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「相変わらず、素敵なお車ですね」

「おんぼろだけどね、僕と一緒で」

 しっしっし、と笑いながら握るハンドルはビンテージものの高級外車。年代物のはずなのに、手入れが行き届いていて新しいものにはない美しさがある。

「僕にはこれしか能がないからね」

「またまた。でもこうやって長い時を過ごして来たからこそ、こんなにも素敵なんですね。山路さんと同じように」

「おっ口の上手さは成長したね」

「それほどでも」

 なんてね。

「店はどうだい? 楽しいかい?」

 店はどう? そう訊かれて「楽しいか?」と続けられることはそうそうない。山路さんがそう訊くのは、マスターが昔から楽しそうに仕事をしていた姿を見てきたからだろう。仕事は楽しいものだって、山路さん自身も知っているんだろうから。

「楽しいですよ、とっても。良かったら山路さんも今度いらしてください。今日のお礼にご馳走します」

「なーに言ってんの。お礼なんて気にするもんじゃないよ。僕が好きでやっているんだから。けれど、そうちゃんの酒を久しぶりに飲んでみたいな」

『近いうちに顔を出すよ』と山路さんは残し俺を駅で下して帰って行った。雨はまだ止んでいなかった。だから帰り際に山路さんは折り畳み傘を俺に放り投げてくれた。

『それはそうちゃんにあげる。返したりしたら許さないからね』

 そう言って悪戯っぽく笑って窓を閉めた。俺に寄越したのは某有名ブランドの名前が入った高そうな傘。

 近いうちに良い酒を入荷しておかないと。

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