第4話
「挨拶動画を作ろう」
A4サイズの紙を渡された寧々は、首をかしげる。
「これは?」
「台本!」
頑張って考えた動画のための台本、寧々は少し目を通し、小さく読み上げ始める。
「初めまして。下切 雀だチュン。もしかしたらもう知っている人間もいるかもしれないけど今日からvtuberとして活動していくでチュン。活動内容は大好きなFPSを中心にゲームプレイをしていきたいチュン。
ツイートンにプレイ動画をあげてるからよければ概要欄からとんで観てほしいチュン。
あと……」
途中まで読み上げた寧々は小さく息を吐く。
「これならツイートンにあげる方がよくない?」
……ふむ。顎に手を当てて考える。
確かに、少し文を減らせば三分未満で収まるだろう。
動画サイトのチャンネル登録を促しながらURLを貼って、また後日生放送という形にするほうがいいかもしれない。
ツイートンはともかく動画サイトで自己紹介動画がバズることはまあないと言ってもいい。
それならば猫神様がフォロワーにいるツイートンでアップするほうがいいだろう。
「うん、そうしようか。ありがとね寧々」
「撮り始める?」
「んー、今から撮りはじめて大丈夫なの?」
「じゃあご飯食べてから」
「わかった」
家事は分担制にしてある。
寧々が全部やると言っていたが、体力のあまりない寧々への負担が大きすぎるし、寧々は作れる料理に偏りがあるから自然とこうなった。
今日は私が作る日。
メニューは冬だからシンプルな水炊きにする。
具材は鶏肉、鶏肉団子、白菜、しらたき、えのき、長ネギ、豆腐、そしてタラ!
鍋に水を張って、鶏肉を茹でる、灰汁を取ったらタラ、肉団子やしらたきなどの具材を入れていく。
ちょくちょく灰汁取りをしながら、染み出した出汁を口に運ぶ。
うん、美味しい!
たくさんの具材の旨味が出ているから不味いはずがない!
出来上がったら鍋つかみで鍋を持ち、机の上に用意してあったコンロに乗せると弱火にかける。
あとはお気に入りのポン酢と発泡酒と酎ハイを机に置いたら完璧だ。
「ご飯できたよー」
寧々を呼ぶ。すると直ぐに軽い足音を鳴らして寧々がやってくる。
ぐつぐつと煮える鍋を見て、寧々の表情がぱぁっと明るくなる。
そういえば、昔から寧々ってみんなでつつく鍋が好きだっけ。
「鍋?」
「そ、水炊き」
寧々に箸と取り皿を渡す。
「美味しそう」
「でしょー。締めは雑炊にするつもりだけどご飯はいる?よそおうか?」
「ほしいけど自分でつぐからいい」
「んー」
お茶碗をとってご飯をよそう寧々。
「彼方は?」
「私はいいよ」
「わかった」
ご飯を持った寧々が椅子に座る。
寧々が両手を合わせるのを確認すると私も手を合わせた。
「いただきます」
二人の声が食卓に響く。
寧々が好きな柑橘系の酎ハイと私は大好きな発泡酒をあける音が聞こえ、取り皿に具材をついでいく。
まず食べるのは鳥だ。
野菜と一緒に柚子の風味が効いたポン酢につけて、頬張る。
あふっ。
口の中を蹂躙する旨味と熱さ、それをビールで流し込むと、ふぅと息を吐いた。
「生きてる感じする〜」
「おっさんぽい」
「美味しい?」
「うん、美味しい。いつもありがとね」
「これぐらいいいよ。実際煮ただけだしね」
「これだけじゃないよ、いろいろ感謝してる」
「私も感謝してるんだよ寧々」
「彼方も?」
そう、感謝している。
かつてふさぎ込んでいた私を救ってくれたのは寧々だった。
だから恩返しではないけれど、できるだけ彼女の力になりたい。
こんなこと恥ずかしくて絶対に口には出せないけど。
「困ったことがあったらなんでも言ってね。私たちは一緒に住んでるんだから」
「どっかの誰かさんみたいに勝手に考えすぎたりしないから安心して」
「誰のことを言ってるのかなー」
「さて誰でしょう」
悪戯っぽく笑う
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます