土曜日、生放送やらない?」

「生放送……うん、いいよ」

「ファントム・マインドをやってもらおうかと思ったけど流石にコメントを拾いながらじゃ難しいと思うからバトロワをしてもらいたいんだけど……どう?」


バトルロワイヤル。

昨今よく見かけるようになったジャンルだ。寧々にはそんなバトルロワイヤルのブームを引き起こした金字塔であるゲームをやってもらうことにした。

選んだ理由としては、FPSをやっているvtuberの多くがこのゲームをやっているからと、単純に寧々が得意だからだ。


「もち。初手耐久企画とかでも良さそうだけどどう?」


バトロワといえば優勝つまりはトップを取るまで終われないという耐久配信もよく見かける。

それを最初の放送で……確かにいいかもしれないが……


「あり。すごくありなんだけどどうしよう」

FPS系の耐久企画、そもそも耐久というものがとても人を集めるのは分かるが……


「一発目で優勝とって企画倒れするのが怖い……」

「確かに……」


寧々はFPSが上手い。故に耐久配信が耐久じゃなくなることもある。

一試合約三十分ほどのゲーム、それで終わってしまうのは避けたい。


「特に激戦じゃなく、普通に一キルだけして優勝とかは最悪。何も生み出さない」

「うーん。最初は1~2時間を目安に生放送してみない?」

「そうする。絶対その方がよさそう」


下世話な話だが耐久放送は放送時間が長い分、視聴者からの金銭援助投げ銭がなされることが多い。

動画サイトでは投げ銭と広告収入が主な稼ぎ方だ。

だがそれはチャンネルの収益化がなされないとできない設定になっている。

チャンネルの収益化条件は一定時間を超える動画時間と視聴回数。

その条件をクリアした上で動画サイト側の審査があり、審査を通らないといけない。


つまりだ。正直な話、耐久という手札をここで切りたくない。


寧々がvtuberをやりたいというのなら、それで生活できるようにさせてあげたいのが私の本音だ。

それには私じゃなく寧々へ負担が掛かる、だから私にできることはしたい。

マネージャーなんて言葉は畏れ多くて使えないがお手伝いAぐらいには頑張りたいのだ。


『土曜日の夜に生放送をするチュン。バトロワの金字塔をプレイするのでぜひ観にきてほしいチュン

よければ生放送タグ『#チュンの生放送で感想を呟いてくれれば嬉しいチュン』


『にゃー!絶対に観にいくにゃー』

『猫神様が観にくるのは当然チュン』


私の呟きに即座に反応する猫神様。

それに寧々が雑に返していく。

このやり取りがこの少しの間でデフォルトになっていた。

だがこういうやり取りを望む声があることも、二人の会話についた『w』や『草』といったリプライで分かる。

だがその先コラボはまだだ。

まだ全然その時じゃない。

初放送、動画投稿を繰り返していって、雀推しが一定数ついた頃だ。

どっちにも利がある状態でコラボしておきたい、今後のためにも。

猫神様の知名度は高い、だが雀は世間一般で見ればぽっとでの新人である。

正直、今、雀に興味をもってくれてる人の大半は猫神様のリスナーのごく一部で、ゲームの腕前や雀自身に興味を持ってくれている人はあんまりいないだろう。

だから雀にはゲームの腕前をV界に知らしめていき、収益化も通り、雀推しが増えた頃についに満を持してコラボをしたい。


私の予想では、間違いなくバズると思っている。

その勢いのまま、とりあえず登録者数三万人を突破することが今の目標だ。


______


「にゃは」

暗い部屋で少女が笑みを浮かべている。


再生されているのは少女が何度も、何度も何度も見返した動画。

新人vtuberの投稿した『ファントム・マインド』のプレイ動画だ。


「はやく、一緒にプレイしてみたいにゃね」


まだその時じゃないことは彼女もわかっていた。

初放送もまだで、チャンネル登録者は三千未満。まだ堪えないといけない。


薄暗い部屋で、少女は一人想い続ける。やがて彼女と肩を並べて、遊べる日を。



______________________________________


次回初配信。

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