第2話

下切しもぎりすずめだチュン!よろしくチュン! #VTuber準備中』


SNSツイートンへ投稿する。


絵の可愛さとタグ付けのおかげもあって、RT数がちょっとずつ増えていく。

『かわいい!』や『フォローしました!』などのリプライもついている。なかなかに上々な滑り出しだ。


だがまだ少し物足りない。

バズるのは、VTuber自身のモチベにも関わることだ。VTuberになり初動で千人を超えるだけでもモチベーションがだいぶ違う。

だが、正直企業に所属していない個人勢で、そこまでの登録者を稼ぐのは至難の業だといってもいい。


……ふと良い宣伝方法を思いついた。

寧々はゲームが上手い、私は苦手だから、素人意見にはなるけどシューティングゲームにおいてはきっとVTuberのなかでも1、2を争うぐらいの腕前だと思う。

それを動画にすることで、ファンを取り込めないだろうか。


……結局、やってみなきゃわからない。私は急いでリビングでくつろいでいる寧々のもとへ向かった。


「寧々、FPSやってる動画とかある?あるならあるだけ送ってほしいんだけど」

「あるけど……声は入ってないよ?」

「いいの!声は後のほうが!少なくとも寧々のプレイで興味持ってくれる人は増えるはずだから!」

「わかった」


動画が送られてくる。

私はすぐさま、動画編集ソフトを起動した。


広告代理店勤務の社畜を舐めるなよー!


残念ながら私に音楽の才能はない、故に海外のフリー音源サイトから合うBGMをいくつか見繕う。


いくつか気に入ったものを保存したら次は編集への取り掛かりだ。

動画の時間は全部で一時間ちょい。

最初から良いシーンのものを集めていてくれていたようでめちゃくちゃ助かる。

だがSNSにあげられる動画は約三分が限界。


まずは動画を見て、その中から絞り込んでいかなくては……


「ふわぁ、すごい」

一時間後、私はずっと口を開けっぱなしの状態で動画を観ていた。


寧々がやっているのは数年前に流行ったプレイヤーVSエネミー、所謂PvEと呼ばれるジャンルの作品だ。


『ファントム・マインド』

その難易度と恐怖を煽る演出から話題を呼んだパニックホラー作品で、プレイヤーはファントムと呼ばれる人型の怪物と戦い、ストーリーをクリアして行く。

これだけ聞くとありがちな作品のように思える、だがこのゲームの異常性はその難易度にあった。


大量に湧いてくる敵とプレイヤーの脆弱さ。

プレイヤーは一般人という設定のため、敵の攻撃への耐性をほとんど持たない。一撃貰った時点で瀕死になってしまい、回復アイテムを使わないと時間経過で死んでしまう。

数十も百も湧いてくる敵を的確にヘッドショットで倒していきながらも様々なアクション要素が求められる。


様々なゲーマーが匙を投げたゲームである。

確かに面白いゲームではあるのだが、その難易度もあってクソゲーと呼ばれることもある。


少なくとも私が知っている中では、ファントム・マインドにおいては寧々の右に出る者はいない。


爽快とも言えるヘッドショットの数々、的確な行動、まるでPVのようにギミックを我が物として戦う姿に思わず見惚れてしまう。


さて、編集だ。

動画の中で特段派手なシーンや紙一重で敵の攻撃を捌くハラハラとするシーンをいくつか切り取り、繋げていく。

BGMもゲームの音と調和が取れるほどの音量だ。


そうして紆余曲折すること数時間、二分三十秒ほどの動画が出来た。

最後に右下にローマ字で『Shimogiri Suzume』と小さなアイコンを入れる。


我ながら完璧な出来だろう。


「寧々、出来たよ。ちょっとみてくれない?」

「ん」

PCでゲームをしていた寧々がやっていた試合が終了したタイミングで話しかける。


ノートパソコンで動画を見せる。

真剣な面持ちで動画を見ていく寧々。

正直めちゃくちゃ緊張する。


動画の再生が終わり、寧々が小さく息を吐いた。


「最高の出来。まるでプロゲーマーのクリップ集」


グッと親指を立てる寧々。

私はホッと胸を撫で下ろしながら、この動画をSNSにあげることを伝える。

寧々の了承と共にSNSのツイートページから動画を貼る。


さて、だ。

この動画をどれだけの人が見てくれるだろうか。

百再生、もしかしたらそれすらもいけないかもしれない。


それでもあげなければ何も始まらない。

少し先の未来を不安に思いつつ、私はツイートボタンをクリックした。



_________________________________


ブーブー。

十数分が経ち、寧々の携帯が鳴き声をあげた。


机を揺らし、バイブ音を響かせる。


ブーブー、ブーブー、ブーブー、ブーブー、ブーブー、ブーブー、ブーブー……


「えっ、なに、こわ」


寧々の呟き。


鳴り止まない通知にもしやと、PCで下切 雀のSNSページへとぶ。


通知に表示されるのは+99とかかれた通知の数。


紛うことなき、バズ・・の音だった。

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