第22話「戲万Ⅲ」

 第二十二話「戲万ざまⅢ」


 「大丈夫だ、みや、こんなゲスに指一本触れさせない!」


 俺は安心させるように、大事なひとに優しくそう言った。


 「こうくん……」


 雅彌みやびがへたり込んだ場所から直線上にいる九宝くほう 戲万ざま、その狂気の男の視線を遮るように間に立つ俺。


 「五式無反動砲”きょく”!」


 俺はいきなり、武装兵器、右手のレンズ部分から放出する光の槍を放つ。


 シュオーーーーーーーーン!


 ーーバキィィィ!ーーグシャ!


 前触れも無く自らに迫る光の槍を全く事も無げに足の裏で受け止めると、そのまましく踏みつぶす中年。


 苛立つ様子の中年、その足元で俺の腕から射出された光の槍は、爆裂して霧散した。



 「……いちいち……癇に障るなてめぇ!」


 戲万ざまは忌々しげに、白銀の武装兵器を構える俺を射殺す程の形相で睨み付けていた。


 「そいつは光栄だ、戲万ざま閣下」


 俺は、九宝くほう 戲万ざまの脅しに、とびきりの笑顔で応えてやった。


 そして、再びその武装兵器、焔鋼籠手フランメシュタルを構える。


 ーーヴィィィィーーン


 白銀の魔神ブリトラが呼応し蛇腹状の両腕をうねらせた。


 接続状態コネクトは良好だ、同調率シンクロも申し分ない。


 コレなら更なる段階ステージに移行できるはずだ。


 ウィィィィィィィイイイイイイイイイーーーーーー


 低速な駆動音と共に振動する両腕の武装兵器とBTーRTー04べーテー・エルテー・フィーア


 「これは……」


 ハラルド・ヴィストが目を丸くする。


 「うむ、最早あの武装兵器とブリトラは完全に一体の兵器といえるな、焔鋼籠手フランメシュタル……か」


 ヘルベルト・ギレの杖を握る手が、堅くなっていた。



 「八八式強襲連弾”那由多なゆた”!」


 俺の両腕の武装兵器、そのハクギンがうっすらと光を纏う。


 「八八式強襲連弾”恒河沙こうがしゃ”!」


 BTーRTー04べーテー・エルテー・フィーア、魔神ブリトラも同種の輝きを放っていた。


 そして俺は満を期して、九宝くほう 戲万ざまに特攻する!


 ーーヴオオォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーン!


 白銀の魔神も、その巨体を踊らせて、同時に突撃した。


 ブォォォーーーーーン!


 ブリトラの強靱な四本爪がターゲット目がけて一本の巨大な槍と化す。


 「鉄くずがーー!」


 戲万ざまはそれを僅かに動いて躱し、そのままの勢いで近接する強大な鉄塊に、カウンターの鉄拳を見舞った。


 ガゴォォォォォーーーーーンン!


 ズズーーーーーーーーン!


 鉄壁の装甲を持つ白銀の魔神のボディが撓み、大きく上半身を仰け反らせて、強制的に後方に下がらせられる。


 しかし!


 白銀の魔神を退けた戲万ざまの至近に、息を置かずに展開する青色光のサークル!


 ドゴォォォォォーーーーーーーーーーン!!


 加速フィールドを突き破った、必殺の突貫打撃が戲万ざまの無防備な顔面に放たれていた!


 大気をビリビリと震わせる衝撃音。


 戲万ざまはそれを左手の手のひらで受け止めて、反撃の蹴りを繰り出す。


 「九五式装甲”崩・双なだれ・そう”!」


 俺は両方の腕を、自身の前面に翳して瞬時に備えた。


 瞬く間に前面に、二重に浮かび上がる白銀色の光のサークル。


 ガシィィィィーーン!


 戲万ざまの蹴りはその光の壁をことごとく粉砕するが、半減した打撃は、白銀の武装兵器そのものでガードする俺の両腕に遮られ、ターゲットに届かない。


 「五式無反動砲”きょく”!」


 敵の攻撃を受けきった俺は、そのまま続けて次の技名を叫んだ。


 ズバァァァァァァーーーーーー!


 右腕のレンズ部分から射出される一筋の光の槍。


 「ぐわっ!」


 流石の戲万ざまもこれを躱す余裕は無く、まともに左腕の付け根辺りに被弾した。


 「っ!」


 顔をしかめる戲万ざま、肩の関節部から千切れかかった腕は、風にそよぐ洗濯物の様にバタバタと暴れる。


 ーープシューーーー!ガシャッガシャッ!


 俺の両腕の武装兵器から、勢いよく蒸気のようなものが吹き出し、長方形のカードリッジが飛び出す、パラパラと複数個の使用済みの麟石リンセキが大地にこぼれ落ちた。


 俺は即座に胸に装備した新品のカードリッジを二つ手に取って、そのまま両腕の武装兵器に素早く装填した。


 「て、てめえ!」


 「!」


 その僅かな隙に、初めて大きく破損した戲万ざまは、体を揺らして俺の左肩を鷲づかみにする。


 あまいんだよ、おっさん!


 ーーヴオオオォォォォォォォ!


 胸部を大きく陥没させ、後退を余儀なくされた白銀の魔神が、胴体部に大きく開いた鋼鉄の顎を目一杯に開き、戲万ざまの背後にせまる!


 「!」


 バキバキバキィィ!


 「ぐぉぉぉーーーー!」


 戲万ざまの上半身が殆ど千切れて、大地を踏む下半身とは反対方向を向く。


 食いちぎられ、上半身をぶら下げる男、その垂れ下がった上半身からは、根元から殆ど千切れかけの左腕が更にぶら下がっている。


 「ざ、ざっけんじゃねぇぞぉぉぉーーー!」


 血まみれで叫んだ中年の男は、滅茶苦茶な体勢の上半身から繰り出した頭突きを、ブリトラにぶつけていた。


 ガコォォォォォォーーーーン!


 ズズズーーーーーーーーーン!


 大きく大地を揺らして倒れる巨大な鉄塊。


 戲万ざまもその勢いのまま後方にひっくり返った。


 ここまで非常識なら、人間どころか生物かどうかも怪しい化け物だ。


 「五式無反動砲”きょく”!」


 間髪入れず、俺は地面に崩れ落ちた男に至近距離から光の槍を突き刺す。


 ズバァァァァァァーーーーーー!


 「くふぁぁ!」


 倒れた戲万ざまの体が貫かれ、千切れかけた左腕は完全に飛び去った。


 そして残った四肢、いや既に三肢、その異形が地面の上でビクビクと大きく痙攣する。


 「三式百五十番”ほう”!」


 寝そべる九宝くほう 戲万ざまと見下ろす俺の間に、青色光のサークルが展開された。


 青円光のサークル、加速フィールド”を突き破り、俺の拳が敵に炸裂する!


 ドゴォォォォォーーーーーーーーーーン!!


 大地を揺るがす打撃音。


 「ざけんじゃねぇぞーーー!ざけんじゃねぇぞーーー!」


 狂ったように叫んだ戲万ざまが、寝転んだままでも、それを右腕一本で受け止めていた。


 ーーマジかよこれでも……おっさん、ほんと、立派な化け物だ……


 プシューーーー!ガシャッガシャッ!


 俺の両腕の武装兵器から、今日何度目かの、長方形のカードリッジが蒸気と共に飛び出し、パラパラと複数個の使用済みの麟石リンセキが大地にこぼれ落ちる。


 「……」


 そして俺は何度目かの、カードリッジ交換を手早く済ます。


 ーー終わらないなら……トコトンやるだけだ!


 「ば、化け物!」


 「……」


 回復のため、傍観していた峰月ほうづき 彩夏あやか阿薙あなぎ 琉生るい、さらには燐堂りんどう 雅彌みやびまでもが立ち上がり、攻撃の用意をする。


 この化け物を仕留められるとすれば今しか無い!


 全員の考えが一致した瞬間であった。




 「下がってろーーーーー!有象無象!」


 「ーーーーー!」

 「ーーーーー!」

 「ーーーーー!」


 瀕死?の戲万ざまの絶叫に、三人だけで無く、そこにいた上級士族全員が地面に崩れ落ちていた。


 「ぐ……何だ?……力が……」


 阿薙あなぎ 琉生るいは片膝をついて苦悶の表情を浮かべる。


 ……彩夏あやかも同様に何かの圧力に耐えるように踞っていた。


 「これが……九宝くほうの……強制力か……」


 フォルカー、アーダルベルト、その他、ファンデンベルグの軍人達の何人かも、苦しそうに這いつくばり、体にかかる正体不明の圧力に必死で耐えている。



 「は、はがね……」


 黒髪の美少女、竜の美姫、燐堂りんどう 雅彌みやびは、それでも何とかしようと、か細い両足で戲万ざまに抗っていた。


「!雅彌みやびよーーーてめぇ、逆らうんじゃねぇよ!、流石に殺すぞ!」


 必死に抵抗する雅彌みやびを睨み付け、戲万ざまが両手を大きく振るう。


 ーーグォォンーー


 「っ……!」


 戲万ざまによる、さらなる圧力強化、途端に雅彌みやびは、押しつぶされ、膝から崩れ落ち地面に張り付…………


 いや、張り付かない!


 両手を大地にしっかりと着き、土下座するような無様な形になりつつも、華奢な体に、渾身の力を込めていた。


「っ……はぁっ!……っ……」


 背中に乗せられた巨石に容赦なく巨人の大槌が打ち込まれる衝撃、それを幾度となく受け続ける少女の二の腕と太ももの筋肉は、ピクピクと小刻みに震える。


 「んっ!……はぅ……!」


 濡れ羽色の瞳からは涙が溢れ、桜色の唇からは苦悶の声が漏れる。


 驚異的な圧力に耐え続ける竜の美姫。


「わたし……だって……だい……じ……な……」


 力なく垂れ下がる美しい黒髪を、汗に塗れる白い頬に張り付かせながら、四つん這いのままで、それでもなんとか、震える右手を前面に翳す。


 屈辱的な体制で、それでも顔を上げた彼女は、その瞳に波打つ黄金の海を顕現させていた。


 「なんだってーんだ!健気な女何ぞに成り下がりやがって!……マジでむかつくじゃねーか!、えーーー雅彌みやびちゃんよーーーー!」


 目の前の敵を忘れ去り、怒りにわれを無くした中年は、這いつくばる燐堂りんどう 雅彌みやびの方へ駆け出そうとした。


 ーーガシィ!


 俺は、勿論それを背後から羽交い締めにする。


 「雅彌みやびよぉーーーてめぇーー殺ーーーす!」


 くそっ!


 羽交い締めにした俺ごと引きずり、雅彌みやびの方へ進む戲万ざま


 「ま、不味い!」


 「ちょ、ちょっと!」


 尋常じゃ無い戲万ざまの状態に、琉生るい彩夏あやかが何とかしようとするが、その能力の前で立ち上がることさえ出来ない。


 士族に生まれた者は……士族の能力を持つ者は、九宝くほうには逆らえないのだ……


 そして、士族で無い者は……九宝くほうには敵うはずも無い……



 ここにいる者の中で……いや、世界中でも、この男に抗うことが許されるのは……出来るのは……俺……、士族に生まれながらそれを捨て、そのことで手に入れた、唯一の力をもつ、穂邑ほむら はがねだけだった。


 「ブ、ブリトラ!」


 引きずられながら俺は必死に叫ぶ!


 ーーヴォォォォーーーー!


 俺の魂の叫びとも言える声に、白銀の魔神が応えた。


 「死ね!」


 「くっ」


 引きずる俺ごと雅彌みやびに飛びかかろうとする戲万ざま


 バシュゥゥゥゥーーーー!


 ほぼ同時に、雅彌みやびの渾身の雷帝らいていがその男に打ち込まれる!


 「しまっ!」


 間抜けな俺は、戲万ざま身体からだを通しての間接的な衝撃で、その場に転んでしまった。


 「がぁはぁぁぁぁっっ!!」


 胴体にもろにそれを喰らった戲万ざまの傷が開く!


 ついさっき、ブリトラに食い千切られた傷だ。

 そしてその傷は直ぐには塞がらない。


 戲万ざま士力しりょくも底を尽きかけているということか!


 しかし、男は、ゾッとするような、悪魔の笑みを浮かべていた。


 なみなみと注がれたワインをテーブルにぶちまけたように、容赦なく溢れる鮮血!臓腑!


 それでも男は、殺すことを優先する!


 誰を?雅彌みやびを!


 くそっ!なんて間抜けだ俺は……


 這いつくばる幼なじみの少女と一瞬目が合った俺は、背筋が凍り付く!


 黄金の瞳!雅彌みやびの双眸が煌めく黄金の世界を顕現させていたからだ。


 焔王えんおう!?焔王えんおうで何をするつもりだ!!


 解っている、俺は解ってしまった!……彼女は……燐堂りんどう 雅彌みやびは……


 残った士力しりょくを全て解放し、戲万ざま諸共、燃え尽きるつもりなんだ!!



 雅彌みやびが……死ぬ?



 ーードクンッ!


 鼓動がはねた。


 ーードクンッ!


 嫌だ……イヤダ!いやだ!いやだーーーーー!!



 「ブリトラーーーーーーー!!」


 ブォォォーーーーーン!


 鋼鉄の槍が俺の頭上に飛来する。


 実際の時間にすれば、ほんの一瞬だっただろう。


 俺はゆっくりと黒い影に覆われていき、自然と伸びた俺の両手は目の前の狂人をガッシリと捕まえる。


 「て、てめっ!」


 その男は振り返り、何か言っているが俺の口元は綻んでいた。


 ーーーーーーーーーーー


 ズドォォォォォォォォーーーーーーーーーーーンン!!


 猛烈にわき上がる砂煙!


 巨大な四本爪が頭上から降り注ぎ、奴を叩きつぶしてくれた。


 大事なひとを殺めようとする狂った男を……


 穂邑ほむら はがねという男ごと……




 ーーーーーーーーーーー



 「……なんなのよ……な、んなのよ……これ……」


 峰月ほうづき 彩夏あやかは愕然とした顔でその場から立ち上がる。


 「……」


 阿薙あなぎ 琉生るいはただ、ただ無言だ。


 「と、止めたのか……あんなやり方で……!」


 険しい表情で黙る老人の隣で、ハラルド・ヴィストから言葉が漏れる。


 「これが……穂邑ほむら はがね……」


 フォルカーもそれを、巨大な鋼鉄の腕に埋もれた男をじっと見つめ、短く呟く。


 そして……


 燐堂りんどう 雅彌みやびは……




 「……こ、こうくん!……こうくん!」


 竜の美姫までほんの数メートル手前で起こった出来事に、燐堂りんどう 雅彌みやびは取り乱し、幼馴染みの名を連呼していた。


 静まりかえる周辺と、その眼前で取り乱す竜の美姫。


 しかし、無情にも状況は、更に最悪の方向に進展する。



 メリッ……メリメリッ!


 ひび割れ、捲れあがったアスファルト。


 その元凶たる巨大な金属が、あちこち、乾いた音を発しながら変形していく。


 ビキビキッ!ーーーーーーガコンッ!


 ひび割れの線が幾つも走り、その後、一際大きな音が響いたかと思うと、それは腕の真ん中辺りから、くの字にへし折られていた。


 「し、信じられぬ!」


 ヘルベルト・ギレが思わず身を乗り出す。


 ギギィィィ、ガギュューー!


 金属同士を擦り合わせる不快な音が響き、ひしゃげた、鋼鉄の腕は、人の高さほどに持ち上げられていた。




 「いーーーてーーーえーーーじゃーーーねぇーーかーーー!」


 片手で自身の何倍もある鉄くずを持ち上げる男、九宝くほう 戲万ざま


 「な、なんで!」


 彩夏あやかは、理不尽すぎるその光景に叫んでいた。


 「ああーーーったく!とんだ目に遭ったぜ、こんなに情けない思いをするのはいつ以来だぁぁ?」


 九宝くほう 戲万ざまは、右手一本ではあるものの、その他の傷は完治していた。


 いや、取りあえず見た目では、完治しているようには見えた。


 ーー


 絶望感に支配されるその場……



 「……して」


 呆然とそれを見つめる竜の美姫は何かを呟いた。


 「あ?」


 聞き取りづらい言葉に、戲万ざまが不機嫌に聞き返す。


 「……どうして……どうして……」


 だが雅彌みやびは、そんな戲万ざまにも焦点が合ってないような瞳で一人呟き続けていた。


 「だーかーらー、何なんだよ!」


 苛立った男が一歩、彼女の方へ踏み出す。


 どうして貴方が立ち上がるのよ!九宝くほう 戲万ざま!、あれだけ……あれだけこうくんが、頑張ったのに……頑張ってくれたのに……どうして貴方が……」


 急に堰を切ったように錯乱して泣き叫ぶ、雅彌みやび



 「あーーー簡単だろ、そんなの、俺が強くて、こいつが雑魚だからだ!」


 戲万ざまは面倒臭そうに言い捨てると、足下にある何かを蹴り飛ばした。


 「!」


 ズザァーー


 地面の上を砂埃を上げて転がる身体からだ……


 それは確かに……


 「い、いやっ!」


 雅彌みやびは慌ててそれに走り寄る、腰砕けになりながら、ヨロヨロと、それでも自身の出せる全速で。


 「この!」


 やりたい放題の男に彩夏あやかは腰を落として構えた。


 たが、こちらも強制力の影響か、フラフラと定まらない足下は覚束ない。


 「あ、あんたなんてはがねの足下にも及ばないわ!ただ強いだけ、それだけの外道よ!」


 彩夏あやかはそれでも、激しく戲万ざまを糾弾する。


 「わかってんじゃねぇか、ねぇちゃん!そうだよ、ただ強いだけ、それこそが全て!それこそが俺だ!最強の俺様が治める国、九宝くほう 戲万ざま九宝くほう 戲万ざまによる九宝くほう 戲万ざま様のためだけの世界なんだよ!それだけが、サァーーイコォーーウなんだよ!」


 そう言って壊れたようにゲラゲラ笑い転げる痩せこけた中年の男。



 「狂ってる……狂ってるわ、あんた……」


 聞きしに勝る狂人ぶりに、彩夏あやかだけでなく、その場の人間全員が言葉を失っていた。


 孤立無援、誰もが彼を擁護することは無い。


 誰にも支持されず、誰にも慕われない。


 それでも男はニヤリと満足そうにワラう。



 「さーーーてと、じゃあその狂ってる俺様に、最初に殺されたいのはだーーれだ!」


 心底楽しそうに、ギャラリーの元へ歩みを始める男、体の自由を制限されている雅彌みやび達に抵抗できる手段は皆無だった。




 「はーい!……じゃあ……取りあえず殺されるのは、九宝くほう 戲万ざまくんが最初で最後ってことでいいと思いまーす!」


 歩みを進める戲万ざまの後方で、彼の問いに答える声。


 巫山戯た声だ……。


 「……」


 戲万ざまは面白くなさそうにゆっくり振り向くと、”はぁー”とこれ見よがしにため息をついていた。



こうくん!」


はがね!」


 俺を心配してくれていた人々が歓喜の声を上げる。


 「まだ俺は、エンディング条件を達成していない……最後まで付き合ってくれよ、戲万ざま閣下」


 そう言って俺は白銀の武装兵器、焔鋼籠手フランメシュタルを構えていた。


 「……頭悪いのなぁーーおまえ、どう考えても無理だろうが!」


 戲万ざまが苛つきながら俺を睨む。


 まあ、確かにこいつは驚異的に、壊滅的なまでに、最強最悪だ。


 俺がこうして無事なのも、結局、戲万ざまがブリトラの攻撃を受け止めたからであって、そうじゃ無ければ今頃はペラペラの紙みたいになってるところだった。


 といっても二人とも全くの無傷ではないし、寧ろ直撃を受けた戲万ざまは重傷と言っても良いだろう。


 今までのダメージも合わせ、表面上は回復していても……


 それともう一つ。


 「なんだぁぁ!てめぇ、余裕かましやがって、この雑魚が!」


 「まあそう言うなって、それに、無理でも無いだろ、いっぱいいっぱいなのはお互い様じゃないのか?だから”強制力”を使ったんだろ?」


 俺の返事に九宝くほう 戲万ざまの顔がピクリと引きつった。


 この解答の根拠は単純にして簡単だ。


 通常通り戦えば、戲万ざまは、雅彌みやび達が束になっても敵わないだろう、なのに”強制力”という反則技とも言えるそれを使った。


 それは圧倒的強さを誇り、相手を嬲る事を楽しむ奴の戦い方とは相反するやり方だ。


 つまり、この事は、九宝くほう 戲万ざま自体も、これ以上敵を増やす余裕が無いことを意味している。



 「しゃらくせぇんだよ!本当に貴様は!」


 そう叫ぶと同時に殴りかかる戲万ざま


 ーーガキィィン!


 大振りの右ストレートを、俺の武装兵器が受け止める!


 ーーピシィィ!


 乾いた音を響かせて、その装甲に亀裂が入った。


 「!」


 それを目の当たりにする者達は、戲万ざまの本気の一撃に改めて驚愕する。


 天才ヘルベルト・ギレ特製のHG合金、最強の強度を誇る金属を、ブリトラの腕の場合は更に四大竜の因子を施した、黄金竜姫の竜城りゅうぐうに匹敵するとまで言わしめた装甲を破壊したのだ。


 九宝くほう 戲万ざま……まさに化け物の中の化け物と全員が再認識させられたわけだ。


 「自慢のおもちゃを粉々のスクラップにしてやるよ!」


 「……」


 勝ち誇る戲万ざまとひび割れた武装兵器、俺は無言でそれらを眺めてから 満身創痍の俺は、それでも無理に笑っていた。


 この答えも簡単、雅彌みやびが見てるからだ。


 「さあ、第三ファイナルラウンドを始めようか!」


 第二十二話「戲万ざまⅢ」END

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