第23話「銀の勇者」
第二十三話「銀の勇者」
「八八式強襲連弾”
「八八式強襲連弾”
俺の両腕の武装兵器、その白銀がうっすらと光を纏う。
そして俺は、
ヴオオォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーン!
片腕の魔神ブリトラの巨体から伸びる、鋼鉄の爪!
「しゃらくせぇんだよ!」
グワシャァァァッーーー!
その強靱な爪とぶつかる
今までの
「ぐぉっ!」
しかし同時にブリトラの蛇腹状の腕にも亀裂が入り破片が飛び散っていた。
「だしゃぁぁぁーー!」
雄叫びを張り上げて巨大な蛇腹状の腕をガシリと脇に抱える
メキッメキィッーー
バキャァァアーーー!!”
恐ろしい強度で創られたはずの魔神の腕は、真っ二つに、へし折られていた。
ガシァッ!!
それを一気に引きちぎり、投げ捨てる剛力無双の
「三式百五十番”
力を解放したことにより、一瞬、硬直する
俺はそれをたたき込む!
青色光のサークル、加速フィールドを突き破り、俺の拳が
ドゴォォォォォーーーーーーーーーーン!!
「ぐはぁぁぁぁぁーーー!」
ーープシューーーー!ガシャッガシャッ!
同時に俺の右腕の武装兵器から、長方形のカードリッジが蒸気と共に飛び出した。
直ぐさまカードリッジ交換を済まそうとする俺に、
「くっ!」
バキィィ!
何とか左の武装兵器でガードするが、またもやそれには亀裂が入り、砕け散った破片が舞う。
「こ、これは……」
「なんて熾烈で……なんて……」
お互い一歩も譲らず殴り合い、蹴り合い、つぶし合う二人。
そして、その激しさは当然の事でもあった。
俺の戦い方はシンプルそのもの。
相手の攻撃を、ダメージ覚悟で受けて、その隙に乗じて自身の攻撃を行う。
ーーつまり、これはよく云われる、”肉を切らせて骨を断つ”……玉砕戦法そのものだった。
日が暮れだしたマリンパレスの中央広場で、お互いを削り合う二人。
俺の打撃はことごとく
俺は惜しげも無く、次々と動力源である
だからこそ、その攻撃を自らの武装兵器を犠牲にして受け、白銀の魔神を盾にして躱す。
そして傷ついたそれらを、今度は容赦無く攻撃に使う。
それは破損することを前提とした闘い。
ーー全ては織り込み済み。
こうすることで、こういう戦い方を選択することで、真っ向からこの
そうだ、俺の七年間は、まさにこの時の為にあったのだ。
ーーガシィィィーー!
ーードカァァーーー!
黄昏時、黄金色に染まる世界で、大事なひとを悲しませてきた悪の元凶を打つ打撃音。
衝突する度にひび割れ、砕け、飛び散る破片、それは俺の七年間の結晶。
ーーバキィィィーー!
そこからは、白銀の金属の粉が舞う。
俺の武装兵器、
目映い太陽は、黄昏の時間を経過して、やがて逢魔が時へと向かう。
その僅かな間の黄金の時間。
一瞬だからこそ、最後の瞬間だからこそ、より鮮烈に、より印象的に、そして、より優しく煌めく……
俺はそう思う……俺はこの時間が好きだ……なぜなら、それはまるで、俺の大事な少女の……
ーーバキィィィーー!
幾たびも幾たびも、破壊し、破壊された、
今もそこから白銀の金属の粉が舞い続ける。
黄金の光を反射してキラキラと輝くそれは……
そう……それはまるで燃えさかる炎の粉の様であった。
「銀色の……
その光景を見つめる黒髪の少女の唇が震えていた。
ーー銀色の……
いつの日か、少年が少女に語った夢……
銀の勇者……凡庸な少年が見た叶わぬ夢……
いつの日か……それは都合のいい作り話……
それでも……彼が守ると決めたもの……
それはまるで燃えさかる
いつの日か……二人で話した銀の勇者の
それを見つめる少女の黄金の瞳から、いつしか一筋の涙がこぼれていた。
ドゴォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーン!
「が……がはっ!」
左腕を失い、脇腹を大きく割き、右足をあらぬ方向にねじ曲げた男。
全身に致命傷を大幅に越える損傷を受け続けた男は、とうとう力尽きた。
最後に、二、三度痙攣した後、大地に大の字に横たわりピクリとも動けなくなる。
「……」
そこに馬乗りに跨がる俺。
俺の後方には、もはや物言わぬ鉄屑となった白銀の魔神。
そして、俺自身も満身創痍、両腕の武装兵器は、ひび割れ、砕かれ、もはや殆ど原型を留めていなかった。
「………………」
俺はそれでも、僅かに残る右腕の武装兵器を振り上げ、もはや屍と化した男に狙いを定めた。
ーープシューーーー!ガシャッガシャッ!
夕日をバックに、振り上げた右腕の武装兵器から、長方形のカードリッジが蒸気と共に飛び出した。
そして、パラパラと複数個の使用済みの
それは今日、何度も何度も繰り返された光景。
俺は幾度目かの、そして恐らくは最後のカードリッジ交換を行うため、胸にたすき掛けに装備した革ベルトに手をやる。
「……」
しかし、そこには既にそれは無かった。
度重なる苛烈な戦闘で、俺はその弾倉を全て使い尽くしてしまっていたのだ。
「……な、んだ……弾切れか、よ……」
物言わぬ屍と化していた、中年が途切れ途切れの声で言葉を発する。
「……」
俺はそのまま、無言で男を見下ろす。
「……まぁな……悪いことはいわねぇ……今日の所は引き分けってことにしとこうや……」
どう見ても瀕死の男は、半開きの細い目を俺に合わせて、今さら都合の良い事を言う。
「
俺の後方でへたり込んだまま、見守る
ーー
その他の者達も各々の場所でその状況を静観する。
もはやこれは、二人の闘い……いや、
「……」
俺は静かに、振り上げた方と逆の左手をポケットに突っ込むと、それを瀕死の男の眼前に差し出した。
「!」
大きく目を見開く
ーー神秘的な光を宿すその鉱物は、見ているだけで何かの力を感じる不思議な宝石。
百円玉程もある
無機物でありながら、つい敬意さえ
「!」
俺が最後に掲げた
それは、彼女が俺に渡した
「な……なんでぇ……そんな大層なモノが残ってたのかよ……」
そしてゆっくり目を閉じる。
「……
殆ど聞き取れない声でそう呟いた
この時、
ーー
ーー
静寂が流れる。
「……」
俺は……
この件に関わった全ての人間が見守る中、俺は、
「
その言葉に、寝転がる瀕死の中年はキョトンとする。
「……は?」
間抜け面で思わず聞き返す
「……
俺はもう一度、はっきりと、そして心なしか穏やかな口調でそう言っていた。
「……それだけ……か?」
相変わらずの
「……かーーーー!やってられるか!てめぇ、ここまでの……この国の支配者で、最強、最高の、この
瀕死の状態にも関わらず、堰を切ったようにわめき散らす中年。
「答えろ、
「……」
俺の再度の言葉に、
「わかった、
一転、真面目な声でそう応じる
正直、俺はそこまで要求していないのだが、ここまでの闘いをしておいて、それでは、奴のプライドが修まらなかったのかもしれない。
「そうか……」
俺は短く了承の言葉を返した後、天を仰いだ。
ーー
ーー終わった……のか……
今までの努力が実った瞬間、この時の為の今までの時間……
体中に走る大小の痛みと、怒濤のように押し寄せる疲労。
俺の
「
直ぐに幼なじみの少女が駆け寄り、その場に膝をついて、倒れた俺を抱きしめた。
ーーああ、いいにおいだ……甘くて……懐かしい。
少女の腕の中で安堵の表情を浮かべる俺、傍目からも既に使い物にならない廃棄物だ。
「……終わったよ……
「うん、うん……ありがとう、
美しい濡れ羽色の瞳からポロポロと涙を溢れさせ、俺の途切れ途切れの言葉に少女は応える。
暫く動く気が起きない俺は、傍に座って俺を抱きしめる少女の胸に顔を預けていた。
自称、勇者としては非常に情けないが……まあ、今回に限りこれも役得だろう、うん、そうだ、そうに違いない。
ーー暫く経っても、夕日を浴びて黄金色に染まる世界で、二人は唯々そうしていた。
ジャリ!
だが、そんな中、今まで傍観していたファンデンベルグの軍隊が動いた。
隊長たるフォルカー・ハルトマイヤー大尉、副長たるアーダルベルト・クラウゼン中尉、そして彼らの上官たる老人、ヘルベルト・ギレ少佐。
ーーザザッ!
俺と
「ちょっと野暮じゃないの、ファンデンベルグ人!」
そう言って
傍に立つ
「……なにか勘違いしているようだな、
フォルカーはそう言うと、両手を顔の横に上げて戦闘の意志がないことを示した。
「そっちの爺さんは?」
「同じだよ、お嬢ちゃん、少し、昔の弟子に別れる前に挨拶をしたいだけなのだよ」
そう言って、フォルカーとアーダルベルトをそこに待機させ、自身は俺達の方へ、金属製の杖をカツンカツンと響かせて歩を進めた。
「……」
カツンカツンと俺達に近寄るヘルベルト・ギレ。
それに気づいた俺が、立ち上がろうとして疲れ果てた足に力を入れる。
「よい、
そう言ってギレ老人は、
俺は軽く会釈をして、その言葉に甘える。
その傍らで、俺とは違い、注意深く老人を見上げる濡れ羽色の瞳。
ギレは自分を信用していない竜の
「
俺は、
「
大きく頷く老人。
「
ヘルベルト・ギレは続ける。
「我が兵器と君の武装兵器が一つになって完成するという趣旨から、そちらの方は君の武装兵器を指すと推測されるが……正直、
かつての師の疑問に、少し思案し、俺は暫く黙っていた。
「
ボソリと俺にだけ聞こえる声量で呟く
多分、
「……とくに大した意味はないですよ、ドクトーレ、
少し間を置いてそう答える俺に、
俺の言葉が偽証であると気づいてのことだ。
「……理解した、そういう事にしておこう」
ヘルベルト・ギレも何か感じたようであったが、それ以上は追求しなかった。
「……では、お別れだ
ヘルベルト・ギレはそう言うと背中を向けてカツン、カツンと来た時同様、金属製の杖を響かせて自分を待つ、フォルカー達の方へ戻っていった。
「撤収する!」
フォルカー・ハルトマイヤー大尉の号令で、一斉にその場から離れる準備をするファンデンベルグ軍。
「じいさん!ペナイチの件忘れんじゃねーぞ!」
去りゆくファンデンベルグの兵達にそう叫んだのは、大の字に寝っ転がったままの
「じいさん、じいさんと、実年齢は閣下の方が遙かに上なんですよ、お忘れか?」
振り返り、そう答えて、クククと笑う老人。
「ったく、食えないじいさんだぜ」
寝転がったままの
ヘルベルト・ギレは振り返ったまま、何か思い出したように、もう一度だけ俺に声をかけてきた。
「そうそう、
「!」
「最初から君は何か勘違いしているようだが……私は世界の天才科学者ヘルベルト・ギレ、その私が凡人を弟子にするはずもあるまい、ましてや生涯の研究に携わらせるなど……」
……なにを?
その時、遠目でよく確認は出来なかったが……ほんの、ほんの僅かだが、かつての師の瞳には懐かしい光があったような気がした。
「自信を持っていい、君は優秀な人材だ、このヘルベルト・ギレが認めよう……
「…………」
そう言い残して、今度こそ去って行くファンデンベルグ軍。
俺は、
「……
ぐだぐたの声で
「……そうね、でもそれは私が許さないわ、わが竜士族の立派な人材を、そんな所に渡さない」
ーー黄昏時のマリンパレス中央広場。
普段は人で賑わうはずのその場所で、二人は暖かい黄金の光に包まれ、いつまでも寄り添っていた。
第二十三話「銀の勇者」END
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます