2-1.ドッジボールの極意――防御編


 今回は小学校において、いわゆる陽キャ扱いされるか陰キャ扱いされるかを分けるといっても過言ではないスポーツ、ドッジボールについてのお話です。

 大まかに『攻撃』と『防御』に分けて解説したいと思いますが、まずは防御の技術から始めましょう。何はともあれボールをキャッチしないと攻撃には移れませんので。


 さて、ボールに限らず人になにかをぶつけるとき、もしくは銃で人を撃ったりするときに一番狙いにくいのはどんな相手でしょうか?

 分身して見えるほどちょこまかと動き回る相手?

 もしくは目にも留まらないほどの超高速で移動する相手?

 確かにどちらも狙いにくいですね。ですが、そんな漫画じみた動きを人間ができるはずもありません。


 仮に相手が生物ではなく物だったとしたら、狙いにくいのはどんなときでしょう? それはおそらく、まと自体が小さいときではないでしょうか。

 そう、ボールに当たらないようにするためには、まず体を小さく縮こまらせればいいのです。


 いくら相手が小さくても、じっとしているなら狙い放題だと思うかもしれません。ですがドッジボールという競技においては、それは向こうにボールをキャッチする技術がないときの話です。

 こちらは肩や太ももを狙って投げたいのに、相手の腕や脚でそこが隠されていたらどうでしょうか。

 相手が大きく広げた両腕の間しか狙うところがなかったら、受け止められると分かっているのに投げるのも馬鹿馬鹿しいですね。それなら他のやつを狙うか、外野にボールを回したほうがいいかもしれません。

 そしてこのように『自分だったらどういう相手が狙いにくいか』を考えれば、自分が狙われたときにどんな構えをとればいいかも見えてきます。


 まず真っ直ぐ立った状態から、相手に向かって左足(左ききの人なら右足)を半歩前に踏み出し、左肩を前に出してみましょう。こうして半身になるだけで、相手にとってはまとの大きさが半分近くになります。

 その状態から後ろにある右足を深く曲げ、可能な限り腰を落としてみましょう。これで縦の大きさが約3分の2ほどになります。

 さらに左手を軽く持ち上げて顔の前に、右手は手のひらを上に向けた状態で股間の前あたりに置きます。このとき肘は外側に開かないよう、体の中心に寄せましょう。

 一見どこかの拳法のようですが、こうして腰を落とし、体をぎゅっと縮めたコンパクトな姿勢こそが最もボールを当てにくい構えです。


 相手との距離が4メートル以上(大人2人半ほど)離れていれば、この構えをとるだけで被弾率が2~3割は減少すると思います。唯一の弱点は前にある左足を狙われることですが、それもスネの真ん中より低いところに飛んできたボールならジャンプでかわすことができるでしょう。

 さらにその倍の7~8メートルも離れていれば、ほとんどのボールをキャッチする余裕があると思います。


 ついでにキャッチそのものについても触れておきますと、両手で下からすくい上げるようにボールを迎え、胸に抱えてキャッチするという基本的な方法は個人的にあまりお勧めできません。

 なぜならどんくさい子にとっては、ボールを正面からキャッチすること自体が恐怖でしかないからです。

 考えてもみてください。両手を軽く左右に広げ、胸にボールを迎え入れようとする構えは顔面がガラ空きになります。

 抱えそこねて上に弾いてしまえば顔に当たるかもしれませんし、最初からボールが顔面に向かって飛んでくる可能性だってあります。

 仮にボールが胸のど真ん中めがけて飛んできてくれたとしても、スポーツのできる子が投げた強烈な球を胸で受け止めるというのがそもそも痛そうですね。

 どんくさい子はそれらを恐れるあまり、体がのけぞって逆にキャッチしにくい姿勢(いわゆるへっぴり腰)になっていることが多いです。もちろん注射を嫌がる子供のように顔を逸らし、ボールが飛んできたら目をつぶってしまいそうなほどビビっていて受け止められるはずはありません。

 というわけで、ボールを正面から受け止めようという基本的な構えは「ボールが顔に当たったら? 顔面セーフなんだから儲けものじゃねえか!」という度胸のある子に任せておきましょう。


 両手を左右に広げた基本的な構えに対し、先ほど紹介した構えは両手で顔と股間という2つの急所を守っているだけでなく、肘を内側に寄せることで正中線――すなわち体の中心全体を両腕でガードしています。

 もちろん相手から見たときに狙える場所を限定するという意味もありますが、それだけで受け手に安心感を与えるんですね。

 そしてその両腕で虎やライオンが噛みつくように、飛んできたボールを上下から挟んで受け止めるのがこの構えからのキャッチ方法です。

 手のひらでボールを取ろうとすると弾いてしまうことも多いですが、肘から先の前腕全体を使って挟むようにすれば落としません。

 しかもこの受け方には上下から叩くことでこちらに飛んでくるボールの威力を打ち消す効果もあり、さらにそこから人を抱きしめるような感じで二段キャッチすれば、前腕を使った一段目のキャッチで勢いが削がれているのでほとんど痛くありません。


 さて、ここまでの要点をおさらいしますと……。


 1.まず半身になって腰を落とし、コンパクトに構える。(これにはまとを小さくしてボールに当たりにくくするだけでなく、相手が狙える場所を自分がキャッチしやすいところに限定させるという意味があります)

 2.両腕で体の中心をガードすると同時に、自分がボールをキャッチするための備えとする。

 3.一方向からすくい上げる受け方ではなく、双方向から挟み込むことでボールの勢いを殺しつつガッチリとキャッチする。


 この3つになりますね。

 さあ、このキャッチを練習して、君も今日から若林くんになろう!

(注:野球のボールや槍を止めようとするのは危険なのでやめましょう)


 次回は攻撃編になります。

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