2-2.ドッジボールの極意――攻撃編その1


 ここからはドッジボールにおいて、どうすれば相手にボールを当てられるかというお話です。

 要点は2つ。速いボールを投げる方法と狙う場所についてですが、今回はまず速くて強いボールを投げるコツから紹介しましょう。


 さて、皆さんはボールを投げるのが得意でしょうか?

 私は幼少の頃からボールというものと相性が悪く、投げたり打ったりキャッチしたりがとことん苦手でした。

 野球のボールに始まり、サッカー、バスケ、卓球のピンポン球から果てはビリヤードやパチンコ玉にいたるまで、それこそありとあらゆる球状のものが上手く扱えなかったのです。

 もちろんドッジボールもその例外ではありません。たまに転がったボールを拾うことができて、ドッジボールの得意な子に逆襲してやると意気込んで投げてみても、飛んでいくのは山なりの軌道を描くヘロヘロ球という有様でした。


 どうして思い切り投げているのにヘロヘロの球になってしまうのか。それは単純に力が足りないこともありますが、要はせっかくの力がボールに乗っていない(伝わっていない)のです。

 では、ボールに力を伝えるために一番重要なのはいったい何か? それは『リリースポイント』――すなわちボールからいつ手や指を離すか、ということに尽きます。


 野球のボールを例にして説明してみましょう。

 手でしっかりと掴めるサイズのボールをオーバースローで投げる場合、最大の力を伝えられるのは腕が真上から振り下ろされ、地面と水平になるまでのわずかな間です。

 ボールの出所をバッターに見られないようリリースを遅らせることもありますが、遅らせすぎるとどうなるか? 腕の振りによって生まれた遠心力がほとんど無駄になり、球のスピードや威力がガタ落ちになってしまうでしょう。

 それはボールを離すのが遅ければ遅いほど指先でツンと押し出すことしかできなくなり、直前まで“溜め”を作っていられる手首のスナップが生む小さな遠心力しか得られないからです。


 逆に腕が真上から下に向かって振り下ろされるより先にボールから手を離してしまうと、まだ腕の振りによる遠心力が最大になっていないのでこれまたスピードが出ません。

 おまけに腕が斜め上に向かって伸びている最中なので、当然ボールが飛んでいく軌道も山なりになってしまいます。

 古代の大型投石器(ヒモを結んだ石をアームの先端に引っ掛けて飛ばすのではなく、スプーンのようなものに乗せて発射するタイプのもの)を想像していただければ分かりやすいと思いますが、このようにボールをいつ離すかによって軌道もスピードも大きく変わってしまうわけですね。


 ではドッジボールのように大きな球を速く、そして力強く投げるにはどんな投げ方がいいのでしょう。

 結論から言いますと、


 ①腕を頭の後ろへ大きく振りかぶり、ボールが耳の後ろにくるあたりまでは野球のように弧を描いて斜め上に持ち上げる。

 これによって最初の勢いをつけるのですが、さらに腰のひねりも使って力の溜めと動きを加速させるための距離を稼ぎましょう。どんな動作でも動きが大きければ大きいほど勢いがついて強い力が生まれます。


 ②ボールが耳の横を通り過ぎたら、そこからは砲丸投げのように腕を真っ直ぐに押し出す。

 ここでボールに加わる力のベクトルを曲線から直線に変換し、山なりの放物線ではない直線的な軌道の球にするわけです。


 ③ボールを離す瞬間、再び野球のように手首のスナップを効かせる。


 口で言ったり文字にすると簡単ですね。

 では、なぜそんなことをわざわざ書き連ねるのか。それはヘロヘロ球しか投げられない子供の投球フォームから②が抜けている、もしくは①が抜けて②と③だけになっていることが多いからです。


 私もまた幼少時はヘロヘロ球しか投げられなかった子供の1人ですが、どうしてそうだったのかを分析すれば、ドッジボールの投球において①と②の両方が大切なことが分かります。

 私がドッジボールで投げていたヘロヘロ球というのは、ふわりと山なりに飛んでいくか、真っ直ぐ飛ぶけどまるで勢いがないかのどちらかでした。

 なぜ山なりにしか飛ばなかったのか、それは野球のように腕を振り下ろすよりも前、力のベクトルがまだ斜め上へ向いているうちにボールを離してしまっていたからです。

 これはドッジボールが野球のボールに比べて保持しにくいのはもちろん、振りかぶったときに手のひらが上を向いている、腕を高く持ち上げすぎた(わきが開きすぎていた)などの理由で、②に入る前にボールが手から浮いてしまいそうになることが原因です。

 難しいことを長々と書きましたが、要はすっぽ抜けというやつですね。


 次に真っ直ぐ飛んでいくけど威力が出ないときですが、この場合は野球でボールをリリースするのが遅すぎたときと同じ現象が起こっています。

 つまり①の力がきちんと伝わっておらず、②と③の動きだけでボールを押し出しているので勢いが足りないのです。

 そこで2つの投げ方を融合させ、①で勢いをつけてから②でボールに伝わる力を直線に変え、③でダメ押しの回転を加えるというわけです。


 ①と②が高いレベルで融合していればいるほど速くて強い球が投げられるわけですが、そのセンスがない子供にとっては左手(左投げの人なら右手)の存在も重要になります。

 なぜなら先ほども書いたようにドッジボールは大きいため、①から②に移行するまでの間に手からこぼれ落ちそうになるからです。

 手のひらを上に向けていると①の勢いで手から浮き上がってしまいますし、手首のスナップも効かせることができません。なので手のひらは基本的に投げる相手のほうへ向けるのですが、そのままゆっくり投げようとするとボールは重力にしたがって下へ落ちようとします。

 そうならないよう①の勢いを強く、腕を突き出す動きを速くすることでボールが落ちないようにするわけですが……どんくさい子というのは②への移行が下手すぎるため、どうしてもその間にボールが不安定になってしまいます。

 その結果、ボールがすっぽ抜けてあさっての方向へ飛んでいったり、威力がまるでないヘロヘロ球になってしまうというわけですね。


 ならば、どうすればボールをしっかりと保持したまま①から②へとスムーズに移行することができるのか? 少し上にも書いてあるように、もう片方の手も使ってボールが落ちないよう支えてやればいいのです。

 やり方としては5本の指先を使い、軽く押さえてやるぐらいで構いません。

 むしろ力を入れすぎると①の力を相殺そうさいしてしまうため、ボールを支えつつも勢いを邪魔しないギリギリの力加減が重要です。有名なバスケ漫画の格言にもあるとおり、『左手はそえるだけ』というやつです。

 ①で振りかぶっている間から②に移行する直前、つまりボールが耳の横を通り過ぎる寸前までボールを支え、右腕を真っ直ぐ突き出す瞬間に左手を左わきのほうへと引きましょう。そうすれば左半身が生み出す反動によって、右を押し出す力もさらに強くなります。


 これらのことを意識して練習し、①から②へとスムーズに移行する感覚が身につけば、コンクリートの壁に当てたとき「ぱしっ」ではなく「ドンッ!」という音がする球を投げることができると思います。

 そうなれば、相手に当てたとき「てっ!」と言わせることも可能です。さあ、今までやられっぱなしだった恨みを込めて、強烈な一撃を食らわせてやりましょう。


 次回はそれをどこに当ててやればいいか、どこを狙えば相手がボールをキャッチできず、アウトになりやすいかというお話になります。

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元・運動音痴の体育論 ~逆上がりができない子供たち(と親御さん)へ~ @FLAT-HEAD

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